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お姉さんと僕  作者: 埴輪庭
第3章

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第40話「高田馬場⑦(御堂聖、原田浩二)」

 ◆


 原田浩二という男は喋ることで呼吸をしているのかもしれない。


 ラーメン屋の話が崩壊前の池袋の街並みの話になり、街並みの話がいつの間にか原田自身の身の上話に変わっていた。聖はその変遷を注意深く聞いていたわけではなく、気づいたら流れ着いていたという方が近い。川の水がいつの間にか海に出るように、原田の話は本人の意志とは無関係に下流へと向かっていく。


「──でさあ、俺ってこう見えて元ニートなんだよね」


 唐突にそう言った。


「え」


「いやそんな驚く? 見た目通りでしょ」


 聖は返答に困った。見た目通りだと肯定するのは失礼だし否定すれば嘘になる。結果として曖昧な笑みを浮かべるという最も日本人的な解決策に落ち着いた。


「自慢じゃないけどね、ぼかぁ二十年引きこもってたんだ。二十年。いい響きだよね二十年って。石の上にも三年っていうけど布団の上に二十年だからね。親の年金は自分のものだ! って胸張って思うタイプの、由緒正しいニートだったわけ」


 ──うわぁ。


 聖は心の中で一歩後ずさった。本当に自慢じゃない。むしろ一周回って潔いとすら思えるが、潔さの方向が完全に間違っている。


「御堂くん引いてるでしょ」


「引いてないです」


「嘘だぁ。目が泳いでるよ。いいよ別に、みんなそうだし。俺だって今思い返すとドン引きだもん自分に」


 原田は眼鏡を指で押し上げて、からからと笑った。


 §


「でね、二十年もニートやってるとさすがに親もしびれ切らすわけ。ある日さ、朝っぱらからドアをガンガン叩く音がして。俺は当然無視してたんだけど──蝶番ごと外されたよね、ドア」


「え、それって……」


「うん。で、知らないおっさんが二人立ってて。引き出し屋ってやつ。知ってる?」


「はい、名前だけは」


「まあニートとか引きこもりを強制的に外に連れ出す業者だね。是非はあるけどそれはいいや。で、連れてかれた先が池袋にある派遣会社でさ」


 原田の声がほんの少しだけ柔らかくなった。


「アミダっていうんだけどね。その会社」


 聖の背筋がかすかに強張ったが原田は気づかない。


「社長が佐竹さんっていう人で。まあ見るからに反社のおじさんなんだ。スキンヘッドでさ、指が一本足りなくて、般若の刺青が入ってて」


「それは確かに反社の……」


「でしょ? でもね、いい人だったんだよ。変な話なんだけどさ。給料は安いし仕事はキツいんだけど、佐竹さんはよくご飯に連れていってくれたんだ。新しく入った奴には必ずそうしてたみたい。でもさぁ、給料がほんとやすくてさぁ」


「給料はいくらだったんですか」


「日給五千円。朝六時から夜六時までだよ、やばいっしょ」


 聖は一瞬言葉を失った。日給五千円。朝六時から夕方六時まで十二時間。時給に直せば四百円ちょっとになる。最低賃金を大幅に下回っている。


「安いでしょ。まあ反社の派遣会社だからね。でも三食出してくれたし寝る場所もあったからね」


 §


「でね、仕事は主に建築関係。っていうか解体がほとんどかな。ビルとかアパートとかの取り壊し。普通の解体じゃなくてさ、曰く付きのやつ」


「曰く付きって事故物件とかの?」


「そう。自殺があった物件とか事故物件とか。ああいうのって普通の業者は嫌がるじゃん。で、AMIDAが引き受けてたんだよね。佐竹さんが言うにはそっちの方が単価がいいらしくて。でね、曰く付きっていうくらいだからさ。出るんだよ」


「……出るって──怪異がですか?」


「そうそう、出る。もうバリバリ出る。壁ぶち抜いたら中から顔が覗いてたりとか。ポルターガイストとかもすごくって。最初の現場で腰抜かして泣いたもん俺」


 聖は苦笑するしかない。


「でもね、佐竹さんにも異能があってね。出てきたやつにバシーン! ってやるの。どういう原理かは分かんないけど、掌をかざしてバン! って気合い入れると霊がぱーっと散るんだ。お祓いとかそういう上品なもんじゃないけど。で、『よし終わり、飯行くぞ』って。かっこよかったなぁ……」


 原田の目がほんの一瞬だけ遠くなった。


「俺あこがれちゃってさぁ、佐竹さんに。二十年間誰にもあこがれなかった人間が初めてあこがれたのがヤクザのおっさんっていうのもどうかと思うけど」


 佐竹は聖にとっても無縁ではない名前だった。阿弥陀羅の元トップ。掲示板の情報ではボスに食い殺された人物。原田の口から語られる佐竹像と掲示板に散らばる断片がゆっくりと重なっていく。


 §


「──原田さん」


「ん?」


「佐竹さんに()っていいましたよね」


 原田は目を二度三度とぱちくりさせて頷く。


「うん、僕も異能があるよ」


「避難所の申告書には──」


「ナシって書いたよ。だって恥ずかしいんだもん」


 聖はその答えに疑問をいだいた。異能があることが恥ずかしいという感覚がよくわからなかったのだ。


「そもそも俺の異能じゃ警備なんかできないよ……」


 原田は禿げかけた後頭部を掻いた。


「どんな異能か知りたいって顔してるね」


「してます」


「正直だねぇ。教えてあげてもいいけど、かなりしょぼいんだよこれが。聞いてがっかりしないでよ?」


 聖は頷いた。


HTMLをクラウドフレアにデプロイして公開した設定資料?です。良かったらみてね。モブキャラリストについては多分漏れもあると思います。名前、簡単なプロフ、初登場話数(該当ページへのリンクあり)、生きてるか死んでるかみたいなのが書かれています。


①モブキャラリスト

https://onesantoboku-mob.pages.dev


②オカ研怪異ファイル

https://kaiii-zukan.pages.dev

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書 籍 化 決 定
DASH X BUNKO / SHUEISHA

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書影

お姉さんと僕
~異界東京怪奇録~

著/埴輪庭
イラスト/灸場メロ
集英社ダッシュエックス文庫

2026.4.24 (木)
発売

文庫判/292ページ
定価 990円(税込)

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 幼い頃、村はずれのお山で過ごした「お姉さん」との日々。
 引き離され、東京で暮らす高校生・聖の前に
 再び現れた超常の影──

 超常が日常を侵食する、最前線の現代伝奇。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

▼ ご予約・ご購入 ▼

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▸ 楽天ブックス

▸ メロンブックス

※一部リンクは発売日前後に開設予定です

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Web版「お姉さんと僕」を読んでくださっている皆様、
いつもありがとうございます。
書籍版では加筆修正+灸場メロ先生の美麗イラストを収録。
応援よろしくお願いいたします。

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