第41話「「高田馬場⑧(御堂聖、原田浩二、三鷹)」」
HTMLをクラウドフレアにデプロイして公開した設定資料?です。良かったらみてね。モブキャラリストについては多分漏れもあると思います。名前、簡単なプロフ、初登場話数(該当ページへのリンクあり)、生きてるか死んでるかみたいなのが書かれています。
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◆
原田がおもむろにポケットへ手を突っ込んだ。
取り出したのは石だった。
拳の半分ほどの灰色の石で、河原に転がっていそうな丸みを帯びている。聖は原田の手元と顔を交互に見た。
「なんでポケットに石なんか入れてるんですか」
「へへへ、これ非常食なんだ」
──非常食?
聖の脳は「石」と「非常食」を同じ文脈に配置することを一瞬拒否した。何かの比喩だろうかとも考えたが、原田の顔は大真面目でありかつ嬉しそうであり、つまりは比喩ではなかった。
原田はにやにやしながらその石を口に含み──ぼりぼりと噛み砕き始めたではないか。
歯が欠けないのかとかまあ諸々、疑問はいくつも湧いたが、それ以前に石ころなんてものはそもそも食べるものではない。
「うん、滋味が染みてるねぇ」
目を細めてそう言った。滋味もへったくれもない。石だ。
「これが俺の異能なのさ。なんでも食べれちゃうんだ。まあそれだけなんだけどね」
石の欠片が口の端にくっついている。原田はそれを舌で器用に掬って飲み込んだ。
§
「それは……結構、いやとても凄いんじゃないですか?」
聖は正直にそう言った。
なんでも食べられる。その五文字が意味する射程は見かけよりずっと深い。紫のドームに覆われた東京において安全な食糧を安定して確保できる人間がどれほどいるか。掲示板の情報では怪異の肉ですら食用に転用する様なご時世だ。石を非常食にできるならば、水さえあれば死なない。
「だろう?」
声は原田の後ろから飛んできた。
低く、静かで、無駄がない。先刻まで廊下の壁に背を預けたまま微動だにしなかった人影が、いつの間にか二人のすぐ傍まで来ている。足音は一切しなかった。
「だから俺はコイツを連れてきたんだ」
三鷹だった。首筋の火傷痕が段ボールの隙間から差す薄明かりに照らされて鈍く光る。
「佐竹のアニキみたいによ、あのガキに食われたらたまったもんじゃねえからな」
原田の表情がほんの一瞬だけ硬くなった。
「あいつは人間を食う。そして力を奪う。だが──人間しか食えない」
◆
「三鷹だ」
男は名乗った。
「こいつらを連れて阿弥陀羅を抜けてきた。ガキってのは阿弥陀羅の今のボスだよ。名前は知らねえ、色々偽名をつかってやがるからな。鈴木だの佐藤だの、本田だの──」
間を置かずに続ける。
「さあ、今度はお前だ。なんで阿弥陀羅の事を知りたいんだ?」
ポーカーフェイスというか鉄面皮というか、三鷹の表情は読めない。読めないが、聖は一秒とかからずにこの男の警戒の度合いを読んでいた。
警戒はしている。しかし銃口を突きつける類のものではなく、合理的な手続きに近い。質問に答えれば通される。嘘をつけば閉め出される。
この種の嗅覚において御堂聖という少年は妙に鋭かった。──もっとも本人はそれを長所だとは思っていない。相手の好意の裏側にある動機を常に探ってしまうのは臆病の副産物に過ぎない。人が何かをしてくれるのにも害そうとするのにも必ず理由がある。理由を知らなければ安心できない──そういう心の構造をしている。賢さではなく利己的な保身がこの少年の判断力の源泉であり、その事実を聖は自覚していたし自覚しているからこそ自分が嫌いでもあった。
そして今、聖は三鷹という男から似た匂いを嗅いでいた。
警戒しているから原田の雑談を止めなかった。泳がせて様子を窺っていた。警戒しているからボスの情報を一部開示した。情報を出すことで聖の反応を観察していた。
ならば自分も出すべきだろう。
──でないとフェアじゃない。
「僕が知りたいのは、救世会と合流した時に使える情報です」
聖はそう言った。
「阿弥陀羅に殺された人がいます。牧村綾香さんっていう救世会の諜報員で──僕はその人に色々助けてもらったんですけど、彼女の事は結局助けられなかった。だからせめて阿弥陀羅の情報を持っていきたいと思って」
三鷹は無言のまま聖の顔を見ていた。
「なるほど、救世会への手土産か」
間があった。
「筋は通ってるな……」
三鷹はジーンズの尻ポケットから煙草の箱を取り出して一本咥えた。
◆
「電子タバコなんてモンを吸ってなくて良かったぜ。このご時世だと充電もろくにできねぇからな」
百円ライターの火が小さく灯り、紫煙が天井に向かって細い線を描いた。段ボールの仕切り越しにCブロックの誰かが顔を出しかけたが三鷹の横顔を見て引っ込む。
「お前も吸うか?」
聖は苦笑しながら首を振った。
「俺がお前くらいの年の時は酒も煙草も女も経験してたンだけどなぁ。時代ってやつかね」
§
「まあそれはいい」
三鷹の声の温度が一段下がった。
「で、もう一つ聞きたい事がある」
煙草の先端が橙色に灯る。吐き出された煙の向こうから三鷹の目がこちらを射抜いていた。
「お前、何を憑けてる?」
聖の背筋を冷たいものが一本走り抜けた。
「うちのモンがお前にビビってる。妙なモンを憑けてるってな」
三鷹は聖から視線を外さない。
「俺にはそういうのはわからねえが──そいつは目が良いからな」
三鷹の口調は変わらず静かだった。声を荒げるでもなく、脅すでもない。だが先ほどまでの「念のための確認」とは質が違う。
これは荷物検査だ。
門番が通行証ではなく中身を見せろと言っている。開けなければこの先には進ませない──そういう圧力が三鷹の全身から滲んでいる。
何を答えて何を答えないか。
打算が聖の脳裏を駆け巡る──。




