19話 理由
19話
四時半過ぎ、宴も終わり多くの人が帰っていった。
宴が終わったが俺たちは帰ることなくこの武家屋敷のタカトの部屋にいた。
「この大きい建物が全部風間家の別荘だとは思わなかったよ」
「普段は修業で使ったりしてる別荘兼道場だぞ、修行中はここで寝泊まりすることもあるから俺の部屋もあるんだ。どうして俺の部屋に来たんだ? 着替え終わったら直ぐに俺が向かうはずだったのに」
ビンゴ大会で当たった忍者スーツに着替えているタカトがいた。
「箱尾さんが見当たらなくて、今日はとりあえずタカトの服を借りて僕たちで特訓しようかって話になったんだ。
ヒナタ君に服貸してもいいよね?」
「全然いいぞ。あっあれ、そうだよ。
俺が部屋に戻るときにマスオさんに呼び止められて、今日はこれから仕事があるからってヒナタ君の忍者の教科書預かってたんだ」
タカトはそう言うと部屋の隅に重ねて置かれている三つの段ボールを指差した。
「これ全部が教科書なのか?」
俺は一応確認の為に訊いておいた。
「いや、道場のパンフレットが入っているって言ってたな」
俺は積み重なっている段ボール箱の一つの中身を見る。
おいおい、パンフレットは段ボール一箱分も入ってんのか?、結局三箱分のほとんどが教科書なんじゃねぇか!
「まあ、忍者は実技だけじゃないからね。自然とそうなるよね。
じゃあ、早速着替えてどのくらいのレベルか測ってみようか、一緒に葵君もやってみようよ。 今日はそんなに厳しいものはしないからさ」
俺たちは定番の黒い忍者っぽい服に着替え、部屋を出て別の部屋に移動した。
こうして、俺と葵の初めのテストがが始まった
「きつい、これが忍者の修業。
なんで正座して筆記テスト受けてんだ俺たちは!」
俺は足がしびれるのを我慢しながら美冬先輩にそう告げた。
隣の葵の様子を伺うと苦悶の表情で俺と同じように美冬先輩を見つめていた。
「風間道場は学習塾も兼ねているからね、勉強は大事だよ」
「文武両道だぞ、これが出来てようやく修業に入れるんだ」
美冬先輩の隣で俺たちを見守っていたタカトが胸を張ってそう答えた。
「まあ、実際タカトは二人に感化されて真面目になるまでは勉強中に脱走して修業しているから大変だったんだよ。
毎度毎度巧みにトラップを潜り抜け脱走していたタカトが急に真面目になったことは同年代の僕らだけでなくて教師の忍者も驚いているよ。
それがきっかけでヒナタ君の名前が多くの風間道場の忍者にに広まるようになったんだ」
ピピピ……ピピピ…… タイマーが鳴ったこれでようやく終わった。
「よし、僕が早速採点するね。僕の採点が終わるまではゆっくりしてて良いよ」
「しびれたね、足が痺れすぎて立てないよ」
「俺もだ、うぎゃ」
俺が足が痺れてこけてしまうとタカトが手を差し伸べてきた。
タカトの手を借りてようやく立ち上がった。
「お疲れ、この後は体力テストだから俺も受けるぜ。
二人とも一緒に頑張ろうな」
そう言うと葵にも手を貸していた。
「いやー、さすがだね。学力は全然問題ないよ。
忍検でも一般問題は楽に八割、九割取れると思うよ。
次は実技だね、広場に行こう。 僕は先に行って準備するからタカトは二人を案内してきてね」
「わかった」
俺が車で聞き流していた箱尾さんの話の中で忍者検定は忍者の技術や専門的な知識だけでなく年相応の一般的な学力も必要だと言っていたような気がする。
実はタカトは神童と呼ばれているって聞いたけど忍者の能力あっても学力の方が問題だったのかもしれないな。
俺たちタカトの案内で運動場のような場所に向かい、体力テストを始めた。
テストは俺の思っていた物とは違い、普通のものだった。
「おい、タカトすごすぎやしないか?」
「はあはあ、確かに学校ではほんの一部しか力を使ってなかったんだね 持久走で僕らの全力疾走並の速さで走りきってたね」
「俺、あのエレガント忍者に見定められるんだけど、何を見定めるのかは知らないけど合格できる気がしなくなってきた。
初めは認められなくても別にどうでもいいと思っていたけど、認めらるなかったらどうなるかスゴク不安になってきた」
俺たちはタカトと共に短距離、長距離走をしたがタカトの能力に圧倒されていた。その他にも握力なんかでも圧倒的な差があった。
もしそんな力ももったカトリーヌに認められず喧嘩になれば勝てっこない、そんな不安に襲われていた。
「二人はどうだった、美冬ちゃん?」
俺たちの持久走が終わるより先に持久走を終わらせ近くにある険しい崖を登っていたタカトが戻ってきた。
「普通の人としてはまあまあかな、これから根性次第で、どうにでもなると思うよ」
「俺はあのカトリーヌに認められないといけないんだけど。
どうにかなるのか? 認められなかったら俺はどうなるか分からなくて不安なんだ」
「あいつがヒナタ君を認めないならなら俺がどうにかするよ」
タカトはそう真顔で言った。その顔にはいつもと違う迫力があった。
「いやそんな荒事になるのは嫌だから、僕がどうにかするからその時は任せて」
「は、はい、よろしくお願いします。美冬先輩!」
俺は最悪の場合タカトではなく美冬先輩を頼ることを決めた。
「でも箱尾さんは才能がある人しか教えない事で有名だし、逃げ出さなければ超一流への近道って言われているから急速に成長できるから僕の力は必要ないかもね」
「本当ですか!! それじゃあ俺でもタカトみたいに」
俺の心に希望が宿った、これなら俺はあのエレガント忍者をギャフンと言わせられる。
俺は笑顔で美冬先輩に言うと、美冬先輩は何も言わず真剣な顔で俺を見つめるだけだった。
「……僕はね今日ずっと考えていたんだ。君が忍者の術を学ぶ理由を。
僕は君が成長しようとする理由を知っている。
僕は君を全力で応援する、その気持ちに嘘はない。
僕たち忍者の子どもは正直家業を継ぐ為に、家族がやっているからそんな理由でやっている人が多いと思う。
でも、君は一般の出身だ。でも君は風間家の神童と出会いそして超一流の忍に才能を見込まれ忍者の道に入ろうとしている。
これは普通じゃない運命なんじゃないかと僕は思うほどだよ」
俺は美冬先輩が黙っている間緊張して喋りだすことができなかった、もしかしたらタカトも葵もそうだったのかもしれない。
「だから何だって言うんですか? 俺の理由は知っているんでしょ。
一体何を知りたいんですか?」
「小春さんの為にでしょ、でもそれだけなの? 君はぶっちゃけそれだけの為に二年生から変わろうとして長い間いろんな大変なことをしてきたね。
君は本当にそれだけの為にまだ小学二年生だった君が頑張れたの?
そして今回はそれよりもっとつらい思いをするんだよ。
はぁ、あーごめん僕の中でもうまく纏まって無いんだ。
つまり僕は君の覚悟を知りたいんだ、別にどう考えても小春さんの為って言うなら僕は何も言わないけど、他にもあるんなら君を応援する者として知りたいんだ!」
俺が頑張る理由? 小春さんの為だけじゃない?だと。
……言われてみれば俺が長い間一つの事を続けるなんて小春さんと出会う前の俺なら信じられないことだと思う。
でも今までの俺は小春さんが好きだからで納得してた、あらためて考えると俺が一つの理由で続けていることが不思議になってきた。
他の理由が無いとは言い切れなくなってしまった。
分からない、俺は今まで何の為に頑張って来たんだ。
「分からない、でも小春さんの為だけと断言できない自分がいるのは間違いない」
「そっか、じゃあ今日はここまでにしようか。
君が前へと進む理由が分かったら今度こそ鬼に弟子入りだ。
それまでは僕たちだけで特訓だね。」
「ああ、俺もそれでいいぜ。ヒナタ君が悩んでいるんだ仕方ねえよ」
「……ありがとな」
俺は教科書を風間家の別荘に預け、葵と共に箱尾さんとは違う黒スーツに家まで送って貰い家へと帰った。




