伊吹 第25話「正常性バイアスが、死んだ」
伊吹 第25話「正常性バイアスが、死んだ」
週末の朝。
麻雀集合の日。
マンションに向かう途中。
2人がいた。
「おはよう。 今日は普通に行こうな」
「伊吹、おはよう。 普通って何だろうね」
「やめろ。 その哲学を朝に出すな」
「おはようございます」
今日はコンビニでお菓子を買うことになった。
コンビニ。
店長が麗子さんに言う。
「いつもありがとうございます」
「・・・は? 普通、逆じゃね」
夕凪が補足する。
「この前から、棚や商品の配置とかを改善してるから」
「なんで客が店の設計してんだよ」
「最適化の結果です」
「助かってます」
「やめろ。 いや、今そういう時代なのか?」
マンションに向かう道。
夕凪が言う。
「伊吹って、ちゃんとしてるよね」
「まあ普通だろ」
「頑張りすぎてないなら、いいんだけど」
「正常を守ってるだけだ」
「正常とは何ですか」
「そういう話じゃない」
「定義が曖昧です」
「うるさい」
俺は大多数の正しい側と思っていた。
いつからか俺が異物な気がしていた。
***
夜。解散。
3人で夜風にあたる。
「なあ」
俺は言う。
「俺もう普通の説明やめるわ」
「え?」
夕凪が少し驚く。
麗子さんが言う。
「理性放棄ですか?」
「違う」
「普通とかの基準を決めない感じだ」
「それ、楽だよ」
「前提の普通が曖昧なので、効率的です」
「お前らの基準が怖いんだよ!」
少しだけ気が軽くなる。
俺にとって。
正常を守ることは、戦いだった。
でもこの世界は——
戦わなくても、壊れない。
流されるんじゃない。
俺も基準を変えられる側に回る。
「まあ、いいんだよ」
小さく呟く。
「良いと思うよ」
麗子さんがメモしている。
「“正常性放棄発言”と記録します」
「やめろ」
俺はもう、前ほど怒っていない。
これはこれで。
世界は安定しているんだろう。
—END—
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