伊吹 第23話「名前を付けるという最後の試み」
伊吹 第23話「名前を付けるという最後の試み」
マンション掲示板。
『白川・夕凪ユニット様
騒音トラブルが完全になくなりました。
ご協力ありがとうございました』
「・・・ユニット?」
いつの間にか“夫婦”からユニットに変わっていた。
住人同士が話す。
「夫婦って感じじゃないよね」
「たしかに」
ひかりに連絡する。
「一緒みたいなもんちゃう?」
待て待て待て。
俺だけ分からないのか。
***
『あの2人へ
最新の防災マニュアル、災害時の連絡網の作成
ありがとうございます』
「・・・あの2人」
“あの2人”という言葉で共通概念できたのかよ。
***
「なあ、お前らさ」
「これ、名前つけるべきじゃね?」
俺は2人に真剣に言った。
「概念に名前をつけるのは共通認識の手段です」
「逆に誤解、増えない?」
「お前らの関係“ユニット”とか“あの2人”とか迷走してんだよ!」
「だったら本人が決めろよ!」
その場にいた住人たちが会話に混ざる。
ひかりもいる。
「またやってる。 普通に“夫婦”でええやん」
「でも夫婦って感じでもないよね」
「なんか・・・もっと上、その先じゃない?」
「“上”とか“その先”ってなんだよ」
夕凪がつぶやく。
「名前か~・・・」
「必要性は低いです」
「でも名前ないと、他人が勝手に決めるよね」
「現状そのようになっています」
「そこ気づいてるなら決めろ!!」
夫婦:違う
恋人:違う
親友:なんか違う
ユニット:なんか長い
同居人:違う
パートナー:不正確
「全部、却下かよ!!」
「妥当なの、ないね」
「的確ではありません」
「じゃあさ、いらなくない?」
「は?」
「周りのために無理に名前付けるの、違う気がする」
「同意。 名前は、誤解の発生源にもなります」
「お互い必要性感じないなら、いいんじゃないかな」
「お前ら・・・本気で言ってんの?」
「うん」
住人が言う。
「じゃあ“あの2人”のままでよくない?」
「今の中やったら一番しっくりくるな」
「結局それかよ!!」
夕凪は麗子さんに尋ねる。
「麗子さん、このままでいい?」
「問題ありません」
「そっか」
「おいおい・・・本当にそれでいいのかよ」
誰も否定しない。
答えが出ているから。




