第1話「ゴミを完璧に分別したら、宇宙を理解して泣いた」
第1話「ゴミを完璧に分別したら、宇宙を理解して泣いた」
朝、私はプロテインを35回振った。
誤差は±5%。問題ない。
今日も世界は正常だ。
そう判断していた。
——ゴミ捨て場に行くまでは。
そこは、聖域になっていた。
私はただ、ゴミを完璧に分別しただけだ。
それなのに、人々は手を合わせていた。
***
1週間前。
ゴミ捨て場。
ゴミ捨てはすでに完了している。
可燃、プラスチック、ペットボトル、ビン、缶、紙類。
すべて分別済み。配置角度も最適化済み。
視認性、回収効率ともに最大化。
美しい。
これは完璧な状態だ。
「あらあら麗子さん、今日もきっちりしてるわねぇ」
文代おばあちゃんだ。
「おはようございます」
「こないだの野良猫がねぇ~それでねぇ~」
・・・・・・長い。
内容の68%以上が理解不能。
しかし意味があるはずだ。
私は解析を開始した。
音声、抑揚、間。速度。
視線、気温、湿度、風向き。
——統合。
「・・・・・・っ」
理解が来る。
これは、ただの雑談ではない。
時間、喪失、循環、存在。
ゴミとは何か。
捨てるとは何か。
人間はなぜ失うことを前提に生きるのか。
「・・・・・・っ!!」
涙が、こぼれていた。
処理が追いつかない。
感情が情報量を超過している。
オーバーフロー。
私はハンカチを展開する。
第一波の涙を回収。
だが止まらない。
「あらあら、どうしたの麗子さん」
「・・・・・・宇宙です」
「まぁ~」
——成立。
やはり、この帰結は必然。
その時。
「あれ、麗子さん、なんで泣いてるの?」
夕凪くんだ。
「・・・宇宙です」
「文代さんと?」
「あらあら夕凪くん。こないだの新作料理も美味しかったわぁ~」
「よかったー」
会話がまた広がる。
宇宙も膨張する。
——その様子を。
少し離れた場所から見ていた、ゴミ収集作業員たち。
無言で動きを止めた。
一人が、敬礼する。
もう一人も、それに続く。
誰かが、小さく呟いた。
「・・・儀式だ」
***
翌日。
ゴミ捨て場に、花が置かれていた。
次の日、線香。
3日目、手を合わせる人間が現れた。
1週間後。
張り紙が貼られていた。
『本日も女神、観測されました』
『祈る際は列を乱さないでください』
私はそれを見て思った。
——秩序化されている
「・・・完璧だ」
私は手を合わせた。
——この時点で、まだ何も始まっていない。




