第26話 はらぺこエルフ
「腹が……減ったのじゃ……」
目の前で突っ伏して倒れているエルフらしき少女は、確かにそう言った。
「え、あ……腹、減ったのか……」
イマイチ状況が呑み込めなかった俺は、初対面にも関わらず、自然とタメ口になってしまった。
「そこの旅人よ……ワシに、何か、食べ物を恵んでは、くれんか……!」
死にそうな声で訴えたその少女は、力なく顔を上げた。
顔の見た目も十代前半くらい……。背中には魔法杖を背負っている。魔道士だろうか。
若い魔道士……?
なのに、なんでこの子の溢れ出るオーラはこんなにババ臭いんだ……!?
話し方のせいか……!?
「どうしよう、レン。僕たち、今日の朝ご飯で全部食べちゃったよね……」
タイガが心配そうな顔で俺を見上げてくる。
おっと、そうだった。今は見た目よりも、そっちの方が重要だ。
「そうだな……残ってたのは確か……」
リュックを漁って確認すると、ニンニクがひとかけら出てきた。
何か食べ物を恵んでくれと言われて、生のニンニクひとかけらをあげるのは――
逆にかわいそうな気がする……。
だから、そうだな。
今の俺にできることは――
「ごめん、ニンニクがちょびっとしかなかった……。なぁ、タイガ。近くに水の流れる音はするか?」
タイガは耳をいろんな方向へピクピクと動かす。
「うん。川の音が聞こえる。多分、森に入ってすぐ」
「よし、決まりだ。川になら、なんかいるだろ。タイガ、その子を背中に乗せてくれ」
「分かったー!」
タイガが大きくなると、その子は「……なんと」と力なく驚いていた。
街道をそのまま辿って森へと入る。
すると、街道を横切るように小川が見えた。
小さな橋がかかっている。
「お、魚、いるじゃないか。よしよし」
『キルウェン魚』という魚が泳いでいた。初めて見るけど、鑑定眼は緑色だし、食べられるだろう。
街道の近くでは通行人の迷惑になると思ったので、川沿いに移動しながら街道から外れる。
「この辺でいいな」
携帯女神像を置いて、いつものキャンプセットを展開する。
寝袋の上に少女を寝かせて、タイガに魚を捕ってくるようお願いした。
俺はその間に火の準備。
タイガもすぐに魚を捕ってくる。
その一部始終を、少女はぐったりしつつも興味津々に眺めていた。
「……エルフのシエラじゃ」
少女がポツンと呟く。
俺は魚を捌きながら「ん? 何?」と聞き返した。
今、エルフって言ったよな?
「ワシの名は、シエラという」
「おぉ、そっか。俺はレンで、こっちはタイガだ。シエラ、もうちょっとの辛抱だ。すぐに食べさせてやるからな」
「シエラ、よろしくなー。なぁ、なぁ、レン。この魚さ、ちょっと、臭いね……」
タイガにそう言われて鼻を近づけてみると、同じ川魚である『岩山魚』とは違う、独特の生臭さを感じた。
「うわ、本当だな……。あっ、っていうか、エルフだったらそもそも魚、食わないんじゃ……!? 草食、だったり……」
俺の中では、エルフは草食のイメージだった。
しかし、シエラはゆっくり首を横に振る。
「いや。ワシらエルフは雑食。肉も魚も大好物じゃ……。しかし、この川にいる魚と言えば、キルウェン魚じゃと思うが――生臭いゆえに、この辺りではあまり食べられてはおらぬ」
「そうだったか。雑食だったとはいえ、臭い魚はなぁ……」
「じゃが、ワシはこの通りじゃ。文句は言わぬ。食べられればなんでもよい……」
シエラはぐったりとしていた。
マジで腹減って死にそうなんだ。
時間をかけずに腹を満たしてやらないと。だから、手の込んだことはできない。
でも、せっかく食べるんだから、美味いって思えた方がいいよな。
俺は急いで『食材図鑑』を開く。
よしよし、この辺に全部ありそうだ。
「大丈夫。なるべく時間はかけずに――」
絶対に、美味いって言わせてやる。




