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戦いの真相

魔界、大魔王城、大魔王の間


司祭「……やっと見つけだぞ……勇者」


勇者「久しぶりだな、司祭、十年ぶりか?」


 大魔王の間、12人の魔王がずらりと並ぶその場所で、司祭はその中央、巨大な椅子に腰を下ろす勇者を睨みつけた。



勇者「お前なら、いつかここにたどり着くと思ってたよ」


司祭「……ッ」


 司祭は顔を歪め、周囲を見渡す。


 魔王達を従えている勇者の姿に、涙が出そうになった。


司祭「お前が旅に出た後……人間界は、大変なことになった」


勇者「ああ、知ってる」


司祭「勇者教と、女神教の泥沼の宗教戦争だ」


勇者「ああ、知ってる」


司祭「ならなぜお前は何もせず! こんなところでふんぞり返ってるんだッ!?」


勇者「……」


司祭「今だって人が死んでる! 宗教なんてわからない子供まで巻き込まれてる! こんな世界を、俺達は望んだのか!? 違うだろ!」


勇者「いや」


司祭「!」


勇者「少なくとも俺は、それを望んでいたが?」


司祭「……ッ!」


 司祭は、崩れるようにその場に腰を落とした。


司祭「……やっぱり……そうだったんだな」


 司祭は、どこか諦めたように、口を開いた。


 うすうす、感じていた。


 魔王と戦う中で勇者が変わっていっていることは……


 でも、まさか……こんな…


司祭「おかしいとおもっていた」


勇者「だろうな」


司祭「……妹が6日間行方不明になったのは、勇者の力を調べるためだな」


 司祭は、答え合わせをするように、言葉を発した。


勇者「そうだ、一般人と、勇者の仲間の違いを、明確にするためだ」


司祭「……勇者は…勇者の仲間に対して、対象との距離に関わらず念じるだけで思い道理に動かすことができる」


勇者「その通り」


 女神の信徒に対しては直接声掛けが必要だが、仲間に対してはその限りではない。


 戦闘中に、悠長に命令などしてられない。そんな中でも、仲間は思う通りに動いてくれた。


 最初は、ただの連帯感や信頼感だと思っていたが。


 そうでないことは、心が砕けた僧侶を動かせたことで証明されている。



司祭「だから……本来なら知力がないスライムが、あんなに都合よく動いたわけだ」


勇者「その通り」


司祭「その時に、気が付くべきだった……」


勇者「それはどうだろうな? 気が付いてどうにかなったか?」


司祭「……信じたくなかったんだ……俺は」


 勇者の言葉を無視し、司祭は独り言のように言った。


勇者「お前なら勇者になれるんじゃないか? そこまでわかっているなら、お前も試せばいい」


 その言葉に、司祭は自嘲的に笑う。


司祭「もうやったさ……一度……試そうとした」


 勇者がやったであろう方法と同じ方法で。


 まず適当な魔物を一匹用意する。


 こちらがダメージを受けないレベルの魔物が望ましい。


 後は、密室空間にその魔物と籠り、ライガに感染するだけだ。


 一週間、ライガを感じながら、過ごす。


 やがて自分は死ぬが、それまで一緒にいたライガは魔物の体内に戻り、またその魔物からライガに感染する。 それを繰り返すのだ。



 ラルガが《仲間》になるまで




 だけど……


司祭「あんな地獄に、耐えられるわけないだろ」


 あの死ぬときの苦痛は、想像をはるかに絶していた。


 あんなもの、並の神経で耐えられるわけがないのだ。


 ライガが《仲間》になるまで、一体なんどあの苦痛を味わえというのか


司祭「……お前は……イカれてる」


勇者「だが、その苦痛に耐えるだけの価値はあるぞ」


 勇者はどこか楽しげに語り始めた。


勇者「《仲間》になったライガは、魔物だろうと人間だろうと等しく攻撃してくれるし、宿主の魔力を吸って俺に渡す、なんて複雑な命令も可能だ。そして分裂したライガには、《仲間》と《レベル》の情報が引き継がれる」


司祭「あっと言う間に、お前の《仲間》が増えていくわけだ」


勇者「そうだ、そしてライガは今や全世界の人類に感染している」


司祭「……!」


 司祭はとっさに自分の心臓に手をかざした。


勇者「無駄だ」


司祭「!!!?」


ライガ「……」


勇者「そんな微弱な魔法攻撃じゃ、限界までレベルを上げたライガを駆除できねーよ」

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