裏技
スライム二匹と共に、洞窟を利用し人工的に作り出した密室の中に、勇者は一人いた。
敵意を向け、襲いかかるスライムを防御力で無視し、勇者はひたすらに瞑想を続ける。
勇者「……ッ」
教会で目を開ける勇者。
司祭「またきたのか」
司祭は、半場呆れたように口をはさむ。
「……少しでも気を抜くと体が吹き飛ぶんだ」
勇者は、両手の平を見つめながら言った。
「……まだ期限まである。 そんな何度も死ぬほどハードな修行を積まなくてもいいんじゃないか?」
「……いや、そこまで時間はないよ、これが成功するかどうかも、まだわからないんだ。時間はいくらあってもたりない」
勇者はそういうとすぐに歩き出した。
「なぁ、魔力の出力を上げる修行に、なんでスライム二匹と引きこもる必要があるんだ?」
そんな勇者の背なかに、司祭は言葉を発した。
「…………どんな状態でも、魔力をコントロールする技術が欲しいからさ、そのうち、魔物のレベルも上げる予定だ」
「…あまり、無茶するなよ」
「魔王を倒せるかもしれないんだ、無茶でもなんでもするさ」
司祭「……」
勇者が作戦を立ててから1年半後
勇者「……」
勇者は二匹のスライムをじっと見つめていた。
一匹のスライムは、敵意をむき出しにし、相も変わらず勇者に襲いかかっていた。
方やもう一匹は死んでいた。
原型を保ったまま、ピクリとも動かず。
「……よし、まってろよ、魔王」
勇者は襲ってくるスライムを踏みつぶすと、にやりと笑った。
~~~~~
勇者は、魔王の前に対峙する。
勇者「このシュチエーションは何度目だろうな?」
玉座に座った魔王に対して、勇者はうんざりした様子で言った。
魔王「もう忘れたよ、勇者」
魔王は、どこか疲れたように答える。
「何度繰り返す気だ? お前もわかっているんだろう?」
「…ああ、わかっている、こっちの作戦がバレバレのことも…お前が手加減していたことも…な」
世界中の人間の魔力を集める、この作戦の性質上、情報の漏えいは避けられない。
「……余が、どれほど手心を加えていたか、わからん貴様ではあるまい」
「それはどうだろうな、その伸びしろを超えると俺は踏んだからこそ、ここに立っているわけだが」
「……余は、今まで人型で戦ってきた」
「…」
「この人型でいるだけで、余の魔力は、100分の1に抑えられている」
「……ほう、そりゃすごい」
「……しかし、魔結界がここまでこの世界を犯している現状、もはや真の姿になろうとも、この世界は耐えられる。 この意味が分からぬ貴様ではあるまい」
「殺さないよう手加減されていた上、100倍か、…まいったね」
「さらに言えば貴様の策とやらも、死ねば死ぬほど不利になる、違うか?」
「……はは、その通り」
この方法では、何度も魔力を供給できるわけではない。
それは、人間の信仰心の問題が、大きくかかわってくるからだ。
誰が何度も無償で自分の魔力を渡すというのだろう。
命令すれば、不可能ではない、しかし命令を繰り返すたび不審は深まり、やがて女神の信仰を捨てる者も現れるだろう。
つまり、負ければ負けるほどジリ貧になる。
「ずいぶんと、人間を研究してるじゃないか」
「…殺せば弱体化してゆくのだ、余の手心も期待できぬぞ、それでもやるというのか?」
「……勝率は、10パーセントってとこかな」




