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打つ手なし

勇者の話が終わると、場は水を打ったように静まり返った。


 皆が口を閉ざし、先ほど進み出た兵士は、あまりのショックからか膝を床につけている。


「……しばらく……休ませてほしい」


 話をする中で、皆が現状を認識してゆくにつれ、勇者は幾ばくか冷静さを取り戻していた。


「……」


「…3万人分の働きは必ずする、転移魔法で町を回り、魔物を殲滅する。ただ…魔王の討伐は約束できない…」


 勇者のこの言葉に誰も反論を挟まなかった。


「これからの予定や、詳しい作戦は、明日にしてほしい……とにかく今は……眠りたい」


王「…うむ、ご苦労であった、…今は、ゆっくりと休め」


大臣「王…!」


 勇者は、よろりと立ち上がると、歩き出した。


 その足を、止める。


「……ありがとう…父さん」


「……ッ!」


 勇者はそう言うと、また歩き出した。


 途中、うなだれた兵士を横目に見、口を開きかけたが、すぐ閉じた。


 きっとこの兵士の友も、自分を助けるために犠牲になったのだろう、そう思った。


 すまない、弱い勇者で


 その言葉を飲み込んだ勇者は、自室に向け歩き出した。


大臣「王、よろしいのですか?」


 勇者が出て行ったあと、大臣は、青ざめた顔を王へ向ける。


「……」


 王は、何も答えなかった。






勇者「……」


 城、勇者の自室。


 キングサイズのベットに腰を下ろし、闇の中、壁にでかでかと掲げられた太陽の紋章を、勇者は一人、ぼんやりと見つめていた。






 太陽の紋章、女神信仰のシンボルであり、信仰の象徴である。





 魔王城から抜け出して、1か月が経とうとしていた。


 この一か月の魔王軍との戦闘で、勇者が感じたことは、魔物が強くなっている、ということだった。


 正確に言えば、強い魔物が出る範囲が広がった。 と言うべきだろう。


 つまりそれは、魔王城を中心に展開されている結界のようなものが、広がっている、ということだ。


 だから……それは……あの魔王が、全力で活動できる範囲が広がっているということだ。

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