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アザンツ学園初等科入学式。
九歳から十五歳までが通うこの学校に、今年もまた二百人の生徒が入学した。幼等科からの持ち上がり生徒である内進生が六十人。初等科から新たに入学した外進生が百四十人。
新入生代表を務めるは、第二王子のショウ・アメストリ。
例年内進生の成績優秀者が務めるこの役割を外進生の、しかも入学式ぎりぎりに入学を決めた男がしたとあって、内進生がザワッとした。
講堂の二階に用意された付き人用の席からはその様子がよくわかる。
外進生の席に座るユーフェミア様が「ヘッ、いい気味だわ」とほくそ笑んだのも見えた。
さすがに入学式でそれ以上騒ぎ立てる者はおらず、式はつつがなく終了する。
「じゃ、行こっか」
式が終わり静寂が失われた講堂内で、隣に座っていた北橋に声をかける。
「おー」
王子の付き人として恥ずかしくないよう立派な執事服を着せられた北橋がのそり立ち上がった。本人は動きやすい簡素な服を望んでたみたいだけどさすがにね。
あ、私のほうもこれを機にちゃんとしたメイド服を仕立ててもらいました。これでまた原作に一歩近づいた感がある。
入学式が終わったら保護者はここでサヨナラであり、ここからは生徒と付き人のみとなる。講堂を出た私たちが目指すのはユーフェミア様たちの教室。
幸か不幸かユーフェミア様とショウは同じクラスとなった。
廊下を歩いていると、階段の前で腕を組んで立っているユーフェミア様と遭遇する。
「遅かったわね、何してたの」
「待っててくださったんですか。ありがとうございます!」
お礼を言うとフンッと鼻を鳴らして歩き出した。
もー、ユーフェミア様ったら式前に私が「これだけ広いと迷いそうですよね」って言ったのを気にして待っててくれるなんてお優しいんだからあ。
新入生の教室は北校舎の四階で、ユーフェミア様たちのクラスは三。
教室に入ろうとした私たちは足を止める。
三組の前にだけ異様な人だかりができていた。
「何なの、あれ」
「俺、聞いてきますよ」
北橋が人だかりに特攻する。
執事の格好をしているけれど別に執事ではない北橋は、ショウには友人感覚だがユーフェミア様には敬語を使う。
実態がどうあれショウのそばにいるならショウに恥をかかせない態度をとれと、城の人にきつく言われたらしい。私同様寒さに耐え糊口をしのいでいた北橋は服とおいしい食事と暖かい寝床に陥落し、城の人に逆らえないそうな。
戻ってきた北橋が報告する。
「ショウ王子を見に来たそうです」
「チッ」
ユーフェミア様は舌打ちをしてずかずか歩き出した。
おわっ、蹴散らす気だ。えっと、えっと。
あたりを見回して、一人困ったように教室の入り口を見つめる女子生徒を発見し、声をかけに行く。
ユーフェミア様は人だかりの最後尾に立ち、長い金髪をたなびかせて言った。
「邪魔よ、おどきなさいっ」
凛とした声。
ショウを見ようとしていたやじ馬たちは急に威圧的な態度を示してきた金髪お嬢様にあっけにとられつつも、道を開ける。
ツンとした表情のユーフェミア様、その後ろを行く北橋、そして最後に私が先ほどの困り顔女子生徒を恭しく案内して教室に入って行った。そのあとは女子生徒と別れ、ユーフェミア様の席へとお供する。
「あ、あの、ありがとうございました」
女子生徒ちゃんもお礼を言って自分の席へと向かっていった。
いやあ、これ、まるでユーフェミア様が女子生徒ちゃんのために悪役を買って出たみたいな光景じゃない? 嘘でもなんでもいいのよ。初手の印象は大事だからね。
北橋は、人の視線など気にもせず優雅に本を読んで時間をつぶすショウに声をかけにいき、なぜかこちらへ連れてきた。
「同じクラスか。一年間よろしく頼む、ユーフェミア。それとミラ」
まずは主のユーフェミア様に、続いて私にショウが挨拶をした。
「よろしくお願いいたします」
「短い間ですがよろしくお願いしますね、ショウ王子」
ユーフェミア様が立ち上がり、ショウ王子と握手を交わす。
教室の外から、王子と仲良くするあの女子生徒は何者なんだ、というような声が漏れ聞こえてきた。あ、これを狙って北橋はショウを連れてきたのかな。王子と仲いい女子を簡単には敵にしないから。ありがとう、北橋。
挨拶だけじゃなく握手までしたユーフェミア様を、ショウが意外な表情で見る。
「何か機嫌がいいな」
「あら? 私はいつもこうですわ」
嘘つき。
ここにいる三人全員そう思った。
内進生に警戒されたショウが愉快でしかたないだけですよね。
「新入生代表のあいさつ、すばらしかったでわ。急に決まったことでしょうに堂々とされて」
「人前に立つことは慣れてるからな」
「私なら内進生の方々に気後れしてしまいますわ」
嘘つけ、二回目。勝ち誇った顔で壇上に立つユーフェミア様が目に浮かぶ。
「俺も最初は断ったが元々の代表が交代を申し出たんだ」
「ショウ王子相手にでしゃばる真似はできませんものね」
「いや、あれは遠慮したというより、────放り出した、だな」
ショウが言う。
新入生代表は生徒によっては面倒なだけの役割かもしれないけど、放り出したとは?
「怠惰な生徒もいたものね」
「引きずり下ろすのか」
ユーフェミア様が考えそうなことを先回りして言い当てるショウ。ユーフェミア様は図星なのが気に入らずフンッと鼻を鳴らした。
「初っ端から生徒を敵に回すマネはやめておいたほうがいい」
ショウが至極まっとうな忠告をした。
「お気遣いどうも。ショウ王子には関係のないことでしょう」
「普段ならな。だが、入学初日の親睦会くらい大人しくしていてほしいからな」
「親睦会?」
ユーフェミア様が眉をひそめる。
ショウも首をかしげる。
「聞いてないのか。内進生と外進生の中を深めるためそれぞれ代表三人が集まって放課後親睦会をするそうだ。初日だしこちらの選考基準は入試の成績順かと思ったんだが」
三位内じゃなかったんだな、とその目は言っていた。
「へ、へー、そうなんですの。きっと先生の言い忘れですわね」
ユーフェミア様の頬がひきつる。
ショウのこの淡々とした物言いと表情、無自覚? いや、無自覚装ってあえて煽ってるんだ。ユーフェミア様に売られたけんかをシレッと突き返すとか、この二人本当仲悪いな。
「放課後が楽しみですわ」
「寮に直帰じゃないといいな」
最後に嫌味を言って、ショウが席に戻って行く。
それと同時に教師が入ってくる。
「ユーフェミア様、落ち着いて笑顔でお願いしますね」
怒りが昂るユーフェミア様に一言添えて、教室の外へと出た。
付き人にもいろいろいて、魔術指導の名目で申請された付き人は授業にも同行できるけど私たちのように身の回りの世話という名目で申請された者は教師が来るとこうして教室の外に出なければならない。中には寮から出ない付き人もいる。
生徒全員が付き人をつけてるわけじゃないから付き人の数は少ないけど、今廊下にいる人たちはみんな年上。一番若くても十代後半くらいだ。
おかしいのは、学校に通ってなきゃいけない年齢で付き人やってる私や北橋のほうなんだよね。十五歳から十八歳までの高等科はようやく進学率が上がってきたって段階だからまだ十代後半の労働者も普通にいるけど、年齢二桁いってない労働者はさすがにほぼいない。
でも、だからこそ堂々として、何かおかしいですかという態度でいく。
教室の中では三十五人が一人一人自己紹介をしていた。
何を言ってるかは聞こえないけど、生徒たちが気になるのはショウとユーフェミア様らしく、この二人のあいさつの時にはみんなが注目していた。
ユーフェミア様が何てあいさつしたのかわからなくてもどかしい。
読唇術、訓練しようかな。
全員が自己紹介終えた後は、先生からの諸注意等々があって本日は解散となった。
帰り際先生に呼び止められ何か言われたユーフェミア様は、憤怒の形相で教室を後にし、私の手を力強く握る。
「ミラ、親睦会行くわよ」
ユーフェミア様の顔がぱあっと明るく輝いた。
かわいい。
「良かったですね」
「ええ」
かわいい。




