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02

 朝目を覚まして、ベッドの上で軽く伸びをする。

 ユーフェミア様に拾われて二日目。


 …………暇だ。


 って、いけない、いけない!

 拾われた後、部屋と服と食べ物だけ渡されてほうっておかれているからといって暇だなんて、そんな。

 でも、思えばこれって高校一年生で死んじゃった前世の私が一番望んでいたことなんだよね。勉強も何にもせずに一日ごろごろしてたいって。

 だから幸せではあるんだよ。

 私の果たすべき役目とは違うけど。


 えー、どうすればいいんだ、これ。

 前世で見た漫画では確か、いや待って、これって本当にちゃんと漫画と一緒よね? 死んで漫画の世界になんてそんなことあるのか? 死んだら三途の川を渡って裁判を受けるっておばあちゃんが言ってたのに。

 やーでも、展開とか世界観は同じだし、高校で死んだのは確かだし。


 まあ漫画の世界ってことでいいか。


 そこでは確か主人公がミラに「なぜあなたはそこまでユーフェミアのために働くの?」的な質問をして、ミラは「捨てられた私を拾ってくれたからよ」って答えるのよ。

 その話が載ってるコミックの巻末のおまけ漫画でミラとユーフェミアの出会いもちょっと書かれてた。

 番外編と私が実際に体験した内容は全く同じだったわけだけど、そういえば拾われてから付き人になるまでの過程は書かれてなかったな。あれから六年でさらっと流されてたし。


 どうすればいいんだろ。


 もしかして「拾ってあげたんだから私の小間使いになりなさい」じゃなく、「拾っていただきありがとうございます。ユーフェミア様のために働かせてください」だったのかな。

 ライバルキャラの付き人なんてそんな詳しく描写されないしわかんないよ。


 と、とりあえず、このままお客様気分はまずいから何かしら行動を起こしてみようかな。


 ベッドから降りて、メイドさんが用意してくれた服へと着替える。

 暖かさを感じさせる赤を基調としたドレス。フリルはなく、腰のあたりに大きなリボンをあしらっただけのシンプルなデザインだけど結構かわいい。

 漫画の中のミラはいつもメイド服を着ていたけど、最初っからその服を渡されてたってわけじゃないのね。

 着替え終わって、部屋の外へと出る。


 さてここで問題です。ユーフェミア様のお部屋はどこでしょうか。


 そんなの知らないよ!


 ゲームなら勝手に部屋入って箪笥の中物色するから位置もなんとなく把握できるけど、漫画じゃそんなことできないもん。

 なんか角部屋よ、角部屋。

 ミラがユーフェミアの部屋をノックするコマの背景に、壁がすぐ近くにあったから。

 えっと、扉の方を向いているミラの右顔が画いてあってそのすぐ後ろに壁ってことは、ユーフェミア様の部屋は建物向かって左端にあるってことよね。


 よしっ。


 本館、東館、西館、それぞれ四階まである建物、計十二ある左端の部屋をしらみつぶしに探せばいいのね。

 じゃあまずは今いる本館から――――。


「あら、あなたどうしたの?」


 意気揚々と歩き出した私に声がかかる。


 声をかけてきたのはこの屋敷で働く若いメイドさん。

 この国は十五で働き出す人が多く、このメイドさんもたぶんまだ十代後半だ。

 十六年+九年で二十五年分の人生経験がある私だけど、このメイドさんは今の私より年上なわけで、どうしても緊張して萎縮してしまう。


「あ、あの、ユーフェミア様にお会いしたくて」


 もじもじと上ずった声になってしまった。


「ああ、お礼を言いに行くのね。でも今日はちょっとまずいわ」


 メイドさんは私の言葉ににっこりと笑った後、すぐさま困ったような表情を浮かべた。


「どうしてですか?」


「今日はナンターク伯爵様っていう偉い方がご主人様に会いにいらっしゃるの。ユーフェミア様はご子息のハワード様とお会いになられるからお邪魔しないほうが良いわ」


 なるほど。

 ハワードが会いに来るわけね。


 ハワードっていえばユーフェミアの幼馴染兼親の決めた婚約者であり、ハワード自身は親云々なしにユーフェミアに好意を寄せている。で、ユーフェミアもハワードのことを憎からず思っていて、ハワードのために悪事から手を引くシーンもあったのよ。


 高慢高飛車悪の道まっしぐらなあのユーフェミアが!


 その話を読んで、「改心したユーフェミアはこいつとくっつくのか」なんて先を想像したこともあったなあ。まあ、高慢高飛車悪の道まっしぐらなユーフェミア様は改心することなく最期を迎えちゃったんですけどね。


 いや、ホント、ユーフェミア様の悪役っぷりはあっぱれというか。


 連載長期化に伴い新たな敵が出てくると同時にかつての敵が仲間になる展開ってよく見かけるんだけど、ユーフェミア様は最初っから最後までずっと敵でいつづけた。

 ハワードの件とかミラとの出会いとか、ちょっといい人アピールの話もあったけど、それでもやっぱり敵であり続けた。


 逆に好きって声も一部にはあるみたいだけど、普通に嫌われ役だし。

 少女漫画でこれって。

 誰かとくっつくこともなかったし、最後死んじゃうし。

 少女漫画でこれって……。


 と、ともかく、ハワードなら大丈夫ね。

 ユーフェミアを正道に戻すキーパーソンだろうし、変に介入してごちゃごちゃするのはまずい。


「ユーフェミア様達のお邪魔にならないようにします。間違ってばったり出くわさないようどこに行ったらだめか教えてください」


 私が言うとメイドさんは、


「そうねえ。部屋から出ないのが一番だけど……、本館一階は旦那様たち、西館の三階はユーフェミア様たちと出くわす可能性がとても高いわ。──あ、ユーフェミア様たちはお庭にも出られるかも」


 と、教えてくれた。

 さらに、


「もし屋敷探索したくなったら東館だけでも十分楽しめるわよ。なにせあそこには────っとと、これはメイドだけの秘密だった」


 と続け、口を押えてそっぽを向いた。


 えっ、何それ超気になる。

 東館にどんな秘密が⁉

 笑ってないで教えてよ、お姉さん!


 思ってるだけで口に出せない私を見てメイドのお姉さんはひらひらと手を振って、


「じゃあ私、仕事に戻るから」


 と、去っていった。


 えー、謎だけ残して行っちゃうなんてひどい。

 東館に行くしかないって気になっちゃったじゃん。────待って、もしかしてそれが狙い?

 下手に禁止するよりよそに興味を移して子供を近づけさせない高等テク。

 やるな、お姉さん。

 おかげですっかり、棚あさって壺を壊さなきゃって気になってた。それはそれでまずいから今日はおとなしくしておこう。


 窓の外をも見れば、ちょうど客人たちが来たのが見えたし。


 使用人に案内されてやってきたのは、シルクハットをかぶった長身痩躯の男性、花束を抱えた利発そうな金髪の少年、二人の後ろを物憂げな態度で歩く怜悧な美貌をした黒髪の少年の三名。

 真ん中の子が幼少期ハワードだろうから、その前を歩いているのは父親かな。

 んで、一番後ろを歩いているのが────。


「っ!」


 黒髪の少年と目が合いそうになり慌ててしゃがみ込む。


 焦ったー!


 こっちに気づいてないといいけど。

 そぉっと、そぉっと顔だけ出して外の様子を確認する。


 あ、ダメだ。

 バッチリ目が合った。


 黒髪の少年は三階にいる私の視線に目ざとく気づいて、警戒心あらわにこっちを見ていた。

 私はため息をついてその場にしゃがみ込み、頭を抱える。


 はぁー、まさか見つかるなんて……。


 あの少年が「あそこからだれか見ていた」なんて言い出したらどうしよう。メイドのだれかだろうでスルーしてくれるかな。


 しっかし、気づくもんかね。

 窓越し三階からの視線に。

 あれはたまたま見上げたんじゃなくて、がっつり視線に気づいて見上げたって表情だった。

 本当心臓に悪い。


 でも、その警戒心のおかげで君がだれかわかったよ。


 人を惹きつける魔性の美貌と、人を凍てつかせる冷めた瞳と、世界は自分のためにあるといわんばかりの態度、それでいながら人の視線を極端に嫌う彼の名前は、ショウ・アメストリ。

 もっと詳しくいうなら、この国の第二王子で、私やユーフェミア様と同い年の男の子。


 さらにネタバレしてしまうなら、主人公の相手役で、将来ユーフェミア様を殺してしまう男だ。


「────ハア」


 深いため息が出た。

 まだユーフェミア様とまともに接触できてないってのに、厄介な奴が現れてしまうなんて。


 ────ハア。

 もうため息しか出ない。


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