聖夜の夜
聖夜の夜
その夜、サンタクロースが子供にプレゼントを渡しにやってくる。そのせいなのかもしれないが最強寒波という爆弾プレゼントで珍しく戦魔特区でも雪が積もっていた。いわゆるホワイトクリスマスだ。そんな日にだからこそ事件が多く発生する。傷害や窃盗はもちろん、クリボッチになり、孤独を味あわせるためにいちゃいちゃカップルを爆発させようと爆弾をしかけたりする輩がいるため、管理局局員は戦魔特区を見回らなくてはならない。そのため、仕事は終わることは無く、局員の間ではブラッククリスマスと呼ばれている。
この言葉を作った張本人は管理局戦略機動隊の司令室で呑気に紅茶を飲んでいた。
(またこの日がきたのね)
紅羽は大きくため息をついた。
少ししてから電話がなり始めた。また何か厄介事があったのかと不安になりながらスイッチを押し、モニターに映った人物を見る。モニターを見るやいなや紅羽は驚く。そこに映っていたのはシーラス王国 マリー=グラッド=サラス女王陛下だった。
『久しぶりね、紅羽』
「お久しぶりです、陛下。」
紅羽は思わずかしこまってしまうがそれにマリーは不満げな顔をする。
『もう、そんなにかしこまらないで』
「ごめんなさい、マリー。そんな顔しないで」
『分かればいいのよ』
マリーは紅羽の反応がおかしくてクスッと笑った。
紅羽はすかざす話を戻す。
「それでこんな忙しい日に何のようなの?」
『呑気にティータイムをしているお偉いさんに言われたくないわね』
「マリーも私と同じことをしているじゃない」
そうなのである。マリーもまたお茶を飲みながら通信していたのだ。それがどうかしたかの?という顔でお茶を飲んだ。
「それで私に何か用があるんじゃないの?」
『今日はクリスマスだから紅羽にプレゼントを贈ろうと思って』
「プレゼント?イチャラブカップルを雪と一緒に溶かしたり、爆破でもしてくれるの。それよりも……こっちの方が……」
紅羽の闇が溢れ出てくる。
さすがに見ていられなくなったマリーは精一杯の笑顔を作った。
『そう、プレゼント。昇進という名のプレゼントよ』
「それってプレゼントじゃなくてただの引き抜きじゃない」
『そうともいうわね』
紅羽はため息をつく。そしてすぐに真剣な顔へと変わる。
「それで、どういう話なの?」
『今度、軍の新しく部隊を作ることになって、その総隊長を紅羽に任せたいと思ってる』
「それってつまり...」
『そうよ。これからの世界のために』
紅羽にとっては悪い話ではない。
「分かったわ。この話に乗ってあげる」
『ありがとう、紅羽』
マリーの顔には笑みがこぼれるが、紅羽には確認しなければならないことがあった。
「いちおう確認なのだけど私の後任は誰を推薦するつもりなの?」
『まだ決めてないわ』
「そう...。なら、あの子でいい?」
少し考えてから彼のデータを見せた。あぁと分かりきっていたような顔した。
『いいですよ。またあの特区が賑やかになりますね』
「そうね。腐れきった特区を変えてくれるはずよ。それに私たちの研究のためにもね」
2人はふふふと笑った。最後に紅羽に絶対に言わなければならない大事なことを思い出した。
『今度、日本でお花見をするのでよろしく頼みますね』
「お待ちしております。女王陛下」
予想外の話が続いたがまだ幕は上がったばかりだ。
(彼がいったい何をやらかすのか楽しみですね)
マリーは吹雪に覆われた微かに見える街灯りを窓越しで眺めた。