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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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信長の死と信忠の暴走

 文禄3年、3月。

 前太政大臣、正一位平朝臣織田信長の死去を発表した。同時に明への宣戦を宣言する。

「明は父上との講和の条件を守らず、我が幕府、ひいては主上を侮辱した。よって明に対する追討令を発令する!」

「上様、無茶です!?」

 秀吉が悲鳴のように告げる。

「明は強大かつ広大です。一度や二度の戦で攻めとることはできませぬぞ?」

「なれば明の全土を討つ滅ぼすまで戦は止めぬ。主上の誇りにかけてじゃ!」

「お待ちくだされ、そもそもの国力が違いすぎます。ある程度攻め込むことはできましょうが、広大な大地にわれらは解けて消えますぞ!」

「戦う前からそのようなことを申すとは、筑前! 臆したか!」

「儂は大殿の恩を最も受けたものと思うております。よってそのあとを継いだ上様は大殿と同じと思っております。上様が死ねと命じられるならこの場で腹掻き切って見せましょうぞ」

「そうか、お主の忠義を疑った我を赦せ」

「なれば…」

「だがな、唐入りの命は撤回せぬ。筑前、そなたは幕府軍の兵站を命じる。前線の兵が確実に戦えるよう準備せよ」

「は、はは…」

「御伽衆に命ず。そなたらは御伽衆の任を解く。自国に帰り兵を動員せよ。手柄によっては明に新たな地行を与えよう!」

「「はは!!」」

 信長に敗れ、強制隠居させられたかつての敵対大名たち。元大身のものとしては北条氏政、毛利輝元、ほか今川氏真、北畠具房、島津維新らもいた。彼らは国にもどり、かつての所領でつてをたどり兵を集めることを命じられたのである。


「さて、あ奴らはどう出るかの?」

 信長は何やら楽しげな表情で秀隆に問いかける。

「何ともですなあ。だが筑前には悪い事をしました」

 ボヤキ寸前の表情で秀隆が返す。

「まあ、あれじゃ。敵を欺くにはまず味方からと申す」

「そうそう、家康はどうしておる?」

「こちらに呼び戻しておりますよ。かの御仁がいると、関東で氏政が蠢動できませんからのう」

「筑前を石山にとどめたのも同じか?」

「ええ、輝元自身はいまだ現実を見ておらず。大毛利の夢想に取りつかれておりますからな」

「哀れな…」

「まあ、島津はおかしなことはしないでしょう」

「吉川と小早川はどうしておる?」

「輝元の扇動をいさめておるようですが、元春の方が病で明日をも知れぬそうです」

「元長を帰すか」

「そうですね。両川なき毛利は恐れるに足らず」

「小早川にはどこか適当なところから養子を入れるか。隆景自身には子はおらんかっただろう」

「ですな。元長には織田の一族から姫を送り込みましたし、隆景の養子には…又十郎はいかがか?」

「ふむ、沈着なあ奴であれば小早川の気風にも合うか」

「ではそのように」


 ここで予期していたのは、毛利、北条の反乱であった。それに伴い、各地域の抑えともいえる者を中央に敢えて呼び出している。当座の対応であれば留守居のものでも間に合うし、そのようにしていた。そして火種は予想外のところから燃え上がった。

 北陸管領たる浅井家で、当主の押し込めが起きたのである。

 浅井長政には二人の息子がいた。前妻平井氏との間に生まれた輝政と、お市の方が生んだ秀政である。嫡子相続と、織田の影響を少なくしたい派閥と、織田の血を引くものに継がせ、幕府内の地位を安定させたい派閥が争っており、先日の地震で弟を失った長政は気を落としていた。そこに幕府の命が届き、唐入りなどに従えるかと、輝政の派閥が暴発したのである。

 越中も地震の被害を受けており、佐々成政はすぐには動けなかった。そこで近江から七郎信隆が越前国境を固めたのである。幕府本拠の近辺で反乱が起こったことを奇貨として、安芸で毛利輝元が反旗を翻した。呼応するように相模の北条氏直が小田原を氏政に乗っ取られた。東北では伊達政宗が独立の動きを見せているとのうわさが流れた。

 続発する反乱に幕府の権威は揺らぎ始めていたのである。

事態が動き出しました。

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