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乾坤一擲  作者: 響 恭也
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試し合戦ー決着ー

 桃配山。

「さて、大垣に小平太の手勢3000が入りましたな。ほか、赤坂の陣を半包囲する形で布陣を完了いたした」

「うむ、さすが東海一の弓取り。見事な布陣ですな」

「おだてないでいただきたい。いくさから離れて早数年、平和ボケしておりますわ」

「平和ボケしてこれならば、当家は徳川殿を敵に回さなくて正解だったということで」

「三方が原の戦を思い出すと、そのセリフは儂のだと思いますがの…」

「ははは。まあ、後は慌てず攻め寄せましょうか」

「ですな。使い番を出せ!一斉に攻撃を仕掛けよ」


 徳川勢を主力に赤坂の陣に攻めかかる。だが秀吉の作り上げた野戦築城網は倍以上の兵力をもってしてもなかなか攻め落とせない。迎撃についてはこちらも陣を固めて防ぎ、虎口には特に厚く陣を敷く。塁を凹凸に作ることで、攻め寄せた際に十字砲火を受け、被害が大きくなる。盾を持ってじわじわと攻め寄せるがすべて跳ね返される結果となっていた。だが矢も無限ではないし、こちらからの攻撃で敵も無傷でもない。家康は新手を入れ替えて、攻撃を間断なく行わせた。これにより相手の疲労を誘い、士気の低下を図ったのである。


「ったく、さすがだなあのタヌキは。こっちの一番嫌がる手を確実にとりよる」

「さすがにまずいですな。夜襲が正直きついです…ふわああああああああ」

「あくびはやめろ。兵の士気が緩む」

「申し訳ありませぬ」

「実戦だったら折檻ものだぞ」

「うひ、気を付けます」

「半兵衛は?」

「仮眠を取らせました。さすがに疲れが隠せませんで」

「仕方ないの。だがそろそろのはずなんだがなあ」

「大殿、そろそろとは?」

「ん? まあ、あれだ。隠し玉じゃの」

「そんなのいつの間に…」

「まあ、この手がうまくいけば勝ちを拾えるかもしれんな」

「あー、やっぱ家康殿は強いですな」

「あっちに秀隆がついてなけりゃもうちと楽な戦だったんだがな」

「そう考えるとあの二人が同じ陣にいるというのは恐ろしい話です」

「信玄坊主を地獄…いや極楽か?に叩き落とした取り合わせじゃからの」

「大殿、笑えませんて」


 そのころ合いでまたもや敵の攻勢が始まった。秀吉と信長はため息を漏らすと防戦の指揮を執り始めた。


「なかなかしぶといですが、そろそろ動きが鈍くなっておりますな」

「ですのう。あと1日様子見をして、総攻撃ですかな」

「うむ、それが良いかと」

 そこに使い番が駆け込んできた。

「申し上げます!背後より黒田官兵衛の手勢一万、迫っております」

「馬鹿な、速すぎる!」

「後ろ備えの忠次の兵を回せ」

「兄上がなんかやったに違いないが…」

「って信長殿はこういうことをやらかすから恐ろしいのですよ」

「申し上げます。右翼大久保勢が攻撃を受けております。旗印は金森勢!」

「ってこれか!?」

「飛騨から援軍を呼んだと?」

 飛騨国司姉小路家は、先年京に公家として戻っていた。領土は返上しており、公家としての家禄で賄うこととなる。飛騨には改めて金森長近が入っていたのである。

「たしかに、援軍を読んではいかんとは決めていなかった!」

「だからと言って普通呼びますか?」

「いかんとなってなければ兄上ならやる。勝つためなら手段を選ばない」

「ああ、確かに…」

「とりあえず大久保勢に手当てを…」

「申し上げます! 赤坂の陣より敵が打って出ました」

「いかん、逆に包囲されておる。本隊を移動させねばならんな」

「なれば前へ。敵の本隊がせっかく堅固な陣を出てくれておるのです。向こうより多い兵力はこのように使うものですぞ」

「たしかに。なれば全軍前へ!」

「「「おおおおおおおおおおう!!」」」


 家康本隊1万は山を下り、赤坂の陣へ向け突き進んだ。ただ惜しむらくはあまりに急な進軍であり、陣列に乱れがあったことだ。そしてそれを見逃すほど甘い相手ではなかった。

「かかれ!」

 秀吉配下の蜂須賀隊が半兵衛の采に従い横槍を入れた。これにより進軍がせき止められる。秀吉軍最古参の部隊だけあって強い。横槍とはいえ徳川本隊と互角に戦っている。そして前衛を突破した秀吉本隊とぶつかる羽目になった。

 包囲するために兵を配置したことが裏目に出た。前衛を一気に突破されると本隊周辺に兵がいない。だが兵力はほぼ互角、であれば負けはないと家康は読んだ。

「平八郎、行け!」

「はは!」

 徳川の先駆け、本多忠勝が前衛に向け突撃を仕掛ける。これにより敵の機先を制したと思ったが一つ誤算があった。可児才蔵という武者の存在である。

「おぬしが本多平八郎か、わが名は可児才蔵。一手御所望いたす」

「小癪なり、行くぞ!」

 ここで派手に一騎討ちを始める。そして内容は全くの互角であった。となると徳川方に分が悪くなる。平八郎は指揮官としても一級で、そこを一騎駆けの武者に止められては、彼の手勢の指揮が執れない。事実上本多隊を無力化してのけたのである。そこに宮部継潤の指揮で一気に兵力を叩きつけてきた。

「いかん、平八郎を下がらせよ。というか、なんであいつは一騎打ちなんぞしておるのじゃ!?」

「前に出る。後は頼む!」

 秀隆は家康に全軍の指揮を任せ…そもそもこれは徳川軍であったが、前衛の指揮を掌握した。槍衾を敷き宮部勢の突撃を受け止める。何とか持ちこたえたところで、兵の動揺に気付いた。桃配山から黒煙が立ち上っている…本陣が落ちた。

 事ここに及んで、徳川軍は兵をまとめ大垣に向け退却を始めた。体制を整えて反撃も考えたが、まずはこの窮地を脱しないといけない。そして兵をまとめていると一つおかしなことがあった。後ろ備えの酒井勢が無傷であったことだ。

「忠次、何があった?」

「いえ、我らは黒田勢とみらみあっていたのです。こちらから仕掛けるには兵が足りず」

「やられた、あののろしは偽物だ」

「なんと?!」

「桃配山は今頃本当に落とされているだろう」

「なんという…」


 こうして徳川軍は再編成ののち攻撃をしたが、兵力差がかなり詰まっていたため、期日までに突破は失敗に終わった。

 戦場には信長の高笑いが響き渡っていたという。

どっちもどっちのペテンな戦でした。

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