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プロローグA  作者: 一ノ瀬樹一
第壱話 『八久慈区誘拐事件編』
7/10

二十二時三十八分

 七ヶ崎の説明で、俺達がこれまでに体験した不思議な現象については理解することが出来た。

 というよりは、納得がいった。

 石を弾丸のように飛ばすのも、ビルの壁から突然現れるのも、ギフトと呼ばれる能力によるものだった。

 世の中には、不思議な現象が多数存在する。

 俺みたいな凡人にとっては、皆目見当が付かない世界だ。

 

 とにかく、当面の問題は、いかにこの場を脱するかである。

 こう言っては悪いが、こんな連中とは関わりたくないのが、凡人である俺の意見だ。

 しかし、逃げるにしてもどうすればいいのだろうか。

 七ヶ崎には、何か考えがあるのだろうか?


 「話は解かった、ところで七ヶ崎、ここをどうやって逃げるつもりなんだ?」

 「それについてなのだが、畠瀬を先ほどから呼び出している。奴のギフトがあれば、この場を突破出来るのだが、一向に繋がらない。何あったのどろうか?」


 畠瀬という男に対して、七ヶ崎は全幅の信頼をよせているのだろう。

 実際に畠瀬公彦を目の当たりにした俺からすれば、納得のいくことだった。

 ギフトにしても、あの合気道のような体術にしても、弁財のような奴にやられるはずがない。

 油断が招いた悲劇というべきなのだろうか・・。

 どうやら、七ヶ崎は畠瀬が死んだことを知らないらしい。


 「七ヶ崎、落ち着いて聞いてくれ。畠瀬は、弁財によって殺された、だからもう来ないんだ」

 「・・・・・そうか」


 一瞬、七ヶ崎は悲しい顔を見せたが、すぐに冷静な表情に戻り「そうか」とつぶやいた。

 その言葉に、俺は冷静よりも冷酷さを感じた。

 仲間が死んだこの状況に、こうも人は冷静でいられるのだろうか。

 冷静で冷酷で冷徹な女。

 七ヶ崎千尋に対しての印象は最悪なものとなった。


 「では、いささか本意ではないが、お前達にも協力してもらおう」

 「はあ?」

 「どちらにせよ、このままではお前達も殺される運命だ。協力してもらおう」

 「う・・」


 確かに、この状況を打開する戦略も力も持っていない。

 仮に相手が普通の人間ならば、俺達だけでも十分に対処出来る。

 しかし、相手はギフトを持っているあの弁財なのだから、そういうわけにもいかない。

 もともと、俺達に選択の余地はないのだ。


 「それで、協力って何をすればいいんだ。俺達には、ギフトはないから、お前のように真正面からは戦えないぞ」

 「解かっている、君達には囮になってもらいたい」

 「囮?冗談じゃない。俺達を殺す気か!」

 

 やはりこいつは信用できない、こともあろうに、俺達に囮になれと言っている。

 

 「まあ、そう興奮するな、考えがあってのことだ。弁財の石の弾丸は、威力は高いがその分精度が低い。つまり、動く的に対しては脅威とはならないのだ。君達に囮となってもらって、弁財の注意を逸らしてくれれば、後は私が何とかしよう。どうだ、異論はあるか?」

 

 「ちょっと待てよ、もしも、お前が裏切ったら俺達はどうなるんだ?弁財の注意を逸らしている間に、お前が逃げることも出来るだろう!」


 「これに関しては、信じろとしか言えない」

 「信じろって言われてもな・・・」


 正直に信じることは出来ない。先ほどの件で、七ヶ崎に対しての信頼は俺にはない。

 こいつならば、俺達を本当に囮にして逃げるのではないのかと思ってしまう。

 

 「解かった、信じるよ」

 

 七ヶ崎の作戦にOKを出したのは、以外にも冬司だった。

 冬司を連れて、七ヶ崎から少し離れた。なんてことはない、作戦会議をする為だ。

 

 「冬司、どういうことだ?こいつを信用するのか?」

 「信用するしないじゃないよ、他に俺達が助かる道はないだろう。だったら、この作戦にのるしかないだろう」


 確かに、他に助かる見込みのある作戦はない。

 そもそもが、俺達に選択の余地はないのだ。

 それに、これはもしものことだが、俺達が囮として機能しなかった場合、ピンチとなるのはむしろ七ヶ崎の方だ。

 ある意味、どちらにとってもリスクが生じるのなら、冬司が言うようにこの作戦のるしかない。

 

 「解かったよ冬司、囮になるよ」

 「そうか、死ぬんじゃねえぞ」

 「冬司もな」

 「当たり前だろう!俺は、こんな所で死ぬわけにはいかない。コックになって自分のレストランを開くまではな」

 

 そうだった、冬司には進むべき未来があるのだ。

 こんなことに巻き込まれて、死ぬわけにはいかない。

 冬司の為にも、成功させようと心に誓った。


 しかし、その誓いは容易く打ち砕かれることとなった。


 冬司の背中の方から、弁財が飛び出して来たのだった。

 当たり前のことだ、俺達が突破口を模索する間、この弁財が黙って見過ごすわけがない。

 奴は俺達が作戦を練っている間に、距離を詰めていたのだった。


 奴の放つ石の弾丸が、冬司の体を貫く。

 血が飛び散り、内臓の一部が姿を現し、冬司の体を無残な姿へと変えた。

 もちろん、俺もただでは済まない。

 冬司を貫いた石の弾丸が、体のいたるところに突き刺さる。

 作戦は失敗に終わった。


 薄れゆく意識のなか、七ヶ崎が応戦して弁財を退ける姿が確認出来た。

 

 どうやらこのまま、俺は死んでしまうらしい・・・。


 


 

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