彼と彼女の、牽制とアピール。―5―
すいません、投稿してた気になってましたが最終話です。
申し訳ない。
「そういやホシノ、進路どこ?」
「おかべくん。おはよう。進路? ○○大学の経済だけど」
「は? ソコ偏差値高くねぇ? 行けんの?」
「行くー。私ね、大人になったら会社の経理の人になるの」
「……それならそもそも、商業高校に行けばよかったんじゃ」
「おぉー! おかべくん頭いいよね! うん、私もそう思ってたんだけど、両親が普通課からの進学じゃないと、って力説してたからさぁ。そうしてみた」
「きなこちゃんってさ、自分の進路なのに素直だなぁっていうか、何も考えないようでいて意外と頑固なのか、むしろ判断に迷う子だよね……」
「あ、おはよう、あんどーくん! だってお金を出してくれるのが親だもんね。私は、したいことが最終的にできればそれでいいよ」
「したいこと? ホシノ、なんか夢があんの?」
「あるよ。おかべくんにはないの? 私ね、おばぁちゃんになったときに縁側で本を読みながら孫と遊んで猫とお昼寝するの!」
「…………うん?」
「おっはよー、きなこ。なぁに? またアンタの夢、力説してんの?」
「おはよう、まいちゃん!!」
「タカハシに対してのテンション高すぎねぇ? ん、タカハシも、おはよう」
「おはよ、あんどうくん。ね、いったい何がどうなってきなこの定番の将来設計を聞いてんの?」
「あ、定番なのか。だってよ、おかべ」
「おかべくんが聞きたがったの? きなこ、朝から濃い話してるのね?」
「んー。何の話からそうなったのか、あんまり覚えてない。でも夢は語ってみた」
「……で、ホシノの夢と進路と将来設計って繋がってるのか?」
「つながってるとも、おかべくん! いーい? 私は、生活が安定したおばあちゃんになりたいの」
「あぁ? あぁ」
「だから手に職をつけて、喰いっぱぐれのないように就職するの。途中で休憩が入ってもいいように、事務のエキスパートになるのさ」
「…………うん。事務なら会社がある限り就職口もあるかも、だからね。……なんか、えらい即物的っつーか堅実だよね、きなこちゃん」
「って将来をねぇ、おばあちゃんと昔、話し合って」
「重いな、おばあちゃん!」
「……ホシノ、途中休憩ってアレか。…………け、……」
「うーん? ネックはとにかく、結婚よりも出産だよね。ここを歯ぁ食いしばってでもクリアして、家を建てて、孫ができるように自分の子供をなんとか育て上げて、リタイアしても本が読めるくらいの収入と余裕が……猫も買いたいってすると余分に貯金がいるし……」
「きなこ。アンタ、私は毎回つっこんでる気がするけどね。その夢、恐ろしく現実的なように見えて最初の一歩、アンタの恋愛と結婚が抜けてるから」
「だよねぇ。もんだいは、そこなんだよねぇ……」
「は?」
「……おかべに同情しそうになるなんて初めてかも。おれ」
「そんなに長いあいだ、働けるのかなぁ」
「それよりきなこは先に、彼氏が見つかるかどうかの瀬戸際でしょ。って、いっつもこの結論じゃないの。将来設計もいいけど、目の前の一歩を踏み出すために、男の子と……えっと、あの」
「お付き合いかぁ。そこ飛ばすわけには」
「いかねぇだろ、ホシノ。……あぁまあいいや。ん。なんとなくわかった」
「え? わかったのおかべくん! やっぱり精子バンクかな!」
「せ……っ、き、きなこちゃん……なんつー言葉を」
「や、……いーや、ホシノ。いいか、ちょっとだ。ちょっとしか待たせねぇから。待ってろ」
「? う、はい」
「っあーー。違う。今、待ってろって言ってるわけじゃなくてな。お前の言ってることを全部叶えられそうになったら俺が声かけるからってこと」
「?……うん?」
「「………………勇者だね、おかべ」くん」
「勇者? おかべくん、…………まさか」
「ああ。お前の夢、なんとかするから。おれが。絶対」
「すごいよ! なんか、科学とか遺伝子とかの進路に進むんだね! おかべくん、頭いいもんね! そっか、研究者か!!」
「……は?」
「「…………だよねぇ。きなこ(ちゃん)だもん」」
「…………あぁぁぁぁぁ。とにかく、だな。待ってろ。いいか? ホシノ」
「おっけー! ついでに無痛分娩をもっと世間に広めてね!」
「そ、れは……少しハードルが、高いと思う」
「…………私、今日、初めておかべくんに同情したかも」
「おれ……おれはちょっと悔しいかなぁ。タカハシにこれからインパクトある言葉をかけようと思っても、これ以上のってなかなか、なくない?」
「なくないってなにが? ……あんどうくん?」
「ん。きなこちゃんも大概だけどね。タカハシも俺に言わせれば大概だよねって話。ね、ところで気になってたんだけど、今日の数学タカハシ当たらない? 大丈夫?」
「! やだ! ほんと、今日はあたり日だわ! きなこ! ちょっと、ねぇ聞いて!?」
「うーん? なに、まいちゃん」
「ところでおかべ。俺が思うにお前も俺も前途多難だわ。ちょいと組もうぜ」
「……だーな。それが最速だろう」
また明日、と言ってから今日が何日目だか知ってますか、朱里さん。
…………ごめんなさい。
……いえ。謝ってほしいわけじゃないんです。ただ、明日には会えるかなぁとか思ってたのが残念だったってことだったり、朱里さんが珍しくメール遅延してまで返事をくれなかったあいだに、僕がずっと会いたかっただけなので。
…………も、もうしわけも。
……僕の方がネチネチと言いすぎですね。ダメだ、やっぱり苛々します。朱里さん、すいませんでした。アンタに会いたくて、それでも会えなかったから拗ねてるんです。ね、ちょっとそっちに座ってもいいですか?
は? こ、コノワタくん?
あれ? いや先日に僕、ガチで行くって宣言したと思ってたんですけど。伝わってなかったですか? 手をつなぎたいんです、朱里さん。
手?! いや、手?!
……手じゃなくて最初からもっと近くに行ってもいいんでしたら、そうさせてもらいますけど……。
はい! コノワタくん、こんな手で良かったらどうぞ!!
ありがとうございます、朱里さん。ところで今日は何を食べますか? そろそろこのお店のデザートプレート、完全制覇じゃないですかね。
うっそぉ! もうそんなに食べたっけ?! あ、うん、でもこれもこれも、これも食べたか……確かに、そろそろ完全制覇だね。コノワタくんと毎回シェアして、た、から……。
朱里さん、顔が赤いです。どうしますか? 食べたことのないもののオーダーでいいですか?
うぅ……よく考えたら私、コノワタ君とずっと『あーん』とかしちゃってたんだ……う、……ぅんっ? ちょい待ち、この状態でケーキ来たら、またその流れになるんじゃないの?!
シェア一択ですから。食べさせてくださいね。いつもみたいに。
……コノワタくん、もしかして、今、私にすごーく意地悪してる?
……ん。はい。……すごーく、じゃないですけどね。朱里さんが僕を意識してくれるまでは、そして、今までも似たようなことずっとしてるって、思い出してくれるまでは続けようかと思ってました。
……そ、そっか。これ、こんなこと、確かに続けてたか。
はい。僕が、それこそずっと『彼氏アピール』してたのも気が付いてませんよね? だから
ちょ、はぁ?! 彼氏アピールぅっっ?!
し て ま し た 。はぁ。もぅねぇ、好きですよ、朱里さん。アンタがかわいくて、漫画の世界かってくらいに見たことも聞いたことのないレベルで鈍くても、僕としては良かったんです。僕以外に、誰かがこの距離まで踏み込まなきゃね。
…………。
あのね? 僕は、僕以外の男が朱里さんに近づくのを、許した覚えはないです。朱里さんがニコニコしながら美味しくご飯を食べたり、ケーキを食べたり、幸せそうにするのなら、いつだって僕がそこに関わっていたいんです。
こ、コノワタくん、重すぎないかな? ソレ。
ですね。ぶっちゃけると僕、普通の人よりも濃いですよね。恋愛観。
恋愛観っていうか、一歩間違えると束縛系じゃないのかな?! ちょい怖いっていうか。
うーん。高校生のくせに将来を予約しちゃうおかべくんよりは、現実に踏み込むのを待ってた僕の方が我慢が効いてますけど?
は? おかべくん? あ、……ああ、きなこちゃんの?
はい。朱里さんは? アンタの夢には僕が関われる余地、ありますか?
よ、余地っていうか……。コノワタくん、近い、近いから!
あのね、ずっとアンタの唇が柔らかそうで、けど理性で触るの踏み留めてた僕を止めたきゃ、ですよ?
ひゃ、ひゃい!
馬に蹴られても引く気はないし、草津の湯でも治せない長期の病気なんです。アンタが、朱里さんだけがこの熱を下げられるんだって、思ってる僕を
止められる気なんて欠片も湧いてこないよ! コノワタくん、いいからもうちょい離れて!!
…………ふふん。いいですか、朱里さん。今すぐ、さぁ、矢でも鉄砲でも打ち込んでください。それができないなら。
矢でも鉄砲でもっていうほうがリアルだよ! なんなの、物理的に止めないとコノワタくんが止まらないってことなの?!
いいから黙って。僕にキスされてしまえばいいんです。ほら。……好きです、よ。
……朱里さん? あの、
…………こ、コノワタくんの馬鹿野郎っっ!! こ、このお店にもう来られなくなっちゃったよ!! もう、ばーかばーかっっ!
「……お客様。差し出がましいようですが、あの方に逃げられるのはこれで三回目じゃないですか? そろそろ次回がないような気がしますけど」
「ありがとう、店員さん。だけど次は逃げないと思うよ? だってこれから、僕があの子のおうちまで行って捕まえる予定だし」
「…………では、こちらのケーキセットを持ち帰りにいたしますので少々お待ちください。それから、私どもは決して不愉快に思ってはおりませんから、と」
「……ふぅん? ありがとう。サービスのいいケーキ屋さんだ」
「………………わたくしには嫁がおりますので。誤解なきようお願いします」
「あ、そう? そうですか。なら構いません。じゃ、お勘定をお願いしていいですかね?」
「……店長。面白い方たちでしたよね」
「面白いか? 俺としてはどっちかっていうと、かわいそうだったけどな」
「どっちがですか?」
「……どっちがだろうな。ま、いいか。さて次のお客さんだ」
……えっと、ちゅ、ちゅーまでしかお外ではしてません。
なんだよ私のほうが腐れ照れるよ。畜生。
なんてこった。




