彼と彼女の、牽制とアピール。―4―
「ホシノ、これやるから口、ほら開けろ」
「あ、おかべくんだー。おはよー。うん? 今日のはなぁに?」
「……季節限定アップルシナモンのスナック菓子。好きか?」
「……んんんん。美味っしい!! カスタードの味とも、すっごく良く合ってるよ。当たりだね!」
「そっか。……ホシノ、次はなんか食べたいものとかある?」
「ない。っていうかさぁ、おかべくんはどうして私にいろいろくれるの? 私はとてもうれしいけど、お財布に負担じゃない?」
「負担、は、そんなにない。…………ホシノの食べる顔が見たいから、だな」
「…………えーとおかべ、とりあえず突っ込むけど、朝っぱらからきなこちゃんにナニ言ってんの?」
「うぃっす、あんどー。いやいやお前に言われたくねぇな。わざわざ教室の角っこに席を取ってるお前にはな」
「いやいやこれは、たまたまだから。高校生の羞恥心を吹っ飛ばしてるお前にはわかんないだろうけど」
「おかべくんも、……あんどうくんも、おはよう。きなこも」
「あ、まいちゃんおはよう!! 見て! おかべくんの今日の戦果はね、美味しいの!!」
「きなこ……味の説明はどこに消えたの? 商品名は?」
「おっはよーっす、きなこちゃん、まいちゃん、おかべにあんどー。なになに、何食べてんの? あ、新商品だ!」
「「……っす、かなた」」
「あ、……かなたくん、おはよう。あのね、これはおかべくんの戦利品でね。食べる?」
「きなこアンタ、さらりと今ので名前を憶えてんじゃないわよ。え、ちょ、かなたくん?!」
「……った、つか、ちょい痛い……。や、俺も食べたかったんだけど……おかべ、勢いよくどつきすぎじゃね? さすがに」
「おかべくん? かなたくんが横から手を出したの、そんなにダメだったの? あ、……あ、じゃあ私のをあげようか、かなたくん」
「もっとダメだろ。ホシノは喰っとけ」
「うん? う?」
「………………あ、そう。そういうこと。あー。……えーと、き、ほしのさん、俺、欲しいのはさ、購買に行って買ってくる。気にしないで?」
「え?! かなたくん?」
「……えーと、きなこちゃん? 気にしなくていいからね? タカハシも、ほら、座る。おかべのお菓子だけど食べる?」
「あんどうくん……今のを見て、私にきなこのお菓子、横取りしろって……」
「まあまあまあ。おかべはおれがいなしとくからさ。はい、あーん」
「「「あ?!」」」
……あの、朱里さん。僕の眼、見てほしいんですけど。
うん。ん…………あ、あのねコノワタくん。ごめんね、この間。
…………それは、何について謝られたのか、聞いてもいいですか?
え? こ、コノワタくんちょっと顔が怖いよ? う、ん。その、えっと、この間さぁ、お店のお金も清算せずに走って逃げちゃって……。あんなふうに後に残されて、いたたまれなくなかった? なんかこう、あのお店が次に使えなく
そこじゃないですよね!? 店は、まあいいんですよ朱里さん。僕としては、ど う し て ! どっかにいっちゃったのか聞きたいんです。
……う、うぅ。……わ、笑っちゃいやだよ?
はい。
ぜ、ぜったいに、馬鹿にされてもヤだ。
珍しく念を押しますね。なんなんですかねぇ、念を押された方が不安になるとか。
……うぅ。これが逃げた罰なのかな。ん、その、こ、コノワタくんがね、わ、たしを、す、……その、なんだな、えっと、アレだ、そうつまりアレな感じかと、こうなんていうか、誤解したっていうか。
…………朱里さん。大変申し訳ないんですが、もう一度、説明してもらってもいいですか?
っええええ!? は、ハードル高すぎるよ?!!
………………そうですか。はぁ。じゃあ、それなら僕がまとめますよ。あのね、先日の話し合いの時に朱里さんは僕の気持ちが朱里さんにあると思った。それは……え? それは誤解だと思ってるんですか? はい?
あ、そ、その言い方だといいね。うん。それだ。えっと、なんかねぇ、コノワタくんが女の人を大事にするのをね、ちょっと大げさにとりすぎちゃったみたいで……ごめんね。今はもう、きちんと教えてもらってて誤解は解けてるから。理解してるから。
はぁっ?! 何が誤解でどこをどう理解されたんですか?! っていうか、……え? 教えてもらった? どなたから。
どなたって……会社の人だよ。いつもお菓子くれる人に相談……うーん、言うつもりはなかったんだけどね。なんか、食べ物をくれるときの……こう、餌付け? 餌付けの絵面がコノワタくんとかぶって躊躇してるうちに、どうしてだか見てきたようにこの間のコノワタくんとの会話を再現されてさぁ。食べさせ合いだとかいうのは、そんなの俺とでもするでしょ? って。で、俺と……えっと、その人と色っぽい雰囲気になってないんだから、そいつ……コノワタくんだね、コノワタくんも大した重さでしでかしてないよ? みたいなことを
朱里さん。
は、……はい。
ちょっと、僕はよくわからなかったんですけど。どうして朱里さんはその方から餌付けされてるんですか。
は? え、餌付けっていつの間にか、なんとなく、私の意志はあんまり関係なくない?
んーん? ちょ、……ちょっと待ってください、朱里さん。僕、ある程度は覚悟してたんですけど予想よりも踏み込まれてますよね。餌付け、もしかして一人の人からしかされてないんですか?
……コノワタくん、最初に使った私が悪いんだけど人様の好意だから餌付けはどうかと……や、うん? 私にお菓子を無償でくれるのはその人だけだね。
あかりさん。
ん?
朱里さん。すみませんでした。僕が悪かったです。ガチで行くんで、聞いてください。
え? 移動? どこに?
好きです。朱里さんが、もうずっと、学生の時から好きです。付き合ってください。
……は?
言わないと通じないどころか、よその男にそこまで踏み込まれてるなら、待ちませんし焦ります。だから急だと思うでしょうけど疑わないでください。
ちょ、コノワタくん? 手、手が重なってるよ?!
重ねてるんです。朱里さんが好きですから。もっと近くに行って触りたいんです。もう、ずっと。ずいぶん前から。
……ちょ、ちょっと待って。まって、意味が
わからないのは、僕がごまかされてあげてたからです。朱里さんが本当にかわいくて、もったいなくて我慢してました。ここまで待って挙句にさらわれるのを待ってたわけじゃないんです。
…………。
わざわざきなこちゃんの前を通る席をあんどーくんが選んでるのは、きなこちゃんのそばに行けば、自動的にまいちゃんともお話しできるチャンスが増えるからです。僕だって朱里さんと会いたいし、たくさん話がしたいです。朱里さんの、時間が欲しい。
う、あ、あの。
おかべくんがお菓子を上げるのは、きなこちゃんにだけです。同じように、僕が食べさせたいのは朱里さんにだけ。朱里さんが食べていいのは、僕からのものだけです。……朱里さん、ダメです、溶ける前に聞いてください。
……ひぃ、うぅ。こ、このわたくんが、おとこのひとで、こまる……。
どうして困るんですか? もしもドキドキしてもらえるのなら願ってもない展開です。もっと僕を意識してください。朱里さんを好きだって言ってる僕を、男だって認識して?
…………。
……そんなふうにプルプル横に振っても、鎖骨まで真っ赤になってても、涙目でも僕は我慢できますけどね。あれ? 同僚の方にはそんな顔、見せてないですよね?
み、見せるわけっ、ちょ、ああもぅ、コノワタくんっ! めん、今日のところはもうこれで勘弁してくれないかなぁっ?! 心臓が痛くて、い、息もできなくてっ!
……ああ、僕が手を握ってるから? だから逃げられないんですか? ……朱里さん、ほんと、何回も言いますけど誰にもこんなふうに
さ、させないからっっ!! ああっ、えっと、そのっ、ま、また明日っっ!!
…………また明日、ですって。朱里さんたら。あーもー、ああもう、くそったれに可愛いっての。




