彼と彼女の、牽制とアピール。―3―
ペースが速いのは、お月様で短期集中連載してる分に合わせたからです。
「ふぅ、やっぱりアレだね、まいちゃん。お茶は熱いか冷たいか、どっちかがイイね」
「きなこがそう言うって、つまりその水筒に入ってるお茶は常温なの?」
「……なんていうか、生ぬる~い紅茶だよ。風味も飛んで生温かくて、うぇーす、最高ッスよ!」
「テンションというかキャラが違ってきてるから! もう、仕方のない子だなあ……って、そんな子には!!」
「あ! それ!!」
「そう! 今日から発売、登校途中で買ってきた! 溶けない生チョコ!!」
「おぉぉぉ?! まいちゃんすごい! コンビニに制服で行くなんて!!」
「…………ねぇちょっといい? きなこちゃん。タカシマのお菓子は美味しいだろうけど、……いやいやそんな、横取りしようとか思ってないから。そんな悲しい顔しなくても。や、そうじゃなくて通りすがりにごめんね? でもって教えて?」
「あんどうくん? きなこさぁ、買い食いするならココって決めてるお店があるんだよ。っつか聞く限り」
「お母さんとお父さんが、制服で寄り道するような子は悪い子になるっていうから」
「きなこちゃん?! 現役女子高生の言葉とも思えないんだけど!?」
「おこづかい、全部本に消えちゃうから」
「…………うん?」
「ほらね、あんどうくん。真面目に聞いちゃダメだよ。きなこはね、もらってるおこづかいをぜーーんぶ本につぎ込んじゃう子なのね」
「……それは…………なんとなく、想像が」
「だからおじさんとおばさんが心配して、何に使うか説明してからじゃないと一定額以上はお金をもらえない仕組みになってんのさ。一回、おうちに帰ってからじゃないと買い食いにさえ行けないんだよ」
「………………壮絶だね」
「まぁね、自分でもそう思うー。……あんどうくんも、笑わないんだね」
「きなこ?」
「おかべくんもね、笑わなかったの。友達だと似るのかな?」
「そ、それはきなこ、多分おかべくんにとって笑えるとこがなかったからじゃ……」
「それもそうか。そだね。そうかも」
「や、違うと思うよ? だっておかべ、見てる限りこの間からきなこちゃんに餌付け」
「ホシノ? あぁ、もぅ喰ってんの? 新商品だって書いてたから買ってきたんだけど……、タカシマから?」
「ぅわっっ!? おかべくんもくれるの? ありがとうっっ! うれしいな!」
「パンのついでに買ってきた。ほら、口あけろ」
「……っん、んっっ!! みんな優しいねぇ!! 美味しいね!!」
「…………あんどうくん、ちょっと私、知らなかったみたいなんだけど……。おかべくん、いつからきなこに餌付けしてんの?」
「あれ? タカハシは知らなかったの? ……あぁ、じゃあガチかぁ。ふーん。…………ね、タカハシ。おれにもちょーだい? 溶けないチョコ」
「……ん? きなこの食べ方、見てたら欲しくなっちゃうよね。いいよ。はい」
「ありがと」
「みんな大好き! お菓子、ありがと!!」
「ん、マジでけっこう美味しいね。はい、もう一個。口、あけて?」
「まいちゃん、ちょーだいすき!!」
「私も好き。きなこ、大好き」
「えへへー」
「やだ照れるかも」
「「…………」」
これが今回のDVDですか。なんだか今回はものすごく甘酸っぱいような……朱里さん? あ、それ、この間の映画のグッズですか? そんなに面白かったんですか?
うん、楽しかったよ。いままで見たことがなかったアニメなのにいきなり続編を劇場で……とか、なんのチャレンジだ! って思ったのにね。コノワタくんが事前情報でいろいろ教えてくれたおかげだよ。ありがとう。
そんな、こざこざとうるさくなかったですか? 僕は朱里さんと一緒に見られてうれしかったですよ。また今日もなにか、この後で見に行きますか?
ん、んー。映画はもうちょっと、いいや。疲れちゃうんだよね。
え? そうなんですか? ぅわ、ほんとすいません!! このあいだは、じゃあ無理やり、
そんなわけないでしょ? 楽しかったって言ってるじゃん。うん、そうじゃなくてね。大きな音も、否応なく付き合わされる他人の感情にも、ちょーっと振り回されちゃうんだよ。消化するのに時間がかかるの。本ならいいんだけど。
……ああ、だから夕飯の終わりの方は黙りがちだったんですか。
あのね、コノワタくん。
……はい。
落ち込まないでくれる? 私は、楽しかったの。またいつか、連れて行ってほしいなって思うくらいにはね。大体さぁ、コノワタくんだって知ってるでしょ? 私は、楽しくないときにそうは言えないし、面白くなさそうだったら今日も出てきてないから。いくら、とっしーのミッションだってもよ?
…………はい。…………そうですね。
ん。だからもう気の使いあいこはもうおしまい。コノワタくんは今夜、なんかの予定がある?
……いえ。いえ、それなら夕飯でも?
うん。コノワタくんのおすすめのお店が良かったから。今度は私の番。一緒に食べよ?
はい! あ、それなら朱里さん、DVDの方に移りましょう。今回は女子高生の方がメインなんですね。
ん。新作のコンビニチョコってなんだったんだろうね。溶けないとか、食べたいなぁ。私も欲しい。
……そういう話じゃなかったですよね。あんどうくんとおかべくんがついに積極的に出てきてるって、そこを見て欲しかったんですけど。
うん? ……あ、あ、うん!! 今回は私にもわかったよ! おかべくん、餌付けしてるんだよね!
それはまいちゃんが言ってたからわかっただけでしょう?!
えー。っていうか、本に全部つっこんじゃうきなこちゃんが、かわいいなあとは私も思ったよ。
アンタがそれを思ってどうすんですか!!
積極的って、『あーん』のことだよね? 確かにちょっと露骨だけど……あのね、もしも私が、おかべくんがそんな感情を持ってるって教えてもらってなけりゃ、きっと気が付かないよね。すごく美味しそうに食べる子だから、食べさせたくなるんじゃないの? そもそも、私くらいでもイロイロ貰えるもんなんだよ? さすがに『あーん』はないけどさ。
…………ふ、よ、予想通りですよ。そりゃね、想像してはいましたから。
? なんのことー? うん、だからね、きなこちゃんが、小動物っぽくかわいいなって。
そんな思いで男子高校生が同級生にチョコ食べさせるわけがないでしょうよ。おかべくんは、はっきりクラス中にアピールしてるんです。きなこちゃんの食べっぷりの遠慮のなさと、まいちゃんが餌付けの事実を知らなかったって言ってましたから、本当に慎重に何度も繰り返してたんですね。
クラス中にアピールかぁ。そう解釈できるんだね。んー、本人が知らないうちに外堀から先に埋めるタイプ? あ、でも、まいちゃんが知らなかったことと、何の関係があるの?
ええと。多分ね、たとえ話で説明しても朱里さんにはわからないと思います。だから直球で説明しますよ。
おぅ。
おかべくんは、『自分からなら食べるきなこちゃん』を、『クラス中に見せたかった』んです。だってほら、まいちゃんがそばにいればきっと、この映像のように最後は彼女がきなみちゃんに食べさせてニコニコ、で、終わると思うんですよね。大好きーって言ってるでしょ?
……うん。コノワタくんの棒読みダイスキーがちょっと衝撃だったけど。うん。
えぇ? 感情をこめて言うなら僕は朱里さんにしか言いませんよ。で、そうやってきなこちゃんの警戒心を解いてる間に周囲にアピールして、……ああそうか、かなたくんがこの間に微妙な所信表明してたからですかね?
…………うん? あ、あぁ、かなたくん? えっと、あんどうくんとおかべくんとつるんでる三人組の最後の子だね。コノワタくんいわくの草食系だっけ。
そうです。かなたくんがこの間、きなこちゃんとかまいちゃんって呼ぼう、とかなんとか言ってたからおかべくんが動き出したんでしょうね。最速目指してまいちゃんに隠れて餌付けしてること、あんどうくんには知られていいくらいの踏み込み方ですか。うーん、そろそろ本気で僕も動こうかな。
どっかに動くの? じゃあケーキセット食べちゃうから待っててくれるとすごくうれしいな! っていうかさぁ、あのさぁ、コノワタくんさぁ。
なんでしょう。あ、僕の分もオーダーしてくれると助かりますね、朱里さん。ケーキも選んでもらって構いません。えぇと、パフェでもいいですけど。
パフェ!? うっわー、懐かしい単語だねぇ! やだ、食べたいなぁ。コノワタくん、じゃあ、私がほんとに選んでいいの?
いいですよ。半分こしましょうね。食べさせてくれればそれでいいんで。
…………うん? …………あれ? あれ?
どうしたんですか朱里さん。そんな変な顔して。相関図が見つからないんですか?
あ、や、今回はおかべくんの本気がわかっただけだから……。や、まって。まって。
? あれ? 真面目にどうかしました? 赤くなりましたけど。
こ、このわたくん……私、ちょっと、アレだ。よ、用事を思い出したよ。その、えーと、あの、帰る。ね。
は?! アンタなに言ってるんですか? 具合でも悪くなったんなら送らせてください。
や、…………あれ? なんなの? コノワタくん、ちょ、待った、手はまだ取らなくていい。いい、から、待って。
待ちますとも。けど、どうかしました?
コノワタくん、まるで、私のことが好きみたいに聞こえる、よ? さっきから。
……は?
うぅっ、だ、だって、だから、……待った。帰る。
ちょ……朱里さん? 朱里さん!! …………うーわ足はぇ……すげ、いきなりトップスピードで逃げるとか……。…………とりあえず、僕はここの支払いしましょうかね。うん。
きっとこの最後、コノワタくんはちょーニヤニヤしてると思います。
そして朱里さんはいったいどこで気が付いたんでしょうかね。
今までも、あれだけだだ漏れてたのにね。




