土を掘るそして女子高生を探す 1
土は、記憶を飲み込む。
風も、海も、火も、すべてが消えたあとに残るのは、ただの層だ。
柔らかいものは崩れ、硬いものもやがて砕ける。
どんな文明も、最後には「ただの土」になる。
けれど、この世界では違う。
土は、ただの終わりじゃない。
それは「記録」だ。
地球は、何度も滅びた。
理由は様々だった。
戦争、環境崩壊、未知の病、あるいは——自滅ですらない“偶然”。
だが、滅びるたびに人類は消えきらなかった。
どこかに残り、また増え、また進化し、そしてまた滅びた。
その繰り返しの果てに、今の時代がある。
人類はようやく理解した。
——過去を知らなければ、未来も同じように滅びる。
だから、人は土を掘る。
ただの発掘ではない。
それは「時代を掘る」仕事だ。
層の一つ一つが、ひとつの文明。
掘れば掘るほど、過去が露わになる。
そして、すべての発掘者が目指すものがある。
「二千年代」
それは、地球が初めて大きく発展した時代。
すべての始まりにして、すべての原点。
——だが、その実態を知る者はいない。
なぜなら、そこに辿り着いた者は、誰もいないからだ。
⸻
発掘は、感情を必要としない。
少なくとも、この会社ではそう教えられる。
「層番号、A-17。記録開始」
無機質な音声が、ヘルメットの内側に響いた。
自動記録装置が起動し、視界の端にログが流れ始める。
俺は指示通り、指定された位置にスコップを入れた。
硬さ、密度、湿度。
すべてが数値化され、同時に記録されていく。
「掘削、開始」
誰に聞かせるわけでもない報告を、口にする。
それも決まりだ。
ここは民間発掘企業《レイヤー社》の管理区域。
地球に積み重なった“時代”を資源として扱う会社だ。
発掘されたものは、研究機関に売られる。
あるいは、上層の人間たちの収集品になる。
過去は、商品だ。
俺たちは、それを掘る。
スコップを入れるたびに、土の色がわずかに変わる。
この変化が、そのまま“時代の境目”だ。
「深度、0.8。層の変化確認」
自動音声が淡々と告げる。
俺は頷きもせず、そのまま掘り続けた。
やがて、金属音。
スコップの先が、何かに触れた。
「対象物反応。露出処理に移行」
音声が変わる。
俺はしゃがみ込み、手作業に切り替えた。
土を払う。
無駄な力は使わない。
壊せば価値が落ちる。
現れたのは、小型の箱状物体。
「人工物。分類未定」
俺はそれを持ち上げ、携帯スキャナにかける。
「解析開始——」
一拍。
「——低発展文明層。推定カテゴリ:生活用品」
興味は、湧かない。
この程度のものは、珍しくもない。
浅い層には、こういう“中途半端な文明”が多い。
一定の形にはなったが、どこにも到達しなかった時代。
箱を軽く振る。
中で何かが転がる音がした。
「開封許可」
確認もせず、ロックを外す。
中に入っていたのは、薄い板と、小さな部品。
「……」
用途はわからない。
だが、重要でもない。
「記録。回収対象、ランクC」
ケースに入れ、脇に置く。
それで終わりだ。
俺は再びスコップを手に取る。
次の層へ。
さらに下へ。
——数時間後。
「層番号、A-18。記録継続」
変化は、ほとんどない。
似たような構造物。
似たような素材。
似たような“途中で終わった文明”。
発展しかけて、終わる。
形になりかけて、崩れる。
それが、この星の基本だ。
「対象物反応」
また、金属音。
俺は同じ動作を繰り返す。
しゃがみ、払う。
出てきたのは、平たい板。
「記録媒体の可能性」
スキャナがそう判断した。
俺は指示通り、電力を流す。
一瞬のノイズ。
そして、映像。
人間が映っている。
複数。
笑っている。
背景には、整った構造物。
規則的で、高密度な建造物群。
「……高発展」
珍しい。
この深度で、この完成度。
だが——
ノイズ。
一瞬だけ、別の映像が割り込む。
崩壊。
煙。
混乱。
すぐに消える。
「記録不安定。データ損傷」
音声が淡々と処理する。
俺は何も言わず、装置を停止した。
それ以上の解析は、ここではやらない。
価値はある。
だが、理解する必要はない。
それは研究部の仕事だ。
「回収対象、ランクAに修正」
ケースに収める。
それで終わり。
人が笑っていようが、崩れていようが、関係ない。
俺たちは、それを見るだけだ。
触れず、考えず、ただ記録する。
土を掘る。
次の時代へ。
——それが仕事だ。
スコップを振り下ろす。
土が崩れる。
また一つ、時代が終わる。
そして、次の時代が現れる。
それを、繰り返す。
意味はない。
だが、止まらない。
この星が、何度も同じことを繰り返したように。
俺たちもまた、同じことを繰り返している。
ただ——
より深く。
より古く。
まだ見ぬ時代へ向かって。




