流されるがままに
体が動かない。視界も映らない。
まさに流されるがまま、どこかへ導かれている。
何かに誘われるように、何かに突き動かされるように、どこか知らない場所へ流れていく。
視界が映らない以上、ここが天国なのか地獄なのか、そんな事分かる訳もない。
いや、たとえ見えていたとしても、それを認識理解できるかはまた別の話。
そんな未知の空間を何かに誘われる(いざなわれる)ように流されていく。
俺はてっきり、無に返されるって事は『跡形もなく消える』って事なんだと思っていたんだ。
いや、そう教え込まれたんだ。
だが、現実は違った・・・。
死ぬという事は天国か地獄へ行く事を言う。
つまり未だ魂の転生の機会があるという事。
無へ返されるって事はもう二度とこの世界へは戻って来れない事を言う。
簡単に言えば『消される』って事だ。
それ以上の解釈を、俺は知らない。
そして俺は確かに世界の崩壊に巻き込まれ、無の世界へ返された。
俺は間違いなく無へ返された。
思考から記憶と肉体に至る俺の全てを無に返された。
その筈なのに・・・何故俺は今、意志を、思考をもっている??
無へ葬られるってのはこういう事を言うのか??否、違う。
少なくとも俺が教え込まれた物、想像していた物とは大きくかけ離れている。
もしかして『無の世界』なんて本当は無くて、ここは天国か地獄なのだろうか?
でもやっぱり何か違っている気がする。
無へ返されたなら、肉体だけではなく魂も無へ返される筈。
なのに俺には、体は動かないが自分の体を感じるし、思考だって今もこうしてある。
でも俺は確かに無の世界へ引きずり込まれ、確かに『消された』。
でも俺はこうして生きている。
何故生きているか?そうだな・・・、
結論から言うと・・・
俺は何かの力によって無の世界から引きずり上げられた。
そして今も尚俺の魂は『何かの力』によってどこかに流されている。
何となくだが、この力は聖剣の物ではないだろうか?
根拠はない。だけどこの力が聖剣の物だと、魂で感じ取れた。
長年といってもニ三余年の間という短い間だけど、一緒に命をかけて戦ってきた相棒だ。
アイツが何を考えて俺の肉体を連れて行ってるのかは分からない。
だけど俺は確かに、相棒に救われた気がした。
ったくよう。死に際というか消え際というか、嫌味言ってから死ぬ奴を何故助ける必要があるのかねぇ。
・・・・・・・・・・・。
多分というか一応というか、この状況には辛うじてついてこられているとは思う。
だが次、目に映る物が何か常識を逸している物だったとしたら、いい加減俺の思考はパンクするだろう。
ぶっちゃけもうパンク寸前だ。
魂やら無の世界やら、今の状況が確かに確認できない以上、勝手に妄想する事しか俺にはできん。
目が開けられるようになった時、何が映りこんでくるのかも分かりはしない。
だからせめて、どんな物が映りこんで来ても驚かない覚悟だけはしておこう。
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・・・足が地面につくって事は、どうやら目的地に着いたようだな。
聖剣の力はもう感じ取れない。
ならば奴の企みは成功したようだ。
・・・これでも勇者様だ。
ドラゴンやらゴブリンやら、化け物相手に戦いまくった勇者様だ。
さぁ、こい。
どんな物でも驚かない不動の精神を突き通してやろう。
勇者様の肝っ玉、しかと見せてやろう。
目に感覚が戻っている。
もう、目は開けられる筈。
何が映りこんできても、不動の態度を貫いてやろう。
ゆっくりとだが、目を動かす。
ゆっくりとだが、視界が映りこんでくる。
目に映ったのは視界一杯の緑。
周りを見渡す限りここはどうやらジャングルか森林か。
木々から差し込む光で夜でない事だけは分かった。
だけど一つだけ言わせてくれ?
「妙に寒いんだけど?」
何だか肌寒い。
何も着付けてないなこりゃ。
んじゃ俺裸か。
どうしたもんか。
でもあれ?
何かがおかしい。
いつも下半身にぶら下がっているであろう俺のドラゴンの存在を感じとれん。
変わりに胸辺りに妙な重さを二つ感じる。
・・・え、胸に重さ??
目線を胸に。だがすぐに俺は後悔する事になる。
「・・・でけぇな」
そんな客観的な感想をのたまわる事で現実逃避。
もしもこれが聖剣の仕業だったとしたら、どっかの川に投げ捨ててやろう。
そう心に誓いながらも目線をさらに下の方へ。
・・・俺は世界を呪った。
タイトルどおり、性転換物です(。ー_ー)ノ




