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聖剣が作るプロローグ

「つまらない」




こんなつまらない死なせ方を我が主にして欲しくない。


そんな感情が、この一言には込められていた。




彼女は生まれながらに『魔を滅する剣』として創生された。


だが、その力が膨大すぎるが故に、誰もが寄り付かない祠に封印される事となった。


その心境を例えるなら、生まれてから間もない赤子を暗闇の中に閉じ込めておく事と同じ行為だった。


故に彼女は人間を嫌った。


自分と言う兵器を作っておきながら、手に負えなくなったので封印した無責任な人間を。


それは赤子を捨てる事と同義。


故に彼女は人間を嫌っていた。


そう、彼に会うまでは。




彼は成り行きで彼女を手に取り、その場に起こったトラブルを解決する為に、その力を振るった。


それがきっかけとなり、彼は農民からはれて勇者に転職。


魔物を退治しながらあちこちに飛び回り、世界を見て回った。


何百年と言う月日を闇の中で過ごしていた聖剣にとって、それは夢のような日々だった。


ある時は山を登り、ある時は海を渡り、ある時は魔物を滅し、ある時は人を助け。


厳しいが、それでも価値のある時間を、ユルカという少年と共に過ごした。


それは聖剣にとって、何よりも大事な思い出となった。


だが、そんな夢のような日々も、いつかは終わりを告げる事となる。


何故か?


それは、聖剣と勇者を結び付けているのは、魔王という存在だけだからだ。


聖剣は魔物を倒す為だけに作られた武器。


勇者は魔王を倒す為だけに存在する剣士。


故に魔王を倒せば、この一時も終わりを告げてしまう。


それでも、ユルカという少年から、聖剣という名の自分。


そして、勇者という名の柵を断ち切るには魔王を倒し、この旅を終わらせなくてはならない。


幼いのにも関わらず、人並みの幸せも感じられず、ただ淡々と魔物を切り刻んでいく日々。


そんな日々から少年を解き放つには、この旅を終わらせなくてはならない。


それと同時に、自分の存在意義を終わらせなくてはならない。


そう、言葉は交わせなくとも、勇者と聖剣は心で繋がっていた。


お互いが、お互いの旅を終わらせる為に、お互いの為に戦ってきたのだ。





そして最終章、最終幕、最終決戦。


最後の敵である魔王との戦いに、激戦の末、なんとか勝利を掴み取った。


これで、勇者と聖剣を繋ぐ物はなくなる。


これで、あの夢のような一時も終わりを告げる。


けれど、これで少年は晴れて自由になれる。


寂しくも嬉しい。


そんな複雑な思いを、彼女は抱いていた。


彼女の本心は『終わらせたくない』のであろう。


今までの夢のような日々をずっと続けたいとさえ思っているだろう。


だが、いつかは終わりがくる事を、彼女は誰よりも理解していた。


だから、せめていい終わらせ方をしようと、彼女は考えていた。


そして最後であろう目的を達成し、ようやく自由を手にする筈だった勇者。


これで晴れて勇者は自由を手に入れ、ハッピーエンドを迎えていたはずだった。


なのに、魔王を倒したのも束の間、突然の終わりが襲ってきた。





実につまらない最終章。


最高につまらない終わり方を、勇者と聖剣は得た。


こんなつまらない終わり方があるか。


こんなつまらない終わり方の為に、少年と私は戦い続けてきたのか。


崩壊する世界の中で、主である少年がこんな事を言い放った。





「願わくば、来世ではお前と会わない事を祈る」





来世・・・?


そうか、その手があった。


目の前で我が主君である勇者ユリカは悔いの無い微笑みの後、塵となり消え果た。


こんなふざけた終わり方に、主の人生は終わらされるのか。


こんな誰もいない世界で消え果ていくのか。


そんなの、私が許さない。絶対に、許すものか。





この聖剣の名にかけて、来世に命を繋ごう。


私の終わりはここだけど、私の墓はここだけど、


私は一緒にいけないけれど、貴方を一人ではいかせたくないけれど、


それでも、貴方にこんなつまらない終わり方をさせたくないから。


だから、本当の終わりは、『新しい貴方』が切り開いて欲しい。





白い世界で一層強く光を醸し出す聖剣。


聖剣の持ち得る全ての力を、ユルカという未だここにいる魂に向けて放った。


その力は、どこか遠い遠い世界で貴方の魂を繋ぐだろう。


でも、それでいいんだ。


こんなつまらない死なせ方を貴方にさせる、こんなつまらない世界など、貴方には必要ない。


貴方には新しい世界で、未知の世界で、新しい人生を送って欲しい。


どうか次は、勇者などという柵に囚われないで、自由に生きて欲しい。


私と言う、聖剣という呪縛にも囚われず、自由に生きて欲しい。


そして私の分まで、自由に生きて欲しい。


それが私にとっての、最大の祝福ですから・・・










この瞬間、勇者ユルカは本当の意味でこの世界から消えた。


魂から無へ葬られた肉片と血の一滴まで。


そして同時に、聖剣から放たれる光が完全に途絶えた。


残ったのは、色を無くした刀剣が一本。


地に突き刺さったまま、真っ白な世界の中ポツリと残されただけ。


だがその姿は誇らしく、それが何百年と生きた聖剣という武器の生き様だった。


たとえ色を無くしても、たとえ意思を無くしても、確かにここに存在したと、周りに訴えかけるように。


この事実をユルカが知る事は、永遠にないだろう。

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