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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第18章 決着——支点が門をずらす

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継承——忘れても師でいる

継承は、名ではない。


名で継げば杭になる。

杭は中心になる。

中心は門になる。


無効化班の男が端末を下ろした。


「再起動は危険だ」


自分の声で言った。

その瞬間、儀式が割れた。

割れれば中心が立ちにくい。


女が言った。


「中止を上位へ報告する」


研究班が食い下がる。


「ここで終わらせないと——」


照合係が言う。


「記録が残らない」


教義班の老人が言う。


「名が定まらぬ」


名。

また名。

皆、名に寄ろうとする。

寄れば糸になる。

糸は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


ここで名を欲しがらせない。

欲しがれば中心が立つ。

中心は門。


決着の形は一つ。

門が開く条件を、永久にずらす。

ずらすには支点が必要だ。

支点は“固定されない責任”だ。


責任を受け取る。

だが柱にならない。

名を名にしない。

記録を記録にしない。


継承は工程の継承。

人の名ではない。


女が上位へ連絡する間、教義班の老人が前へ出た。

金属札を掲げる。

刻印が光る。

光は視線を集める。

視線が集まれば中心になる。


老人は言った。


「名を残せ」

「名が残れば、門は閉じる」


閉じる。

それは嘘だ。

閉じることで開く。

封止と同じ。


少年は息を吸って吐いた。


老人を敵にしない。

敵にすると戦いになる。

戦いは中心。

中心は門。


名を否定しない。

否定は対立。

対立は中心。


名を“状態”に落とす。

状態は揺れる。

揺れる名は杭にならない。

杭にならなければ門にならない。


少年は欠け印の札を一つ、老人の金属札の横へ置いた。

三角でも丸でもない、ただの擦れ。

言葉にならない印。


女(合同班)が戻ってきて言う。


「上位は中止を受理した」


研究班が叫ぶ。


「なら結論を出せ!」


照合係が言う。


「責任者を明確に!」


老人が言う。


「名を!」


結論。

責任者。

名。

全部、中心を作る言葉。


少年は息を吸って吐いた。


ここで“結論”を固定させない。

固定した結論は杭になる。

杭は門になる。


結論を、工程の継続にする。

終わりではなく継続。

継続は揃いにくい。

揃いにくければ門になりにくい。


女は紙を一枚出した。

薄い紙。

残りにくい紙。

それでも紙は中心になり得る。


女が言う。


「報告書の結語」

「これを上位へ」

「署名が要る」


署名。

鍵。


少年は紙に触れない。

触れれば契約になる。

契約は門。


少年は息を吸って吐いた。


署名を避ける。

だが拒否に見せない。


署名の代わりに“巡回痕”を残す。

薄くなる痕。

消費される痕。

固定されない痕。


そして責任者欄を、人名ではなく巡回順にする。

順番は変わる。

変わるなら固定になりにくい。


少年は点検束を一枚、報告書の下に差し込んだ。

四枠の点線。

焚き火、水場、結び場, 通路。


女が理解して書く。


「責任:巡回工程(順番により提示)」

「結語:無効化中止」

「理由:全域停止の不均一化=再現不能」

「措置:現場維持(散りの継続)」

「備考:識別名は状態名として扱う(固定しない)」


老人が唸る。


「名を固定しないなど」


女が冷たく言う。


「固定すると門が開く」


研究班が息を飲む。

照合係が黙る。

言葉の中で、門が初めて共有された。

共有は糸になる。

糸は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


危ない。

門という概念が共通になれば糸になる。


共通にさせない。

女の言葉は必要最低限。

ここから先は“痕”で示す。

言葉を増やすと糸が太る。


少年は責任者欄の横に、指で一度だけ擦り痕を入れた。

署名ではない。

名ではない。

ただの摩耗。

摩耗は薄くなる。

薄くなるなら杭にならない。


女が頷いた。


「これを証跡とする」


照合係が言う。


「……証跡」


老人が言う。


「逃げだ」


女が返す。


「逃げではない」

「事故防止の構造だ」


少年は静かに息を吐いた。


構造。

それなら名ではない。

構造は個体ではない。

個体でなければ杭になりにくい。


残るのは師だ。

隔離室の向こうの呼吸。


研究班が言う。


「師をどうする」


老人が言う。


「欠けをどうする」


照合係が言う。


「対象は残る」


対象。

中心。

門。


少年は息を吸って吐いた。


師を対象にしない。

対象にすると名が付く。

名が付けば門が育つ。


師を“工程の中”に戻す。

工程は揺れる。

揺れるなら固定できない。


戻すためには、扉を開ける必要がある。

開ける行為は中心になりやすい。

中心は門。


扉を開けるのは私ではない。

開ける者を固定しない。

順番で開ける。

工程で開ける。


女が言った。


「巡回順で開ける」

「手順は固定しない」

「声掛けはしない」


声掛けをしない。

名を呼ばない。

名を呼ばなければ杭が立ちにくい。


扉が開いた。

蝶番が鳴る。

鳴り方は揃わない。

揃わないなら糸になりにくい。


師が、外へ出た。

一歩。

二歩。

足音は揺れる。

揺れは測れない。

測れないなら固定できない。


老人が小さく言った。


「……名がない」


名がない。

それが勝ちだ。


夜、丘の光は消えた。

無効化装置は沈黙した。

沈黙は終わりに見える。

終わりは揃う。

揃えば中心。

中心は門。


少年は息を吸って吐いた。


終わりを終わりにしない。

終わりを「続き」にする。

続きは揃いにくい。

揃いにくければ門になりにくい。


翌朝。


誰も、師の名を呼ばなかった。

呼ばなければ名は杭にならない。

杭にならなければ門にならない。


だが少年は、師を見た。

見て、息を吸って吐いた。


忘れても師でいる。

名が消えても師でいる。

名を残さず、門を残さず、

ただ工程だけを残す。


工程は揺れる。

揺れは測れない。

測れないなら共通になりにくい。

共通になりにくいなら糸になりにくい。

糸になりにくいなら門になりにくい。


世界は、門を作れないまま、朝になる。


少年は振り返らない。

振り返れば中心が立つ。

中心は門。


だからただ、巡回へ戻った。

焚き火。

水場。

結び場。

通路。


順番は今日も変わる。

変わるなら固定にならない。

固定にならないなら、門は開かない。


そして——

名のないまま、師はそこにいた。

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