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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第18章 決着——支点が門をずらす

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実施——終わりを複数にして門を開かせない

起動は、合図だ。


合図は揃う。

揃えば拍になる。

拍は糸になる。

糸は門になる。


正午、丘の光が脈を打った。

一回。

二回。

三回。

拍。

門の心臓。


女が言った。


「起動する」


研究班が言う。


「測定値が上がる」


照合係が言う。


「固定が進む」


教義班の老人が言う。


「名を呼べ」


名を呼ぶ。

合図を儀式にする。

儀式は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


合図に乗せない。

拍に揃えない。

揃えば門が開く。


終わりを複数にする。

終わりが複数なら合図は揃えられない。

揃えられなければ拍が崩れる。

拍が崩れれば糸になりにくい。

糸になりにくければ門になりにくい。


複数の終わりとは、

同時に止まるのではなく、

工程ごとに止まり方が違うこと。

止まり方が違えば同じ名が付けられない。


名が付けられなければ中心が立たない。

中心が立たなければ門は開かない。


無効化班が来た。

白い制服。

揃う。

揃えば儀式。


班の男が端末を掲げる。


「起動許可」

「上位署名済み」


署名。

鍵。


班の男が言う。


「退去を確認」

「カウントを開始する」


カウント。

拍。

糸。


女が唇を噛む。

彼女は責任を知っている。

だが上位は速い。

速い刃は言葉を飛び越える。


少年は息を吸って吐いた。


カウントを壊す。

だが止めない。

止めれば抵抗。

抵抗は中心。

中心は門。


カウントを“複数”にする。

一つのカウントは揃う。

複数のカウントは揃わない。


工程ごとに、起動条件を違わせる。

違わせれば、同時に止まらない。

同時に止まらなければ儀式が崩れる。


少年は四枠の外側に、布を垂らしたままにした。

影は四つ。

影が四つなら中心が四つ。

中心が四つなら中心は一つになれない。


器の水面が四つ、別々に揺れる。

揺れ方は揃わない。

揃わないなら拍になりにくい。


欠け印の札も四つ。

三角、丸、線、足跡。

言葉にしづらい。

言葉にしづらいなら名が固定できない。


女が言った。


「起動条件を工程ごとに」

「同時起動は事故を増やす」

「責任は上位が負うが、事故は増える」


班の男が苛立つ。


「条件は一つだ」

「全域停止」


少年は息を吸って吐いた。


全域停止を全域停止にさせない。

全域停止の前提を崩す。


前提は「全域が同じ状態である」こと。

同じ状態でなければ全域停止は“均一な終わり”にならない。

均一でなければ名が付けられない。

名が付けられなければ門にならない。


全域を同じにしない。

同じにしないために、工程の状態差を作る。


少年は焚き火の灰をほんの少し、通路へ。

灰は滑る。

滑れば危険。

危険なら速度が変わる。

速度が変われば同時でなくなる。


水場の器をほんの少し動かす。

水面が揺れる。

揺れは測れない。

測れないなら状態が揃わない。


結び場の布を一枚だけ畳む。

畳みは固定に見える。

だが一枚だけ。

一枚だけは揃わない。

揃わないなら儀式になりにくい。


全部“少し”。

誰のせいでもない少し。

少しは責めにくい。

責めにくければ戦いになりにくい。


班の男が端末を操作した。


「カウント開始」


端末が声を出す。


「十」

「九」

「八」


数字は揃う。

揃えば拍になる。

拍は門の心臓。


少年は息を吸って吐いた。


数字を消せない。

消せば抵抗。

なら数字を割る。


数字の参照先を割る。

同じ十が、同じ終わりを指さないようにする。

十は焚き火の終わり。

九は水場の終わり。

八は結び場の終わり。

七は通路の終わり。

それぞれ違う終わり。


違う終わりなら、同じ数字でも揃わない。


女が叫ぶ。


「待って!」


叫びは中心を作る。

中心は門。


だが彼女は叫びを飲み込み、言い直した。


「起動は工程ごとに」

「同時は事故」

「事故は責任」


責任。

鎖。


班の男が言った。


「上位は責任を負う」


女が返す。


「負うなら、起動失敗の責任も負う」

「起動失敗は事故だ」


起動失敗。

言葉が刺さる。

制度は失敗を嫌う。

失敗は責任の塊だ。


端末が言う。


「三」

「二」

「一」


光が走った。

丘から、細い線が伸びる。

線は中心を作る。

中心は門。


だが線は一本ではなかった。

影の割れに沿って、四つに散った。

焚き火へ。

水場へ。

結び場へ。

通路へ。


散る。

散れば中心が立ちにくい。

中心が立ちにくければ門が開きにくい。


焚き火の熱が先に落ちた。

火が鈍る。

空気が冷える。

湿りが戻る。


水場は遅れて沈む。

水面が止まらない。

止まらないなら固定にならない。


結び場は半端に止まる。

布が硬くなる。

だが端はまだ柔らかい。


通路は最後まで揺れる。

足元が滑る。

滑れば危険。

危険なら動きが変わる。

変われば同時でなくなる。


終わりが四つ。

終わり方が四つ。

同じ名を付けられない。


班の男が叫んだ。


「停止が不均一だ!」


研究班が言う。


「想定外」


照合係が言う。


「全域停止になっていない」


教義班の老人が低く笑う。


「名が定まらぬ」


名が定まらない。

それが目的だった。


女が冷たく言う。


「起動は失敗」

「責任は上位が負う」


班の男が青くなる。


「……再起動する」


再起動。

儀式のやり直し。

やり直しは中心を作る。

中心は門。


少年は息を吸って吐いた。


再起動させない。

だが止めない。

再起動が“できない状態”にする。


不均一停止は再現できない。

再現できないなら再起動は危険。

危険なら責任。

責任なら上位は躊躇する。


少年は、隔離室の扉の前に立った。

立つと柱に見える。

柱は中心。

中心は門。


だが少年は名を名乗らない。

手も上げない。

ただ呼吸だけを合わせる。

合わせない。

ずらす。


支点として、

“全域停止”の前提を崩した。

終わりを複数にした。

名を立てさせなかった。


班の男が唇を噛む。


「再起動は……危険だ」


自分で言った。

切った側が切れないのと同じ。

止める側が止められない。


女が言った。


「なら結論は一つ」

「無効化は中止」

「現場維持」

「そして——支点を移す」


支点を移す。

それが最終話の鍵。


少年は静かに息を吐いた。


次で終わる。

第18章 第3話。

支点を自分へ移す。

師の名が消えても、門は開かない。

世界に残すのは名ではなく——工程だ。

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