決着——支点が門をずらす
無効化は、終わりの形をした始まりだ。
終わりは揃う。
揃えば中心になる。
中心は門になる。
夜明け前、上位から新しい通告が来た。
紙ではない。
声でもない。
灯りだ。
遠くの丘に、柱のような光が立った。
光は視線を集める。
視線が集まれば中心になる。
中心は門になる。
女が息を飲む。
「……無効化装置」
「現場ごと停止する」
「封止できないなら、現場を消す」
研究班が言う。
「焼き切るのか」
照合係が言う。
「水没に近い」
教義班の老人が言う。
「これで名が定まる」
名。
また名だ。
終わりは名を作る。
名は杭になる。
杭は門になる。
少年は息を吸って吐いた。
無効化は固定の最終形。
現場を止める。
止めれば揺れが消える。
揺れが消えれば条件が揃う。
条件が揃えば門が完成する。
止められる前に、門の成立条件をずらす。
門が成立する「中心」を、中心でなくす。
中心を、中心として成立させない。
支点の役目は、ここだ。
師を中心にしない。
現場を中心にしない。
無効化装置の光も中心にしない。
中心を“複数”にする。
複数の中心は中心を失う。
中心を失った門は開けない。
女は上位の指示を読み上げた。
「無効化は日没までに実施」
「現場は退去」
「残留は処分」
「責任は上位が負う」
責任。
また責任。
鎖がある。
鎖は刃を鈍らせる。
だが無効化は速い。
速い刃は鎖を引きちぎることがある。
少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。
時間がない。
散らしでは間に合わない。
支点として、条件を変える。
条件は「中心が立つこと」。
中心を立てさせなければ門は成立しない。
中心を立てさせないには、
中心の候補を増やす。
増やして、どれも中心になれなくする。
中心が一つなら門が開く。
中心が五つなら、門はどこにも開かない。
無効化装置の光が強まる。
遠いのに、肌が乾く。
乾きは固定を助ける。
乾けば札が貼れる。
乾けば縄が張れる。
乾けば儀式が成立する。
危ない。
封止ができなかった現場が、無効化の光で“乾いて”封止できるようになる。
封止できれば門が固定される。
固定されれば門が開く。
少年は息を吸って吐いた。
乾かさせない。
乾きは中心を作る。
湿りを戻す。
だが大きく戻すと事故になる。
事故は中心になる。
小さく戻す。
工程として戻す。
誰のせいでもない湿り。
少年は器の水を、一滴ずつ、四枠に分けた。
焚き火。
水場。
結び場。
通路。
一滴ずつ。
中心ではない。
点在。
点在は中心を作りにくい。
女が気づく。
「……乾きを散らす」
「中心を散らすのね」
研究班が苛立つ。
「無駄だ」
照合係が言う。
「装置は現場全体を止める」
止める。
止めることは中心を作る。
少年は息を吸って吐いた。
止めるなら止めさせる。
だが止めた結果が門にならないようにする。
止める側が「止めても門が開かない」と理解する形へ導く。
門が開く条件は「名が定まること」。
名が定まらなければ門は開けない。
なら名を、最後まで定めさせない。
無効化は“名”を定める儀式になりやすい。
それを壊す。
教義班の老人が言った。
「無効化に名を与えよ」
「焼き尽くす炎の名を」
「水没させる海の名を」
「終わりの名を」
終わりの名。
それが杭になる。
女が冷たく言った。
「名は最後」
老人が笑う。
「最後だ」
「今が最後だ」
少年は静かに息を吐いた。
名を与える瞬間に、名の参照先を割る。
同じ名が同じ終わりを指さないようにする。
無効化は一つではない。
終わりを複数にする。
終わりが複数なら名は固定できない。
少年は四枠を指でなぞり、欠け印の札を四つ置いた。
三角、丸、線、足跡。
言葉にしづらい印。
共通になりにくい印。
女が理解して言う。
「無効化は一つの手順ではない」
「四工程の“状態遷移”として扱う」
「火ではなく、熱の偏り」
「水ではなく、湿度の偏り」
「封止ではなく、固定不能の維持」
研究班が言う。
「そんな曖昧では実施できない」
女が返す。
「曖昧ではない」
「工程の状態だ」
「状態は測れない揺れを含む」
「揺れを消すと事故が増える」
「責任は上位が負う」
責任。
鎖。
無効化装置の光が一段強くなる。
地面が白く照らされる。
白は揃う。
揃えば儀式。
儀式は門。
少年は息を吸って吐いた。
儀式にさせない。
白を割る。
割るには影を作る。
影は中心を散らす。
少年は布を四つ、四枠の境界に垂らした。
影が四つに分かれる。
光が割れる。
視線が割れる。
中心が立ちにくい。
女が言う。
「上位に報告する」
「無効化は“単一の終わり”にできない」
「単一にすると門が開く」
研究班が叫ぶ。
「門だと?」
女が言う。
「あなた方は言わないだけで、ずっと門を作ってきた」
「今は作らせない」
老人が低く笑う。
「作らせないために、支点が要る」
「支点は誰だ」
女の視線が少年に刺さる。
核を探す目。
柱を探す目。
少年は静かに息を吐いた。
ここで柱になると負ける。
名が立てば門が開く。
柱ではなく支点。
名ではなく工程。
人ではなく順番。
私は支点だ。
だが名乗らない。
名乗らずに、門をずらす。
遠くの光が、さらに強まった。
日没まで待たないかもしれない。
上位は早める。
早めれば事故が増える。
事故が増えれば責任が増える。
少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。
次は、無効化の実施そのもの。
実施される前に、
実施が「門を開く」方向へ転ぶのを止める。
第18章は決着だ。
次話で、勝負に出る。
支点を——使う。




