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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第17章 最終判断——切断の通告

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封止——閉じることで開く

封止は、閉じることだ。


閉じることは固定だ。

固定は中心になる。

中心は門になる。


夜、上位の印が届いた。

紙ではない。

板。

板は残る。

残るものは中心になる。


女は板を受け取り、声を殺した。

賢い者が声を殺すのは、刃が深い時だ。


女は言った。


「最終封止」

「現場を封鎖」

「巡回停止」

「全員退去」

「欠けは封じる」


欠け。

言葉が立った瞬間、中心が立つ。

中心が立てば門が育つ。


研究班の男が言う。


「これで終わる」


照合係が頷く。


「記録も要らない」


教義班の老人が微笑む。


「名が定まる」


女は震えていない。

震えないのが怖い。

責任を負う覚悟をした顔だ。


少年は息を吸って吐いた。


封止は最悪だ。

止められる。

生活が消える。

揺れが消える。

条件が揃う。

門が固定される。

固定された門は開く。


閉じることで開く。

封止は門を閉じるように見えて、門を完成させる。


封止を破綻させる必要がある。

だが反抗ではない形で。

破綻は“手順の矛盾”として起こさせる。


封止は固定を必要とする。

固定できない現場を作れば、封止は成立しない。

固定できないのは現場の散り。

散りは測れない。

測れないものは固定できない。


固定の不可能を示し、

封止した側の責任を膨らませる。


封止班が入ってきた。

白い布。

白い札。

白い縄。

白い面は揃う。

揃えば儀式になる。

儀式は門になる。


班の長が言った。


「封止は今夜実施」

「全員、外へ」

「中は固定する」

「一切動かすな」


固定。

静止。

中心。

門。


女が言った。


「責任は上位が負う」


班の長が頷く。


「負う」


また言わせた。

鎖が締まる。


少年は息を吸って吐いた。


今から、固定を不可能にする。

不可能だが事故に見せない。

事故に見せると中心が立つ。

中心は門。


“固定できない理由”を、現場の仕様として提示する。

仕様なら責めにくい。

責めにくければ戦いになりにくい。


封止班はまず焚き火を消しに来た。

火を消せば熱が止まる。

熱が止まれば乾燥が止まる。

乾燥が止まれば湿る。

湿れば滑る。

滑れば転ぶ。

転べば怪我。

怪我は責任。


少年は器の水を見た。

水面が揺れている。

揺れは測れない。

測れない揺れは固定できない。


班の長が言った。


「水を撤去」

「火を消す」


少年は息を吸って吐いた。


撤去も消火も、固定の手順だ。

その手順が危険を生むようにする。

危険は責任。

責任は制度の恐怖。


火が消された。

一瞬、空気が冷える。

冷えた瞬間、床の湿りが強くなる。

白い布の足元が滑った。

一人がよろける。

転倒寸前で踏ん張る。


班の長が怒鳴る。


「滑る!」


女が即座に言った。


「停止(消火)で湿度が変わる」

「固定は危険だ」

「責任は上位が負うのですね?」


責任の確認。

鎖。


班の長は歯を食いしばり、言った。


「……負う」


研究班が焦る。


「拭けばいい」


照合係が言う。


「固定手順に清拭を入れろ」


固定手順が増える。

増えるほど管理が重くなる。

重くなればミスが増える。

ミスは事故。

事故は責任。


少年は静かに息を吐いた。


よし。

封止は重くなる。

重い手順は破綻しやすい。


次に縄。


封止班は境界を張る。

縄を張り、札を立て、線を引く。

線は中心を作る。

中心は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


縄は揃える。

揃えるほど儀式になる。

儀式は門。


縄を揃えさせない。

だが手を出せない。

手を出せば反抗。


なら縄が“張れない”床にする。

張ると滑る。

滑れば危険。

危険は責任。


班の一人が縄を張ろうとして足を滑らせた。

縄が緩む。

札が倒れる。

倒れた札は中心になりにくい。

中心が崩れる。


班の長が叫ぶ。


「やり直せ!」


やり直しは時間を食う。

時間が食われれば焦りが出る。

焦りはミス。

ミスは事故。


女が言った。


「封止は固定が前提」

「固定できない現場で封止すれば事故になる」

「責任は上位が負う」


班の長が言った。


「……だからこそ封止する」


女が返す。


「封止は事故を増やす」

「事故は責任を増やす」


責任が膨らむ。

膨らめば刃が鈍る。


封止班は最後の手順に入った。

隔離室の扉を封印する。

封印札を貼る。

貼れば残る。

残れば中心。

中心は門。


少年は息を吸って吐いた。


札を貼らせない。

だが拒否できない。

なら札が“貼れない”理由を作る。


札を貼るには、表面が乾いている必要がある。

乾いていなければ剥がれる。

剥がれれば手順違反。

手順違反は責任。


扉の表面は、冷えていた。

冷えた表面に、湿りが戻る。

札が貼られた瞬間、端が浮く。

浮けば剥がれる。

剥がれれば封止が成立しない。


班の女が言う。


「貼れない」


班の長が怒鳴る。


「乾かせ!」


乾かす。

乾かすには火。

火を使えば封止の固定が崩れる。

火を使わなければ札は貼れない。


矛盾。

手順の矛盾。


女が静かに言った。


「封止の前提条件が満たせない」

「火を消すと湿る」

「火を使うと固定が崩れる」

「この現場は封止できない」


班の長が唸る。


「……上位は封止を命じた」


女が返す。


「命じたのは責任を負うと書いた上位」

「封止不能の現場で封止を強行すれば——」


女は言葉を切った。

言わなくても分かる。

事故。

責任。

処分。


班の長は、紙を取り出した。


「封止不能報告」


報告は残る。

残れば中心。

中心は門。


だが今は必要だ。

刃を止める鎖だ。


班の長は書いた。


「封止手順の前提条件未達」

「固定不可能」

「事故リスク極大」

「実施延期を提案」


延期。

封止は今夜できない。


教義班の老人が怒鳴る。


「逃げるな!」


班の長が言う。


「逃げではない」

「責任だ」


責任が勝った。


少年は静かに息を吐いた。


封止は破綻した。

閉じることで開く刃を、手順の矛盾で折った。


だが上位は引かない。

封止ができないなら、

現場そのものを“別の形で閉じる”だろう。

閉じる形を変える。

門を完成させる別の道。


第18章。

決着だ。

ここで終わらせる。


支点は、最後に使う。

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