第十三話 ファン王国
「これに乗りゃいいのかァ?ジェナード」
「そうだよ、着いた先でたらふくご馳走が食べられるからね。だから着くまで大人しくしてほしいんだ。できる?」
「そんくらいラクショーだ!オレッち達だって黙るくらいできるぞ!」
「わかった。ありがとうね」
夜が明け、僕達は森の外で、ゴブリン達を馬車に乗せていた。そこにガルナが何やら魔法をかけると、馬車の中が何も見えなくなった。…改めて魔法ってすごいな…僕も使いたいけどアレルギーらしいし…少し残念だ。
「騙してるみたいで気が引けるなぁ」
「そんなの今更だろ。それに、説明したところでわかんねえんじゃねぇのか?こいつらは。」
そう言ってガルナは馬車の中を指差した。まぁ、多分その通りだ。こんな見え見えの嘘に騙されるくらいなんだし。そんなことを考えてたところ、横にいるサロウが声をかけてきた。
「まさか馬車の要求が来たと思ったら、こんなことに使うとはな…」
「すまねぇな、嬢ちゃん。何のお返しもなく、また迷惑をかけちまってよ」
「それについては気にしないでいい。私としては、ジェナードに少しでも借りを返せたらそれで満足なのだから。ただ、見知らぬ顔した者がいきなり尋ねてきたから驚いたぞ」
「いやぁ…すまねぇ。あの村に俺がいたらまずいと思ってよ、魔法で変装してたんだ」
「実際それは正解だ。お前達が何をしたか知らないが、しばらくゴブリンが出没したとかなんだかで騒ぎになってたからな。ガルナ殿も顔が知られていたし…本当に何をしたんだ?」
「まぁ…ちょこっとよ…」
「それにしても、馬車なんて持ってたんだ?」
「便利だろうから馬含めて買ってたんだ。捕まる前はギルドで稼いでいたから、多少は持ち金がある」
「なんにせよ、助かったぜ。要件が済んだらしっかり返すからよ」
「その時は村の前にでも待たせておいてくれ。本当は私もついていきたい所だが…囚われてた者の世話とか…まぁ色々用事がある。悪いな」
「そこまで世話になるわけにゃいかねぇし大丈夫さ。ありがとな」
「あぁ。じゃあ武運でな。…ラーガスも、余裕があれば捜索する」
「うん、ありがとう」
そう言い残し、サロウは村(ゴブリンじゃない方)へと去っていった。
「んじゃ、ジェナードも馬車に乗ってくれ。俺が馬に乗るからな」
「うん、頼んだよ」
馬をガルナに任せ、僕も馬車に乗り込む。中から外を見ると当たり前かのように外の景色が見える。魔法ってなんでもありなのだろうか。中のゴブリン達は、ソワソワしたり、話したりしてるが、馬車から漏れでない程度には静かだ。中に座ると、ロバンが話しかけてきた。
「な、な、ジェナードッ。オレッち達、今からどこ行くんだ?実はオレッち、森の外に出るのは初めてなんだッ。ごちそー、楽しみだッ。」
「あぁ…うん、そうだね…。楽しみだね…」
目の前でとてつもなくワクワクしてるゴブリン達を見て、心が痛むのを感じる…、王国で、美味しいご飯を食べさせてくれないか、ガルナに頼もう…。というか、王国に連れていって何をするつもりなんだろうか。そんなことを思いながら、馬車の揺れにつられて、少しずつ瞼が落ちていく…そういえば、ゆっくり、寝て……なかった…っけ……
〜〜〜〜
「よーし、着いた着いた」
馬車を運転していた俺は、大体2時間ほどかけて、王国まで辿り着いた。馬車の中を覗いてみると、全員すっかり眠っちまったようだ。きっと疲れてたんだろう。門の前に近づくと、門番に立ち塞がれた。
「そこで止まれ、何用でこの国に入るつもりだ?」
「ちょっと野暮用でな。そちらのお上さんによ」
「陛下に…?如何程の理由であろうとも、身分のわからない者を通すわけには行かない。まずは身分を名乗り、その後に理由を言うがいい。話はそれからだ」
「…あ〜、理由はここじゃ言えねぇっていうか…“お上さん“、に“野暮用“っつってんだが…駄目か?」
「悪いが、規則なんだ。何も言えないのであれば、立ち去るといい」
ひょっとしてこいつ、新人兵か?まいったな…冒険者っつって、理由を話すわけにもいかねぇし…。
「どうした?」
「隊長。この者が国に入りたいようですが、何故か何も言わないもので…」
おっ、隊長なら伝わるだろ。俺は改めて、さっきの単語を口にする。
「隊長さん、そちらの“お上さん“に“野暮用“、なんだが、入っていいか?」
「…っ!……分かった、入れ」
「えっ!隊長!?な、何故?!」
「後で話す…」
酷く困惑した様子の新人兵に、隊長兵は眉間を押さえて対処していた。悪いな、面倒なことを。そんな様子を後に、俺は馬車ごとファン王国に入った。
様々な種族が入り乱れる程の活気、鮮やかな建造物、所々巡回している兵士など、伊達に世界1番の国の名は伊達じゃないと、嫌でも思い知らされる。それほどまでに立派な国なのだ。遊び回る子供たちを横目に、国の中央に建てられたでかい城へと向かう。
城の門前には、先ほどよりも頑強そうな鎧を着た兵士が2人立っていた。そいつらは俺の顔を見るなり、警戒した様子で尋ねてきた。
「ご用件は?」
「そちらのお上さんに野暮用でな」
「……入れ」
さすがエリートだ。物分かりが良くて助かる。門を開けてくれた兵士にひと言礼を言い、城の領地内へと入っていく。領地内には何人かの兵士が居ており、訓練やら見張りやら何かしらしていた。そのうちの1人に声をかけ、頼みごとを試みる。
「そこのあんた、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「今から城内に入るから、この馬車、どっか安全な場所に置いて見張っといてくれないか?野暮用なんだ」
「…いいだろう。中を確認しても?」
「構わねぇが、誰にも言わず、かつ中のものを一切傷つけないと約束するならいいぜ」
「……何が入っているんだ?」
「怖いならやめとけ。少なくとも、害のあるもんじゃあねぇから、安心しな」
そう言い残し、城内へと入っていく。ま、城内兵士なんだし、大丈夫だろ。中は、貴族っぽい者や高そうな服を着た者が歩き回っていた。そういう奴らが通るたび、俺をジロジロ見てくる。そりゃそうか、この城の中じゃ俺の格好は随分場違いだ。高そうな服でも着てくべきだったかな。そんなことを考えながら、王の間の前に辿り着くと、その部屋を守っている更に頑強そうな鎧を着た兵士に声をかけられる。
「話は通っています。お入りください」
「あんがとよ」
兵士に促され、王の間に入る。そこには、大剣を携えた真っ白で立派な鎧を着たタッパのある兵士、そしてその横に鎮座する細く鋭い目つきのおさげの髪型の男がいた。この男こそ、この国の王、『ファン・シュタール王』である。王に近づき、玉座の前で跪く。
「偉大なる国王陛下。この度は、謁見の機会をお許しいただいたこと、誠に感謝いた…」
「あーやめろやめろ。お前の敬語は全く敬意がこもってないから気色悪いんだ。」
「そうかい。じゃいつも通りで」
せっかく跪いてやったというのに、男は心底嫌そうな顔をして拒否してきた。仕方ないだろうが、ないんだから。
「しかし…久しぶりだな…。いきなり野暮用だと言伝が来たから驚いたよ。何年ぶりだろうか」
「さあな。それはそうと、話したいことがあってな」
「なんだ?もしかして、」
「戻らねぇからな。それとは違う」
少ししゅんとした王を眺めつつ、本題に入る。
「話したいことってのはな、今、城の領地内に馬車を置いてある。その馬車の中に、11人のゴブリンが乗っている」
「ッ!」
「待て、バルト……続けろ」
鞘から大剣を抜きかけた兵士…バルトを王は制止し、こちらに続きを促してくる。
「安心しろ、そいつらに害はねぇ」
「害がないだと?そんな保証、どこにある。貴様、ゴブリン共を引き連れてテロ行為でも起こそうという気じゃないだろうな」
「なんのメリットがあってそんなバカなことすんだよ。それに本気で起こすならもっとマシな種族を連れてくるさ。話を戻すがシュタール王…その11人のゴブリン、あんたらに保護してもらいたい」
「…ほう?ゴブリンは危険な種族。私達がその者らを保護する理由がないような気がするんだが?」
「あるさ。そしてそれは、害がないことにもつながる…それは、悪意、敵意がないということだ」
「悪意が、ない?」
兜で見えないが、多分目を見開かせているバルトを横目に、シュタール王に話を続ける。
「ゴブリンには悪習がある。それは知ってるな?」
「無論だ。それがゴブリンが忌み嫌われている大きな要因だしな」
「馬車の連中は、それに嫌悪感を示してる。そういった行為が好きじゃないんだ」
「…なるほど」
「そして実際に対峙してみればわかるが、そいつらには悪意、敵意というものが存在しない。つまり…何と言えばいいか……そうだ、純粋だ」
「…純粋」
「ここまで言えばわかるだろ。件の連中は、あんたらが最も欲していた存在だ。これで十分保護するに値する理由じゃないか?」
そうして交渉をしていると、バルトが割り込んで文句を垂れてきた
「そんな話を信じると思うか?ダミナ。そのようなふざけた話」
「とりあえず会ってみろよ。あいつらは強姦よりもご馳走が好きらしい。良い趣味だよな?俺もそっちのほうがいいと思うぜ」
「貴様、馬鹿にしてるのか…?」
「バルト」
「なんでしょう」
「こいつは失礼な男だが、ここまでして我々を愚弄すると思うか?」
「………」
王の諭しに黙ってしまったバルトは、すごすごと下がっていってしまった。分かってんなら突っかかってくんなよな。そんなことを思っていたら、王は俺に交渉への答えを言ってきた。
「いいだろう、ダミナ・ガルナ。件のゴブリン11人、我々が保護しよう」
「そいつはよかった。あと、先に言っとくが、できるだけ快適で、安全な生活を提供させてやってくれ。それと、ご馳走もな」
「まぁいいだろう。保護の最中に死なれても困るしな。連中は兵士にでも輸送してもらおう」
「そうしてもらえると助かるぜ。…あぁそうだ、もういっこあった。でかい怪物を探してるんだが、なんか情報とかあるか?」
「でかい怪物?ドラゴンのことか?」
「お前それ言う場所によっては王位剥奪されかねんから気をつけろよ…じゃなくてやたらでかい怪物に遭遇したんだ。姿がよくわからなくてな、困ってんだ」
「でかい怪物ねぇ…。何か情報あったか?バルト」
「…一応、それに近しき情報があります」
「おっマジか?」
「ここから西に7km、神幻の森周辺で、奇妙な轟音が聞こえた、という情報がある」
「神幻の森というと…エルフの里が関係ありそうじゃないか?」
エルフの里…ちょいと気難しそうな奴らがいるだろうが、今は情報がなさすぎて困ってる。とりあえず向かってみるか。
「情報感謝するぜ。そんじゃ、この辺で…」
「待て、ダミナ」
要件も終わって帰ろうとしたところ、王から呼び止められた。また引き戻そうとしてるのだろうか。
「なんだ?言っとくが戻らねぇからな」
「さすがにわかってる……本当に、何年も会わないうちに、随分と変わったな。まるで別人みたいだ」
…確かに、今の俺は随分と変わった自覚がある。あいつらのおかげでもあるし、それに……。
「いくつになっても、人間は成長するもんだぜ。あばよ、2人とも」
身を翻し、2人に挨拶を告げる。一応目的もできたことだし、ジェナードんとこに帰るか。随分待たせちまったしな。王の間から出、貴族達にまたジロジロ見られながら城内を歩き、外へと出る。馬車に辿り着き、中をのぞいてみると、既に眠っているジェナード以外、誰もいなくなっていた。さすがエリート兵、仕事が早いことだ。ジェナードは…このまま寝かしとくか。
さてと、王国に着いて1時間も経ってねぇが、ここでのんびりするわけにもいかねぇし、とっととエルフの里に向かうか。穏やかな街並みを眺めながら、俺は馬車を国外へと走らせていく。




