第三話 新たなる友
一
ここにも、殺されたバウンティー・キラー達の死体が転がっている。
額や心臓を見事に撃ち抜かれ、もはや生きていた頃の姿は見る影もない殺し屋共の変わり果てた様子に、若いガンマンはどうにも言葉では表現し難い気分となる。彼らを殺したであろう、お尋ね者のヘススは今や何人もの殺し屋共が狙っているにも関わらず、必ずと言っていいほど殺られるのは彼を追い詰めた連中ばかりだ。手配書が公開されてから既に一週間が経とうとしていた現時点で、少なくとも五十〜六十人以上はヘススを殺そうと襲い掛かったものの、逆に返り討ちに遭っている。年齢こそまだ二十歳ほどだが、射撃に関してはまさに天賦の才能と呼ぶに相応しいものがある。
自分も奴を追っている点では、油断してしまったら最後、殺されるのは必須である。自慢ではないが、銃の技は己も人並み以上だとする確信はある。理由あって小さな頃から銃の扱い方を仕込まれたのが、今になって役に立つ事は皮肉にも思えるのだが、手練れのガンマンを追いかけている関係上、何よりも心強かった。
死体の他に、馬の足跡も貴重なる手がかりになるため、消えてしまわないうちに若いガンマンはその二つを辿って荒野を旅していたのである。その間にも、賞金目当てに旅するアウト・ロー達に襲われる事もしばしばあった。だが、彼もまた自己流ながらも鍛え上げたガン・アクションを以てそいつらを打ち倒し、辛抱強くヘススを追いかけたのだった。
また一週間が過ぎた頃、若いガンマンは食糧や弾などの買い出しで立ち寄った町にて、お尋ね者に関するひとつの有力なる情報を入手する。つい二時間ほど前、ヘススに極めてよく似た若い流れ者がこの町に来たとの事である。出発する際、ちょっといい景色が観たいと何処かお勧めの場所を訊かれ、ここから南へ行った所にある崖なら地元民に人気があると教えたのを、その男が食事をしたホテルの支配人にガンマンが金を渡して聞き出したのだ。
その崖は町から何マイルも離れていないとの事なので、今から行けば夕方前には追い付けるかも知れない。若いガンマンは教えてくれた礼として支配人に更に金を渡すと馬に飛び乗り、急いで崖があるとされる南の方へと向かったのである。
目指していた場所へ着いたのは、夕方になり太陽が西の方へ沈みかけている時だった。本当ならもっと早くに着いていた筈なのだが、途中でまたしても荒くれ者共に襲われたため、相手をしているうちにすっかり時間を食ってしまったのだ。
焦りと苛立ちで棘みたいになった神経を何とか鎮めようと、ガンマンは出来るだけゆっくりと呼吸をする事にした。心臓さえも、激しくドクドクと鳴っていた。
落ち着こうとしながらふと前の方を見た彼の目に飛び込んで来たのは、崖の上から遥か下に大きく広がる西部の大地と、地平線に沈み行かんとしている真っ赤な上に神聖なる印象さえ感じる太陽だったのである。こうした壮大なる自然の美しき光景を、今みたいに心から綺麗だと思いながら眺めた事が過去にあったであろうか? ガンマンは正直に心の中にて呟いていたが、突如にして鳴り響いた何発かの銃声に、彼は現実へと引き戻された。
その場に馬を停めて大地に降りたガンマンは銃声が聞こえた方に忍び足で向かい、岩の陰に隠れた状態で音の主を覗き見る。
彼が向けている目線の向こうには、十人ほどはいるであろうガンマン達が死体となって倒れており、その死体を円陣みたいにして、黒い帽子と黒いマントに黒いズボン、そして黒いブーツの若いガンマンが中央に立っているではないか。しかも、人物は指名手配書の写真にあった、お尋ね者のヘススだったのである。
遂に見つけた……!
二週間もの努力がやっと実り、ガンマンはとうとう追い求めていた男を見つけ出す事に成功したのだ。
本人と会うのは二回目になるが、今はただ再会を喜んでいる場合ではない。向こうは己に賞金を懸けられ、かなり警戒しているだろうから、下手に姿を見せれば撃たれるだけだ。ここはとにかく慎重に……。と、思っていた時、ガンマンはついうっかり足で落ちていた石を蹴ってしまい、その石がヘススの近くに転がって行ってしまった。