第七話 前世からの因縁 二
夜になり、三人が村人達に銃の使い方を教えながら、戦術についても説明していた。
ひと通りの作業を終え、休んでいた時の事だった。酒を飲みながら、ヘススが次の如き話をする。
「どうして今回、俺達は次から次へと化け物に襲われたり、その前には三人共、酷い目に遭わされたりしたんだろう?」
するとライアンが、
「どうしたんだ? 急に」
と訊ねる。
「いや、ちょっとそう思っただけだ。まあ、俺の場合は喧嘩が原因だけど、お前らは決してうしろめたい事をしている訳じゃねぇだろ。なのに、こうなっちまって」
今日にかけて起こった事の理由を知りたがっているヘススを見て、
「今更どうだっていいじゃない。偶然よ、みんな」
リアがそう結論づける。
結局はそうなのかなあとヘススが思った時である。
「いいや、決して偶然ではないのじゃよ」
と、声がしたので三人が銃に手をかけながらその方向を見ると、何とそこには三人を助けてくれたあの老人がすました顔で立っていたのだ。
「じいさん、どうしてここに?」
思わずヘススが訊ねる。
「わしは神出鬼没でな。例の力を使えば行きたい所へ好きな時に行けるのじゃ。
さて、そなた達は随分と危険な依頼を引き受けたのう。殺されるかも知れんのに」
老人が好奇心から訊ねていると受け取ったヘススは、
「村の人達が邪教集団に苦しめられているんだ。放っておいたら、この村は滅びるしかない」
と、強く答える。
その彼の姿を見て、老人は感心したかの如く頷く。
「ところで、そなた達はついさっき自らの運命について話しておったので、わしが偶然ではないと指摘したが、その理由が判るかのう?」
ヘスス達が首を傾げるのをに対し、老人は更に続ける。
「まあ、判らんのも無理はない。ならば、わしが教えてあげよう」
と言うや、彼は両手を三人に向け何かを唱え始めた。すると、老人の体から激しい光が発せられ、三人はその中へと吸い込まれるかの如く包まれた。
やがて意識が戻り、三人が見たのはアメリカではない、中世の頃かと思われるヨーロッパの某王国であった。
その王城と思しき所では、王を中心に軍の騎士達が何やら会議を行っており、敵国との最終決戦に向けて作戦を講じているところであった。
長い会議の末、敵国の司令官を招いてパーティーを開き、隙を突いて殺した上で敵の王城に攻め込み、陥落させる戦術を使う事で話は纏まった。そのための刺客として、三人の精鋭騎士が選ばれたのだが、その三人がヘスス、ライアン、リアに瓜二つなのだ。
やがて戦となり、互角の戦闘が続く中、突如、王国側の司令官が講和のために交渉をしたいと呼びかけ、敵の司令官とその妻が王国側の陣営に招かれた。
敵から急に歓迎されて、二人は怪しみながらも取り敢えずパーティーに出て、料理と酒を味わった。そして二人が酔った時、三人がその司令官夫妻を暗殺してしまったのだ。
死ぬ間際、「末代まで、呪ってやる!」と、司令官は断末魔の叫びを上げ、卑劣なる手段により、王国は敵国を手に入れたのだった。
その光景を見ていた三人は、気が狂いそうになる。
元の世界に戻り、今のは幻だったのかと三人が呟いたところで、老人が改めて説明したのである。
「今のでお解り頂けたかの? 何を隠そう、あの戦いにおいて敵司令官夫妻の暗殺任務を与えられた三人こそが、そなた達の前世そのものだったのじゃ。そして、殺された司令官夫妻はヘススを刑務所に送ったあの父子に転生したのじゃよ。前世でそなた達に殺された恨みを晴らさんがため、そなたを無実の罪にて刑務所へ入れたのと、ライアンとリアを含めた三人が幼い頃より辛い生き方を強いられたのも、実はその因果応報なのじゃ。
恨みを晴らした父子はヘススの赦しにより救われる筈だったのじゃが、息子である妻が酒場にて店の女に手を出してしまったのが原因で婚約者が死に、父子も化け物に殺されてしまう辛い結果に変わってしまった。
もし、その事さえなければ父子は幸せになる人生を歩めたのじゃが、心の油断により過ちを犯してしまったが故に、新たな負のカルマが生じ、自らの運命を変えてしまった訳じゃ。更には、ヘススの仲間であるロンが死に、ライアンの両親が死刑になり、リアの両親が失踪したり先輩達が殺されたのも、二人を殺した事への報いじゃ。
最後に、一番のカルマによる報いを受けさせようとしている相手がいるのじゃが、その人物こそ、そなた達が明日にも戦おうとしている邪教集団の教祖、シャイターンなのじゃ。彼こそが、そなた達三人の前世によって殺された司令官夫妻の、たった一人の息子だったのじゃよ。両親を殺され祖国を追われた息子は放浪の末、とある貴族制国家の大公に拾われたものの、長い旅のせいで体はすっかり病に冒され、遂に十八歳で世を去った。そなた達への恨みと憎しみを残したままでな。
そして数百年の時を経て、息子はシャイターンとして、暗殺者三人はそなた達として再誕したのである。普通、転生者が前世での記憶を覚えている事は殆どないのじゃが、あやつはそなた達への恨みが異常なる程に強かった故、奴は前世の記憶をその脳裏に留めたまま転生したのじゃよ。
教祖となった時には、死者の霊を操る術をも身に付けたため、悪霊を中心に魂を肉体化させ、そなた達を襲わせたのじゃ。無論、奴もいずれそなた達との直接対決に向け、こちらの行動を監視しておる。本来、互いのカルマを清算させられるのは、「愛」以外にあり得ぬのじゃが、もはや奴にはその事すら通用しなくなってしまっておる。苦渋の決断にはなるが、そなた達は奴を手にかける行為により、止める覚悟は出来ておるのか?」
老人から説明を受け、三人は少しの間、黙ったままだったが、やがて意を決し、
「出来ています」
と、答えた。
「よし。では、わしも及ばずながらも、出来る限りの手助けをしよう」
老人は、厳かに告げた。




