表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救い主達が静かにやって来る  作者: 五島伊織庵
13/23

第五話 再会

      一


 何処かの不気味な建物の暗い室内にて、一人の黒っぽいローブを纏った男性が、蝋燭ろうそくのぼんやりした灯りの中、祭壇の前に座り何やら呪文と思しき言葉を唱えている。

 祭壇にはサタンらしき悪魔の像が祀られており、如何にも邪悪なる空気に包まれているのを象徴している。

 するとそこへ、

「シャイターン様、ギガントがやられました」

 と、神官らしき服を着た若い男が報告にやって来た。

 シャイターンと呼ばれるローブ姿の高僧は正面を向いたまま、

「そうか。予想はしていたが、もう倒されてしまうとは……。ご苦労であった。退がりなさい」

 と答え、神官が去った後シャイターンはサタンの像を見上げ、

「奴らは必ず、我が前に現れる。前世での恨み、晴らしてくれる……」

 そう呟き、含み笑いをしたのである。


 翌日、みんなに見送られて村を出発した三人はテキサス州のサン・ジュリアンという街を目指す事にした。その街こそ、ヘススがでっち上げの裁判にて有罪とされた、因縁の場所なのだ。そこへさえ行けば、彼を陥れた親子に会えるに違いないと、三人は考えたのである。

 三人にとって初めての同行となった訳なのだが、少し話をしているうちに、ヘススとライアンはリアがほんの数日前まではまだ見習いシスターだった事を知ると、二人は驚き、ヘススは思わず目を丸くし、ライアンは本当か? と疑ったが、リアが身に付けていたロザリオを見せると、ライアンも今度は納得して疑いを解いた。

「けどよぉ、どうしてシスターからガンマンに転じたんだ?」

 ライアンが訊ねると、リアは急に少し悲しそうな表情を見せながらも、経緯について話し始めたのである。

「実は、私が修行していた女子修道院があの化け物達に襲われて、同じ仲間のシスターや神父様もみんな殺されてしまったの。その事があってから、みんなの仇を取りたいと思って、シスターを捨ててガンマンになったの。聖書の教えには背くけど、こうする以外にどうしようもなかった……」

 彼女の話を聴いていたヘススは辛そうな顔をし、ライアンは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「ひょっとして、あんた達、同情してくれているの?」

 そんな二人を見たリアが訊ねると、

「当たり前だ。こんな悲劇を知って、どうだっていいだなんて思っていられるか」

 ライアンが強い口調で答え、

「辛い事を訊いてしまって、俺達こそ悪かった」

 ヘススも謝罪する。

「ありがとう。何だか、ちょっとだけ嬉しいわ」

 リアは微笑みながら礼を述べ、ライアンは少し照れ臭そうにし、ヘススも心がほぐれたかの如く笑う。

 そうしながら荒野を進んでいると、そこへ四人組のアウト・ロー達が岩の陰から飛び出して来たのである。

「おい、待ちな。お前、手配書にあったヘススだな?」

 リーダーらしき下品なるガンマンが訊ね、

「だったら何だ? 貴様も賞金に目が眩んで、わざわざ死にに来たのか?」

 ヘススも挑発的な返事をする。

「死にに来たのかとはご挨拶だな。そうさ、お前にかけられた金は、俺達の物だぜ。悪いが、お前らにはここで死んでもらうぜ」

 四人が気味の悪い笑い声を上げ、ヘススとライアンは相手をするために馬を降りようとする。

「ちょっと待って、ヘスス、ライアン。こいつらは私に任せて頂戴」

 そう口にしたのは、リアだった。

 リアは馬から降りて大地に立つと、四人組に向かって次の通りに罵る。

「あんた達に彼は殺させないわよ。彼は、私の獲物なの」

 その彼女の言葉を聞いた四人組は明らかに馬鹿にしている笑い声を上げ、

「お前、本気か? 女一人だけで俺達男四人に何が出来るってんだ?」

 リーダー格が罵り返す。

「そういうあんた達こそ、女一人を相手に四人がかりじゃなきゃ戦えない訳?」

 少し呆れたと言わんばかりにリアが訊ねると、笑っていた四人は急に険しい表情になる。

「ヤバいぞ。あいつ、奴らを本気で怒らせちまったみたいだぜ? あいつだけじゃ心配だ、俺も加勢する」

 見るに見かねたライアンが急いで彼女のもとに行こうとするのを、ヘススは手を伸ばして制した。

「待て。今はリアにとって真剣勝負の時なんだ。俺達は邪魔しちゃいけない」

「だけど……」

「信じるんだ。とにかく今は、彼女を信じるんだ」

 ヘススはそう言うと黙り、ライアンもゴクリと喉を鳴らす。

「お前、俺達を怒らせたらどうなるか判ってんだろうな? 今のところ、俺達に勝った奴は一人もいねぇんだぞ?」

 リーダー格が詰問なじるのも構わず、リアは含み笑いをする。

「じゃあ、私がその初めて勝った奴になろうかしら?」

 彼女の挑発を聞いた四人はもう我慢ならないとホルスターの銃に手を遣ろうとしたが、彼らよりも速くリアはレミントン・モデル1875を抜くと、すかさずファニング・ショットをお見舞いしたのだった。

 死体となった四人組を見ながら銃をホルスターに収めたリアは、急に荒い呼吸を始め、腹の底から安心したのである。

「おい、大丈夫か? リア」

 心配したライアンが駆け寄って声をかけ、ヘススも後に続く。

「撃っている時、ずっと息を止めるほど、緊張してたんだろ? まともに人を殺したのは、今が初めてだな?」

 そう優しく問いかけるヘススに対し、リアは、

「……その通りよ。化け物は撃ったけど、生きている人間を撃つのは、今日が初めてなの……」

 そう正直に答える。

「無理もない。誰だって、人を殺める時は言葉では言い表せない恐怖に襲われるんだ。けど、じきに慣れるよ」

 ヘススに元気づけてもらい、リアはやっと笑みを見せる。

 その後、アウト・ローや化け物と何回も戦いながら、金と弾に食糧を回収しつつ、三日ほどかけて三人はやっと目的の街、サン・ジュリアンへと辿り着いたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ