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第6章 神殿 その5 飛ばざる者キユネフルーガス

 一行は注意をしながら宮殿を目指す。最初は一軒一軒民家の中に誰かいないか確信しながら進んだが、誰もいないため途中から真っ直ぐに宮殿で向けて歩いた。

 宮殿の前に立ち止まる。


 「大きいっちゃ」

 ココが宮殿を見上げる。高さは十ジュメはあるだろうか。幅は百ジュメはあるだろう。一階は石柱が並び、壁には五ジュメはあると思われる細長い窓がくり抜かれている。窓は凝った装飾が施されている。


 「ほら、あそこに石像さんが並んでいるっちゃよ」

 ココが指刺さすと、一行は石像を見上げた。天井付近に何十体の石像が並んでいた。一頭分、隙間が空いている。


 「ココ、矢を打ってみてくれ」

 アッシュールは石像を指さす。


 「いいけど、矢があと五本しかないっちゃ」

 ココは弓に矢を取り出す。


 「そうなのか? どこかで矢を調達しないと駄目かな」

 ココは首を振る。


 「この矢はコルじいちゃんの羽で出来ているっちゃよ。コルじいちゃんは飛ぶのが速いから、矢も速く飛んで必ず当たるっちゃ。普通の矢だったら、全く当たらんきに」


 「え、だって森一番の弓打ちって言っていただろ」

 「パパ、見栄っちゃ。蒸し返すと嫌われるっちゃよ」

 ココは矢を放つと、石像に当たる。石像は動かなかった。


 「矢は後で考えよう。大丈夫そうだな」

 アッシュールはお腹を押さえながら、宮殿内に入った。

 宮殿内部は広い空間だった。二階は無く、広いホールがあるのみだ。数本の太い柱が、十ジュメ上の天井を支えている。細長い窓から光が斜めに入り込み、床に光のコントラストを与えていた。


 「おばさんなの?」

 ルージャが左右を見まわす。


 「どうした、ルージャ、おい、一人で行くな!」

 アッシュールの静止の声も空しく、ルージャは左側に走っていく。

 一行も慌てて移動する。ルージャが立ち止まった。


 「おばさん、なの」

 ルージャは壁の前で立ち止まった。壁は石で出来ている。格子状に、掌大の窓がくり抜かれている。

 アッシュールは格子の窓から中を覗く。女性が座っていた。暗くてよく見えない。


 「おや、四代目がいらっしゃいましたわ。おかしいわね、四代目は姫様のはずなのに、もう一人いらっしゃるのね」

 女性は立ち上がると、壁に近づいて来た。アッシュールは思わず力が入った。ココはアッシュールの後ろに隠れる。


 「初めまして、四代目の真理殿。私は一代目の妹、飛ばざる者キユネフルーガスです。お目にかかれて光栄です。あら、なるほど、そう言うことでしたか。道理で竜の血の力が少ないと思いましたわ」

 キユネフルーガスはアッシュールに近づいた。


 「あなた、四代目の竜の血の力を受け継いだのね。棟梁様なのかしら」

 アッシュールはどうして良いかわからず、呆然と立ちすくむ。かろうじて棟梁、と言うところで頷いた。


 「棟梁様、お願いがございます。壁の牢から私を出していただけないかしら。棟梁様なら願えば牢は開くと思います」

 アッシュールはルージャを見る。ルージャは小さく頷く。続いてルガング、ララク、ジアンナを見る。皆は緊張した顔でアッシュールを見ている。

 アッシュールはグアオスグランを抜き、剣先を牢に向ける。


 「今代の竜の棟梁、赤い世界の清い風が、妻である赤い世界の真理、娘の赤い世界の青い空、赤い世界の護衛と我の眷属と共に赤い世界の飛ばざる者との面会を所望である。牢を開けよ」


 壁が微かに揺れ始めた。一行は後ろに下がると、壁が崩れ始めた。壁が全て崩れると、キユネフルーガスの姿があらわになった。


 銀色の髪、オッドアイ、白い肌。美しい女性が立っていた。背はルージャよりも少し低い。アッシュールはルージャと目の形、すっきりとした顎のラインが似ている気がした。ふわりとした不思議な衣類を纏っている。

 キユネフルーガスはアッシュールの前に膝まつき、細い右手を差し出した。アッシュールは右手で受ける。


 「初めまして、棟梁様。このキユネフルーガスになんなりと申しつけくださいませ」

 キユネフルーガスは壁の破片を一個持つと、息を吹きかけた。破片は振動を始め、大きくなり始める。キユネフルーガスは破片を床に投げると、オオトカゲの姿になった。

 アッシュールとララク、ジアンナは思わず槍を構える。


 「アッシュール! 村を襲ったトカゲだ!」

 キユネフルーガスはオオトカゲに横向きに座った。


 「大丈夫です。この子は私の命しか聞きません」

 キユネフルーガスは落ち着いてオオトカゲの頭を撫でている。


 「しかし!」

 アッシュールは槍を振り上げるララクを静止し、キユネフルーガスの正面に立つ。


 「僕の村がそこにいるオオトカゲの群れに襲われて虐殺されました。どういう事か、説明していただけますか」


 「雨降が来て、ディーグペルソノ、この子達を連れ去ったのです。恐ろしい雨降でした。私を牢に閉じ込めました。ディーグベルソノは穴を掘る者達なのです。私は初代の命により、ディーグペルソノを率いて道を掘っていました。永遠に掘り進むよう言われているのです。雨降は竜並みの血の力を使いこなし、ディーグペルソノの意識を奪い、さらに何かの種を仕込んでおりました。ディーグペルソノがいたした事は、私の責であるのは間違い有りません。命じていただければ、この首を差し上げたいと思います。かりそめにも私は最古の赤い世界の眷属です。二言はございません」


 アッシュールは考え込んだ。


 「キユネフルーガスさん、雨降って小さな女の子ですよね。乱暴をするような子に見えなかったのですが」

 キユネフルーガスは首を振った。


 「閉じ込められたのはちょっと前です。男性でしたわ。エルニカという者です。今の雨降が女の子であるのなら、代変わりでしょうね」


 「エルニカ!」

 ララクがアッシュールを見る。ルガングも頷く。


 「そういうことか。エルニカという男はあと何かしましたか」

 アッシュールがキユネフルーガスに詰問する。アッシュールは美しいと思った。オッドアイの不思議な目に引き込まれそうになる。


 「集魂の石を持ち出されました」

 アッシュールは不思議そうな顔をする。


 「ご無礼かと思いますが、三代目は四代目が生まれてすぐに亡くなったので、一族の事を知らないかと思います。向こうの壁にレリーフがあるので、そちらで話をさせていただきます」

 キユネフルーガスはオオトカゲに乗ったまま、右側の壁に移動し始めた。


 「棟梁殿、ルージャさんと並ぶくらいの美人だ」

 ルガングは小声で話しかけてくる。


 「王子さんはお后はいるんでしたっけ」

 アッシュールが問うと、ルガングは顔を振った。


 「一昨年に病気で亡くしました。いい女だったんですがね。何か?」

 ルガングが不思議そうにアッシュールを見る。アッシュールはルガングをなだめると、ルージャの方を向く。


 「彼女は一代目の妹とか言っていたけど、何歳なのかな」

 アッシュールは小声でルージャに話しかける。


 「うーん、数百年はたっているわよ。凄いわね。竜より長生きなんて、どうしてなのかしらね」

 「なるほど」

 アッシュールはにやりと笑う。


 「パパ、変なこと考えたっちゃね」

 「皆様、我々赤い世界の一族はこの大洞窟からこの地に入りました。大洞窟の向こうは、竜の島があります。竜の島は竜が生まれる場所、我々の古里になります。四代目の姫様も島で生まれているのです。二百年掛けて私が掘った洞窟です」


 キユネフルーガスは大洞窟を見上げた。直径十ジュメほどの洞窟だ。キユネフルーガスはしばし見上げた後、再び進み始めた。


 「ここが、竜の島へ」

 ルージャは感慨深げに見上げた。


 「ルージャ、エルニカを何とかしたら行こうよ」

 ルージャは頷くと、キユネフルーガスの後を追い始めた。

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