第3章 目覚め その6 コリとクコとの別れ
服を着替えたら、クコが入ってきた。手に、武装を持っている。
「アッシュールさん。亡き、コルじいの胸当てです。お納めいただけませんか」
クコはアッシュールに胸当てを付けようとするが、小さかった。胸当ては竜の鱗の様だった。
「アッシュール殿は確か立派な鎧をおもちでした。ルージャさんにいかがでしょうか」
クコは武装一式をアッシュールに手渡す。
アッシュールはルージャに胸当てを付ける。胸当ては、皮の上にあかかねの鱗が取り付けられている。長さは腰まである。袖はなく、肩までだ。アッシュールはルージャに籠手を嵌める。籠手も皮とあかがねで出来ていた。あかがねは薄く、思ったよりも軽い。
肩を守る袖を付ける。袖も鱗でできている。
ルージャは鎧を着け終わると、長い髪を掻き上げた。銀色の髪はふわりと鎧に降りかかった。
「アッシュール殿、剣を」
アッシュールはクコから剣を受け、ルージャの腰に付ける。
「良くお似合いです。コルじいが生き返った様です。違いますね。言い伝えの竜神の様です」
「パパ、着替え終わったっちゃか」
「あら、ココちゃん。アッシュールさんはパパになったの」
「うん。おねえちゃんがママなんだ」
「そう。良かったね。アッシュールさん。ココちゃんをお願いしますね」
「コルじいちゃん! 違う、ママだ」
綺麗な服に着替えたココと、リビングに戻ると、コリも鎧を着けて待っていた。コリの鎧は皮で出来ている。
コリは外に出るよう手で促す。アッシュールは座っているルージャを両手で抱き、コリについて行く。十件ほどの家屋を抜けると墓地が広がっていた。墓地の一角に、二つの穴が掘ってある。
既に、二名の遺骸は穴に安置されている。穴の回りには、沢山の人が集まっていた。翼を持つ者はいなかった。
アッシュールはルージャを降ろすと、翼の無い人が、椅子を用意してくれた。
「ココちゃん。お別れよ。ご挨拶をしてね」
コリがココを遺骸に近づける。
「さようなら、コルじいちゃん。村長さん。ココはこれから旅に出るっちゃ。だから、さようなら」
「アッシュール殿、亡くなった二人に、言葉をいただけないでしょうか。アッシュール殿にいただけたら、光栄です」
アッシュールは腰のグアオスグランを抜き、横に薙いだ。この剣は不思議な力がある。人の生死を司るなにか不思議な力。
アッシュールが剣を薙ぐと、一陣の風が吹いた。風は心地よく、心に響いた。
「誇り高き村長のコリよ、そして誇り高き大空の戦士コルよ、我、竜の名の下に我に帰る事を許そう。そなたの人生は残る者の模範になり、清く、正しかったと証明しよう。そなたの苦しみは皆の糧となり、生きる力となろう。そなたの足跡は皆のしるべとなり、暗闇に明かりを灯すだろう。そなたの子孫は繁栄し、皆がそなたを目指すだろう。安心して我に帰るがよい。我はそなたの一歩、耐え難い苦難に充ちた一歩一歩を称えよう。そして」
アッシュールはコリとクコ夫妻の前に立ち、頭の上を剣で薙ぐ。
「コリさんとクコさんに、幸せが沢山ありますように。これから子供を百人出来ますように。この剣は、竜の剣です。この剣に願ったことは本当になりますよ」
ルージャとクコ、女性陣はちょっと笑っている。男のコリはちょっと戸惑っているが、受け流し、ココに小さなスコップを渡す。土が乗せられている。ココは土を半分づつ、墓穴に掛けた。掛け終わると、翼のない人達が墓に土をかけ始めた。ココは大粒の涙を流した。
「じいちゃん達、さようなら、さようなら」
土はかけ終わり、墓標が立てられた。クコが花を添え、意一同は解散した。コリとクコは、翼の無い人と話をし、握手をしている。アッシュールの方へ来ると、先ほどの家屋に案内された。
「お別れです。アッシュール殿。我々は今からここを出ます。もっと、山奥に住もうと思います。ココ、アッシュール殿の言うことを聞くんだよ」
ココが頷く。クコはココを抱き寄せる。
「ココちゃん。じゃあね。一緒に行きたかったけど、もう新しいパパとママがいるから良いよね。またね。さ、ルージャさん。先にお送りしますわ」
二人は荷物を背負い、ルージャを二人で抱えると、空高く舞い上がる。
ココはアッシュールに促され、爆音と共に周囲に強烈な風を巻き起こすと、空高く舞い上がった。
クコとコリは比較的ゆっくりと飛んで行く。ココは、猛烈な速さで二人の回りを飛ぶ。白い雲が、クコとコリを取り巻いては離れ、また取り巻く。ココは別れを惜しむように、二人の回りを飛んでいた。
葬儀が終わり、クコとコリが去ってから数日が過ぎた。体が上手く動かないルージャをアッシュールとココが手伝う日々を過ごしていた。ルージャは日を追う毎に回復し、動けるようになっていった。
「ね、パパ。ちょっといいっちゃか」
「あら、ココちゃん。アッシュールと何を話すの?」
「ママには内緒っちゃ。パパ、あっち行こう」
「なんだい。ココ」
「あのさ、ママってうちの妹っぽいちゃね」
アッシュールは何事かと思って聞いていると、よく分からないことを言い始めた。
「だって、クコおばちゃん達が行ってから、湯浴みや着替えもうちが手伝っているし、パパがご飯の用意するし、ママって何もしないっちゃ。ママというより、妹っぽいっちゃよ。ママと何かしたとね? うちに全部はなすっちゃよ」
「まぁ、そのような気がする」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
「ママは嫌いかい。ココ」
「ううん。大好きっちゃよ。ママでも妹でも大好きっちゃ。なんか不思議っちゃ。あ、昨日はアッシュールに聞けないのだけど、妻って何をすればいいのかしらっていっとたよ。いきなりチューしてきて子供ねって言ってた」
「え」
「そうっちゃ。うちもね、小さい頃はコリおじちゃんが好きでね、結婚しようっちゃ言ったし、ほっぺにチューしとったよ」
「お、お前コリさんにチューを」
「ちょっと! そこ食いつくとこじゃないっちゃよ。恥ずかしいっちゃ。だから、赤ん坊がチューしたり結婚しようと言ったり、するじゃろ、似とる思うてな」
押し黙るアッシュール。この数日、一緒に生活をして感じた事をココに言われている。
「ね、ママのこと教えてっちゃ。ママは凄か美人っちゃ、パパがママの事、守とったのはわかるけん。パパの好きなおっぱいも大きいしな。ただ、ママのことを知りたいだけっちゃ」
「そんなに見てるかな」
「ガン見や。スケベ」
「ごめんよ」
「いいっちゃよ。ままごとやけど夫婦だし。もう少し遠慮するっちゃ」
「ままごと」
酷くショックを受けるアッシュール。
「で、話すっちゃ」
「わかったよ」
アッシュールは、ルージャとの出会いをかいつまんで話す。
「え、ママって人じゃなかと」
「うん。竜だ。本当に竜だ。これが、その時の剣、グアオスグラン。グアオスグランの一部が、熊の時に槍になったんだ」
「本当っちゃか? あ、でもその剣、覚えているっちゃよ。うちが死にそうなとき、助けに来てくれて、凄か嬉しかったっちゃ」
「覚えているのか」
「うん。覚えちょる。あれから、すっきりして気分がええんよ」
「ルージャにも、同じ事をしたんだ。竜の血の力、魔力っていうらしいだけど、もう性も根も尽き果てているのに僕に祝福して、力尽きたんだよ。まずいって思ってね。生きるように諭したんだ。だから、目を覚ますのに時間が掛かったんだと思うよ」
「アレを、やったの。うん。やったの」
「うん。ルージャはね、竜の意地みたいのが出てきてね、誇りの為に死ぬっていうから、意地をぶった斬ってやったんだ」
「そう。良かった。パパ、流石っちゃ。ありがとう、パパ」
ココは大粒の涙を流し始めた。
「どうした、ココ」
「うちね、パパに助けて貰ってから、パパのこと凄く好きになったっちゃ。ママが一緒に行こうって言ってくれて、凄く嬉しかったっちゃ。もう、他人じゃなか。多分、ママもそう思っとっと。ママがそのうちどこかに行っちゃう気がして、怖かったっちゃ。でも、いいっちゃよ。ママは妹でも、一緒っちゃ。よかよか」
「なんだ、そんなことを心配したのか」
「だって、ままごとだし、パパとママ」
「声が出ねぇ」
ルージャの秘密をココにも話しています。
ココはすこしませてきました。
拙作を読んでいただいている方、ありがとうございます。
どうやら、朝に読まれていることが多いようです。
これから、学校やお仕事でしょうか。
勉強、お仕事、大変でしょうが頑張って下さい。




