第3章 目覚め その7 旅立ちの朝
いよいよ世界の果てを目指す旅にでました。
さて、旅路にはどのようなドラマが待ち受けているのでしょうか。
ココは、熊との戦い以降、酷く大人びている。心が自立したのかも知れないと、アッシュールは感じた。
「あの槍を、ココにあげよう。竜の槍だ。竜の血の力、魔力が詰まっているはず。柄は半分にしないと駄目かな」
ココは驚きとともにアッシュールを向く。
「良く聞くんだよ。ルージャの本当の名は、赤い世界の真理。赤い世界という竜の一族だ。この剣はグアオスグラン。この剣を持つ僕は赤い世界の清い風さ。ルージャから貰った名だ。僕も、竜っぽいだろ。ココは、赤い世界の青い空。大空を翔る、竜の槍を持つ者だ。槍の名は、ブラチエロ。これでココも竜だ。いいだろ、ルージャ」
「うん。いいわ。これで、私たちやっと家族ね。秘密も全て、一緒。でも、誰にも言っちゃ駄目よ。名前は秘密で、神聖なもの。わかった?」
「ママ、いつから聞いていたの?」
「内緒。ままごとって言われて落ち込むわ」
「全部聞いているっちゃ! ひどか!」
口調とは裏腹に、顔は嬉しそうだ。
「おいで、ココ」
アッシュールは槍を取り出すと、柄の長さを人の背の一人半で切断し、ココに手渡す。
「竜の槍、ブラチエロ。これで、うちも竜。名前は赤い世界の青い空」
「ねぇ。アッシュール。私はそろそろ大丈夫よ。もう歩ける。ここの生活も楽しかったけど、行きましょう」
「うん。行こうか。ココ」
槍を眺めていたココは、我に返る。
「明日に、出発だ。準備をするんだよ」
「うちはいつでもいいよ。別に荷物はないっちゃ」
「私も無いわ。今でも良いわよ」
ココとルージャは荷物が全く無いらしい。
「よし。では、明日出発しよう。今日は荷物の準備をする」
アッシュールはザックに鋸を入れ、食料を詰め込めるだけ詰め込んだ。斧はアッシュールが腰に付ける。それでもドライフルーツ類は余る。アッシュールは布にまとめ、ココとルージャに背負わす事にした。
「ココは槍を杖代わりにするんだよ。穂先は隠しておくか。ルージャの杖が無いね。木を切り出すか。鎧は着なくても良いけど、コルさんの剣は腰に付けておいて」
アッシュールが振り向くと、ココは槍を抱いてベッドに横になっていた。
ルージャはアッシュールに静かにするよう、口に人差し指を当てて諭した。アッシュールは指で外に出ようと合図をする。
二人が外に出ると、晩秋の日射しは冷たく、肌を刺した。
アッシュールはルージャと出会った岩に連れていくと、ルージャを抱き寄せた。
「ルージャ。愛している。愛している」
ルージャは目を閉じると、手をアッシュールの頭に廻し、唇を重ねた。
「もう離さないよ、ルージャ」
ルージャは小さく頷いた。
「私はもう、ひとりじゃないのね」
アッシュールも、ルージャも、一人だった。ココも孤児だ。でも、こうして一人じゃなくなった。一人ではない心強さをアッシュールは感じた。ルージャがいれば、生きて行ける気がした。
アッシュールとルージャは岩の陰で横になった。ルージャはアッシュールの胸に顔を埋めてくる。アッシュールの体に豊かなルージャの胸が押し当てられる。ルージャを左手で軽く抱き寄せると、寝息を立て始めた。アッシュールはルージャの背中を撫でながら、美しい顔を見ていた。
日が暮れ始めてきたが、ルージャは寝息を立てたままだった。ココが二人を見つけるとアッシュールの右手に潜り込んできた。
「うちも一緒に寝るっちゃ」
アッシュールは右手でココの頭を撫でる。白く、美しい羽根を撫でる。羽根は柔らかく、芯が硬い。
「パパ」
「なんだい、ココ」
「ううん。なんでもないっちゃ」
ココはアッシュールの体に顔を埋め、寝息を立て始めた。
明日から、旅に出る。ルージャとの約束だ。世界の果てまで旅をする。アッシュールは三人であれば、何が起きても乗り越えられる気がした。
翌日、アッシュールはタルボとカルボに鞍を取り付け、荷物を均等に背負わせる。
「アッシュール。行きましょうか」
「うん。ルージャ、ココ。行こうか。ここも楽しかったから、名残おしいよね」
「大丈夫っちゃ。さぁ、行くっちゃ」
「その前に、ココ、この毛皮の上着を羽根の上から着るんだよ。羽根は僕たち以外には見せないこと。いい、絶対に見せてはダメだよ」
「どうしてっちゃ。ウチの羽根、パパは綺麗だって言ってくれるのに」
「ココはね、非常に珍しいんだ。これから旅をすると、人が沢山いるところも通る。人が沢山いるとね、悪い人間も沢山いるんだ。実際、攫われたりしそうだ」
「うん。わかったっちゃ。ママは綺麗だけど、隠せないっちゃね」
ココはアッシュールから毛皮を受け取ると上に着た。毛皮の帽子も渡す。毛皮は灰色熊の毛皮だ。
「ルージャも、毛皮を着るといいよ。凄い暖かいんだ」
ルージャは体のラインを強調するワンピースを着ている。少しでも、美貌を隠さねばならなかった。毛皮を着たから、隠れるような美貌でもないが。
「いいの、アッシュール。アッシュールが好きなおっぱいが見えなくなるわよ」
「あ、パパのスケベ。でも、ママは少し隠した方がいいっちゃよ。おっぱい大ききすぎてうらやましかとね」
「いいから、着て。帽子も被って」
「あら、凄い暖かいわ。普通じゃないわよ」
「そうっちゃよ、ウチとパパで倒したおっきな熊さんの毛皮ちゃ。クコおばちゃんが縫ってくれたとよ」
「さぁ、行くよ。ココは僕とタルボに乗るよ。ルージャはカルボに乗ろうか。あ、ルージャは馬に乗れるのかい」
アッシュールは葦毛のタルボに近づくと、タルボは顔を擦り付けてくる。ルージャは黒駒のカルボに近づき、顔を触る。カルボは直立不動で微動だにしない。
「あっちのお馬さん、緊張してるっちゃね」
「ルージャは本当に竜だからな。本能で危険人物だと思っているのかも」
「アッシュール、どうやって乗るの」
「こうやって、鐙に左足を乗せ、エイッと乗ってくれ」
ルージャが鐙に足をかけようとすると、カルボが腰を下ろした。ルージャはベンチに座るように、横に座る。両足がカルボの左側にある状態だ。ルージャが座ると、カルボは立ち上がり、アッシュールを見た。ルージャは軽く手綱を掴む。
アッシュールはタルボに跨り、ココに手をさしのべる。
アッシュールは左の鐙の足を外すと、ココは右足をかけてきた。アッシュールは一気にココを引き上げ、アッシュールの前に乗せる。
「お馬さん、よろしくっちゃ」
ココが優しくたてがみを撫でると、タルボは軽く嘶いた。ルージャも真似してたてがみを撫でるが、カルボは微動だにしない。
「お願いね、カルボさん」
名前を呼ばれてようやっとカルボは小さく嘶いた。
「じゃ、行くよ、ベラフェロ、行くよおいで!」
アッシュールがベラフェロの名を呼ぶと、小屋からベラフェロが出てきた。
「ベラフェロ、みんなで旅に出るよ。ついておいで」
アッシュールが軽く手綱を握ると、タルボが歩を進めた。アッシュールは後ろを振り返ると、カルボが困った顔をアッシュールに見せた。
「カルボも着いておいで」
「さぁ、いくよ。ルージャ、ココ、ベラフェロ。目指すは、世界の果てだ」
アッシュールが高らかに宣言すると、手綱を軽く振る。タルボはゆっくりと歩き始める。続いて横向きに座ったルージャが続く。ルージャは軽く手綱を握っているものの、何かを指示している感じではない。ベラフェロが最後尾から、最前列に飛び出した。
小屋を後にすると、大きな岩が見えて来る。
「ルージャと出会った岩だね。ベラフェロともここで出会ったんだ」
アッシュールが懐かしく言うと、ベラフェロは大きく跳躍し、岩の上に乗った。大きく吠えた。アッシュールはタルボの足を止め、ベラフェロの咆哮に聞き入った。二度、三度と大きく咆哮した。
「ベラフェロも森とお別れだ。さぁ、行くよ」
ベラフェロは岩から降り、アッシュールの後ろに着いた。
「ねぇ、狼さんはパパの言葉が分かっているみたいっちゃね。どうしてっちゃ」
「あら、ココちゃん。お兄ちゃんだから当然じゃない。ねぇ、アッシュール」
ココの素朴な質問に対し、よくわからない返事を返すルージャ。
「ああ。当然だぞ、ココ」
話を合わすアッシュール。
「全然当然じゃないっちゃ、酷か」
「あはは。ベラフェロはルージャが本当に竜だった時の血を嘗めたと思うんだ。ルージャの血の力の恩恵を受けた、本当の家族さ。ココよりも先に家族になったのさ。だからお兄ちゃんだよ」




