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色彩  作者: よろず
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 寒さも本格的になり期末も終わった冬の日。里香はスマホの画面を眺めてニコニコと笑っていた。

 表示された画面には、遥からのメッセージ。


『迎えに行く。昼一緒に食べよう。』


 終業式に向けて午前中で授業は終わる。すぐに了承の返信をして、スマホを鞄にしまった。


「遥さん?」


 一部始終を見ていた桃がにやにや笑って里香に確認する。


「うん。迎えに行くからお昼一緒に食べようって。桃も行くでしょう?」

「んー、裕貴さんもセットでついて来てるなら行こうかなぁ。」


 遥と裕貴は大抵セットで里香に会いに来る。そうすると必然的に桃も連れ出されるのが四人の日常だった。

 たまに裕貴がいない時には桃は一人で帰宅するがそれは稀なケース。裕貴と桃は恋人という関係ではないが、一緒に行動する事は多かった。桃としては裕貴は面倒見の良い兄的な存在で、恋愛対象からは既に外れていたりする。

 午前中で授業を終え、帰りのホームルームを終えた里香のスマホに遥からのメッセージが届く。


『今駅着いた。そっち向かってる。裕貴も一緒。』


 桃へ裕貴も共にいる事を告げて、コートとマフラーを身に付けた里香と桃は連れ立って教室を後にする。

 靴を履き替えて校門を出ると、桃が他校の男子生徒に呼び止められ二人は足を止めた。


「すみません。突然。…話、良いかな?」

「え?私?里香ちゃんじゃなくて?」

「うん。君。」


 こういう風に里香が呼び止められるのには慣れていた桃だが、まさか自分が体験するとは欠片も思っておらず狼狽える。

 話を聞いてみると、部活の練習試合でこの学校に来た際に桃を見掛けて気になっていたのだと言う。


「でも、あの…知らない人なので…ごめんなさい!」


 そういう答えを想定していたのか、男子生徒は苦く笑って頷いた。


「だよね。驚かせて、ごめんね?」

「い、いえ。」


 高校最後の思い出作りだと笑った他校のその男の子は、同じ制服の友人達の下に駆け戻って行く。その背を見送り、桃は先程とは違う理由で心臓を跳ねさせた。


「里香ちゃん…」


 里香に視線を向けると、里香も同じ物を見て目を見開いているのがわかる。これはどういう事だろうと再び桃が見やった先には、桃に告白した男子生徒と同じ制服に身を包んだ、遥に良く似た青年がいた。そして彼もまた、里香を見つめて驚いている。


「桃、自転車乗って。駅に、逃げるよ。」

「わ、わかった!」


 何事かはわからない。だが、里香の固い声であまり良くない事態なのだと悟った桃は自転車に跨り、彼らがいるのとは逆方向の駅へとペダルを漕いだ。


「待て!茜!!」

「あ、茜って…」

「桃!遥さん、近くにいるから!」


 振り向いた先では、友人を置いて里香と桃を追い掛けて走り出した彼の姿。叫んだ声もまた、遥と似ているのはどういう事かと桃は一層混乱した。


「あっれー?お二人さん?」

「里香?」


 駅から歩いて来ていた遥と裕貴を通り過ぎてしまい、急ブレーキで里香と桃は止まった。

 止まった里香が自転車を投げ捨てて遥に駆け寄り、腕を引く。


「里香、どうした?」

「逃げなきゃっ!」

「何?何事?」


 尋常ではない里香の様子に、遥も裕貴も首を傾げて桃を見る。

 里香は逃げなければと遥の腕を引き、桃も何事なのかわかっていない為に答えに迷う。


「あの…遥さんとよく似た高校生が、追い掛けて来てんです。」

「何それドッペルゲンガー?」

「違うっ!影丸がいたの!遥さんっ、逃げなーー」

「マジ、かよ。二人揃って、なんだよ、これ……」


 息を切らせて追い付いて来た彼は、里香と遥を瞳に映して驚愕の表情を浮かべていた。


「うわぁ…ちょい若遥くんのドッペルゲンガーじゃん。」

「裕貴さん…これ、マズイんでしょうか?」

「わっかんね。遥くん、危険なん?」


 怯えている里香を腕に抱いた遥へと、桃と裕貴の視線が集まる。それを受け止める遥は里香の背を撫でて宥めながら、追い掛けて来た彼を見つめた。


「こんにちは。君は誰?」

「あんたこそ誰だよ。あとその女。あんたら、何?」

「君がどうして彼女を追い掛けて来たのか、教えてくれたら答える。」


 微笑んだ遥を真っ直ぐに見返して、彼は少し悩む素振りを見せる。意を決したように息を吸って吐き出して、彼は再び里香と遥を瞳に映した。


「景虎と茜。あと影丸ってバカな男、知ってる?」


 彼の言葉に、裕貴と桃は顔を見合わせる。

 影丸。遥の前世の弟で、景虎を殺害した張本人。

 里香の怯えように納得した裕貴は、遥がどう出るのかを伺う。


「知ってる。良かったら昼飯、一緒に食うか?」

「………食います。」


 微笑む遥と怯えきって遥の胸に顔を伏せている里香。

 そんな二人をじっと瞳に映す高校生。

 そして、彼らを不安気に見守る桃。

 裕貴はそれぞれの顔を見回して、倒れたままの里香の自転車を起こした。


「昼飯は良いけどさぁ、遥くん。彼女、怯えてんじゃん?俺、送ってこうか?」


 高校生の意図がわからない状況で共に行動すべきか判断がつかず、裕貴は遥に問題提起する。それに応えるように遥は里香の顔を覗き込み、安心させるように微笑んだ。


「俺は彼と話をする。里香はどうする?」

「……一緒に、行きます。」

「てかさぁ、そんな怖がんなくても何もしねぇって。俺、ただの高校生だし。身体検査でもする?」


 呆れたように両手を広げて見せた彼。それならば念の為と、裕貴が自転車を端に置いて歩み寄った。


「あんたは誰だ?」

「俺は遥くんの親友。事情もある程度知ってるよ。名前は裕貴。高校生くんの名前は?」

「……竜也。今井竜也。」

「うっし!危険物は所持してねぇな!」


 竜也の体をパンパンと叩き、鞄の中まで確認し終わった裕貴が頷いた。遥の腕の中にいる里香へと振り向くと、少しだけほっとした顔になっている。


「俺は近藤遥。行こうか。」


 結局全員揃ってファミレスへ向かう事になり、五人は駅前へと向かったのだった。

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