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第47話 あなたとなら未来を選べる


 誕生日の夜が過ぎ、日付が変わった深夜。

 家族と共に祝った賑やかな食卓の余韻が残る中…

 僕(颯真)と美玲さんは、二人きりで静かにソファに並んで座っていた。

 窓の外には雨が降り始め、街灯の光に細かな雫がきらめいている。


 僕の隣で、左手に光るリングを見つめながら、美玲さんは深く息を吐いた。


「……信じられない。こうして指輪をはめてもらっても、まだ夢みたい」


 その声には、嬉しさと戸惑いが入り混じっていた。



 彼女は宝塚の舞台に立ち、トップ娘役として頂点を極めている。

 拍手と歓声を浴び、数万人のファンに愛される存在。

 けれど今、僕の隣にいる美玲さんは、ただ一人の女性として、不安を抱えていた。


「ねえ、颯真」

「はい?」

「……本当に、私でいいの?」


 視線はリングから僕へと移り、その瞳は真剣で、どこか切なさを帯びていた。



「私はもう二十六歳。あなたとは七つも離れてる。ファンからは“憧れのタカラジェンヌ”って見られて、表では強く輝いていなきゃいけない。でも……舞台を降りたら、私はただの不器用な女よ。料理だって得意じゃないし、落ち込むとすぐ泣いちゃう。……そんな私を、颯真は本当に選んでくれるの?」


 畳みかけるように言葉が続いた。

 彼女の声は震えていたが、その奥には「信じたい」という強い願いが込められていた。


 僕は迷わず答えた。


「…………… 美玲さんじゃなきゃ、ダメなんです」



 彼女が目を見開く。

 僕は続けた。


「確かに僕はまだ若いし、社会人としても駆け出しです。頼りないことも多い。でも……初めて美玲さんを見たときから、僕の世界は変わった。舞台で輝くあなたも、素のままのあなたも――全部含めて、僕は好きになったんです」


 唇が震える。

 それでも僕は、胸の奥から湧き上がる想いを吐き出した。


「料理が苦手でも、泣き虫でも、年上でも……全部大切にしたい。だって、それが“美玲さん”だから」



 沈黙。

 やがて美玲さんの瞳に涙が滲み、頬を伝った。


「……そんな風に言われたの、初めて」

「僕の本心です」


 彼女は顔を伏せ、両手でリングを包むように握った。

 しばらく肩を震わせたあと、僕の胸に額を預け、小さな声で呟いた。


「颯真……ありがとう。あなたとなら……未来を選べる」


 その言葉は、舞台上で発せられるどんな台詞よりも、深く心に響いた。




 僕は彼女を抱き寄せ、そっと唇を重ねた。

 涙で濡れた唇は、かすかに震えていて、けれど甘くて、そして温かかった。

 触れるだけのはずが、離れられず、時間が止まったかのように長く続いた。


 彼女の吐息が混じり合う。

 肩越しに伝わる熱が、冷たい夜気を追い払っていく。

 鼓動の音が重なり合い、互いの胸の奥で響き合っているように感じた。



 やがて唇を離すと、美玲さんは僕の胸に顔を埋め、細い指でシャツをぎゅっと掴んだ。

 かすれた声が震えながらも、はっきりと耳に届く。


「……怖かったの。本当に私でいいのか、何度も考えた。でも、今は違う。颯真がいてくれるから、未来が怖くなくなった」


 その告白に、胸の奥が熱くなる。

 僕は彼女の背を撫で、耳元で囁いた。


「僕も同じです。誰がなんと言おうと、美玲さんがいい。これからも、ずっと」


 彼女は涙を拭いながら顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめた。

 その瞳は、不安を超えて確信に変わりつつあった。



 窓の外では雨がしとしとと降り続き、街灯に照らされた雫がきらめいていた。

 その静かな雨音が、ふたりを包む子守唄のように響いている。


 ――互いに選んだ未来は、決して揺らがない。


 そう強く心に刻んだ瞬間だった。


 僕らはもう、恋人という枠を越えていた。

 ひとりの男とひとりの女として、これからの人生を共に歩む覚悟を、確かに分かち合ったのだ。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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