第45話 退団を考える
春の公演が一段落したある夜。
美玲さんは久しぶりに実家へ帰省していた。
暖かな灯りに包まれた居間には、彼女の父・朝倉秀明、母・朝倉玲子、そして三人の姉たち――美佳、真央、美沙、弟二人――悠斗と駿が揃っていた。
食事を終え、団欒の空気が和やかに広がった頃、美玲さんは深く息をついた。
そして、家族の視線を集めながら口を開いた。
「……私、近いうちに宝塚を退団しようと思っています」
瞬間、居間に静寂が落ちた。
弟の駿が「えっ?」と声を上げ、姉の真央が驚いたように眉を寄せる。
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「どういうことなの、美玲?」
母・玲子が問いかける。
「私は、今の舞台を自分の最高の形で終えたいの。トップとして、一番輝ける瞬間を……宝塚での集大成にしたい。だから、退団を考えているの」
父・秀明は黙って彼女を見つめ、やがてゆっくりと頷いた。
「なるほど……だが、それだけで終わるつもりはないんだろう?」
「ええ。退団後は芸能界で活動を続けたいと思っています。舞台で学んだものを生かして、新しい挑戦をしたいんです」
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姉の美佳が腕を組みながら言った。
「でも、まだ若いのに……もったいなくない?」
「逆に一番輝いている今だからこそ、きれいに幕を引きたいの」
弟の悠斗は複雑な表情で呟いた。
「姉ちゃんが舞台に立たなくなるなんて想像できない。でも……姉ちゃんが決めたなら応援するよ」
姉の美沙も微笑んで続けた。
「芸能界で活動するなら、また違う形で私たちが応援できるわね」
家族は驚きと寂しさを抱えつつも、最終的には彼女の決意を尊重してくれた。
――ただし、この時点では誰も、彼女が颯真と交際していることを知らなかった。
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数日後。
美玲さんは颯真と会い、静かなカフェで初めてその想いを打ち明けた。
「颯真……私、退団を考えているの」
カップを置く音がやけに大きく響いた。
「退団……?」
「最高の舞台で終わりたいの。そして、退団後は芸能界で活動を続けたい。……本当は、最初に颯真に話したかった」
彼女の瞳は真剣だった。
颯真はしばらく言葉を失っていたが、やがて強く頷いた。
「……美玲さんが決めたことなら、僕は応援します。どんな道でも、隣で支えます」
その返事に、美玲さんは涙を堪えながら微笑んだ。
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さらに数日後。
美玲さんは颯真と共に、篠原家を訪れた。
居間には母・由美子、父・圭一、兄・拓真、姉・麻衣が揃っていた。
彼女は姿勢を正し、深く頭を下げた。
「今日は大切なお話があります。……私は近いうちに宝塚を退団しようと思っています」
全員の目が丸くなる。
麻衣が最初に口を開いた。
「美玲……本気なの?」
「ええ。最高の舞台を残して終えたい。そして、その後は芸能界で活動を続けたいと思っています」
父・圭一が低い声で問う。
「颯真には伝えてあるのか?」
「はい。最初に彼に話しました。……そして今日は、ご家族の皆さまにもきちんとお伝えしたくて」
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兄・拓真は黙って彼女を見つめ、やがて小さく頷いた。
「……退団は大きな決断だな。だが、お前が本気なら俺たちは見守るしかない。ただ――弟を支えてくれる存在であることを忘れないでくれ」
母・由美子は優しく微笑み、手を重ねて言った。
「美玲さんの覚悟、伝わりました。颯真も、あなたに支えられてきたのだから……これからもお互いを支え合ってね」
姉の麻衣も涙を浮かべながら笑った。
「友達としても、颯真の姉としても、あなたを応援するわ」
家族の言葉を聞きながら、美玲さんは深々と頭を下げた。
――こうして、彼女の退団への道は、颯真と家族の理解を得て動き出したのだった。
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