第22話 会えない日々、募る想い
秋の訪れを感じる頃、僕と美玲さんの距離は、これまで以上に遠くなっていた。
大学の講義、レポート、アルバイト。日々をこなすだけで精一杯な僕に加え、美玲さんは花組のトップ娘役として、連日早朝から深夜まで稽古と公演に追われていた。
以前は週末に会うことができた。
それが二週間に一度になり、やがて一か月に一度へと変わっていった。
会えない時間が長くなるほど、不安と寂しさは募る。
でも、彼女を責める気持ちには一度もならなかった。
――彼女が夢を背負っていることを知っているから。
⸻
その夜も、僕はアルバイトを終えて寮の部屋に戻ると、机に突っ伏したまま眠ってしまっていた。
スマホの震える音で目を覚まし、画面を見ると、美玲さんの名前が表示されている。
胸の奥が一気に熱くなる。
「……もしもし」
『ごめん、こんな時間に。稽古が終わったばかりで……』
彼女の声は疲れていたけれど、それ以上に優しかった。
「大丈夫です。声を聞けるだけで嬉しいです」
『……ほんと? 私、最近全然会えてないから、嫌われちゃったんじゃないかって』
その弱気な言葉に、僕はすぐさま否定する。
「そんなこと絶対ありません。むしろ、会えないからこそ、会いたい気持ちが強くなってます」
受話器越しに小さな沈黙が流れる。
やがて、ため息とも笑みともつかない声が返ってきた。
『……あなたって、ほんとに真っ直ぐ。だから私……支えられてる』
⸻
しかし、会えない現実は残酷だ。
彼女は舞台のために痩せ細り、心身ともに疲れていることを、僕は電話越しに伝わってくる声で感じ取っていた。
それでも彼女は「大丈夫」と言うばかりだった。
「無理しないでください。少しくらい休んだって、誰も責めません」
『……そうはいかないの。トップ娘役だから。私が崩れたら、花組全体が崩れてしまう』
その言葉に、僕は言い返せなかった。
舞台の責任の重さを、僕はまだ完全には理解できていない。
ただ、彼女が孤独に戦っていることだけはわかる。
「……それでも、僕はここにいます。会えなくても、ずっと待ってますから」
『……ありがとう。あなたがそう言ってくれるから、まだ頑張れる』
⸻
電話を切ったあと、僕は窓を開けて夜風に当たった。
遠くで街の灯りが瞬き、星空が静かに広がっている。
同じ空の下で、彼女も今、窓の外を眺めているだろうか。
――会えなくても、僕らは繋がっている。
そう信じながらも、胸の奥の寂しさはどうしても消えなかった。
ラウルが足元にすり寄ってきて、僕はその頭を撫でた。
「大丈夫。僕らは約束したんだ。……秘密を守って、支え合っていくって」
柴犬の温もりが、孤独な夜をほんの少しだけ和らげてくれた。
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