第21話 トップ娘役の重責とすれ違い
夏の舞台スケジュールは過酷だった。
花組の公演に加え、地方公演やイベント、雑誌の取材やテレビ収録。
トップ娘役となった美玲さんは、舞台の中心で輝く存在として、誰よりも多忙を極めていた。
当然、僕と会う時間は減った。
以前は週に一度は顔を合わせていたのに、今は一か月に一度でも奇跡だった。
それでも彼女は、合間を縫って電話をくれた。
⸻
ある夜、僕のスマホが鳴った。
ディスプレイに表示された名前を見て、胸が高鳴る。
「もしもし」
『……こんばんは。今、大丈夫?』
受話器越しに聞こえる声は、少しかすれていた。
「大丈夫ですよ。今日も稽古、だったんですか?」
『うん。朝から夜まで。もう足が棒みたい……』
苦笑混じりの声に、僕の胸は締めつけられた。
「無理しすぎないでください。……ちゃんと休めてますか?」
『休めてるようで、休めてないかも。でも、私がやらなきゃって思っちゃうの。舞台に立つみんなを引っ張っていく立場だから』
その言葉には、彼女の責任感がにじんでいた。
観客の拍手の裏で、どれだけの重圧と闘っているのだろう。
「……すごいです。僕には想像もできない。でも、美玲さんは誰よりも頑張ってる。それだけで十分です」
『……ありがとう。そう言ってくれると少し楽になる』
電話越しの沈黙。
互いに声を聞いているだけで安心するのに、それでもどこか物足りなさを感じた。
会いたい。触れたい。抱きしめたい。
けれどそれを口にすれば、彼女をさらに追い詰めてしまうようで言えなかった。
⸻
『ねえ』
ふいに美玲さんが小さく声を漏らした。
『私、最近……あなたに会えなくて寂しいの。でも、今は耐えなきゃいけないんだよね』
「……僕も寂しいです。でも、待ちます。どれだけ時間がかかっても」
『……本当に?』
「本当です。僕はどこにも行きませんから」
受話器の向こうで、小さな笑い声が聞こえた。
『ふふ……あなたって、ほんとに変わってる。普通ならこんな生活、耐えられないと思うのに』
「変わっててもいいです。美玲さんが笑ってくれるなら」
その夜、電話が切れるまで僕らはただ呼吸を重ねるように黙って繋がっていた。
会えない時間が長くても、声だけで絆を確かめ合えた。
――だけどそのすれ違いの影は、確実にふたりの背後に迫っていた。
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