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第7話 邂逅

前回のあらすじ「眠り姫をゲット……?」

―カーゴが襲われてから30分ほど「ナノリスの洞窟 最下層・コテージ内」―


「驚いたな……」


 ベットに寝かしつけたカーゴと同じ見た目の女の子を見たショルクは、あまりのそっくり具合に思わず言葉を失ってしまった。だが、女の子が酷い咳をし始めたところでショルクは女の子の診察を始めた。それは、どうしてカーゴとそっくりなのかという好奇心ではなく、酷く具合の悪い彼女の姿を見て、早急に手当てが必要という心配からである。


「髪と……瞳の色が違う以外はカーゴと同じだな。とりあえず、処置をするとしよう。どうやらこの子は不治の病に掛かっているらしいな」


「不治の病って……治らないってことじゃ?」


「そこはこのパナケイア! これを飲めば治るぞ!」


 そう言って、懐から自信満々に出来たその薬を高らかに掲げるショルク。カーゴはその姿を呆れた様子で見ている。


「酷い咳をしてるし……肺炎ってところなのかな?」


「肺に異常があるのと、この薬で治ると表示されているからそうだろう。という訳で……早速、飲ませるか」


 そう言って、意識の無いその女の子に薬を飲ませようとするショルク。


「ちょ!? そのまま飲ませたら危ないって!!」


 カーゴが後ろでそう指摘するのだが、ショルクは作った薬を、その場で生み出した魔法の水と混ぜ合わせ、それを器用に女の子の口から飲ませていく。


「ええ……」


 その服用のさせ方にドン引きするカーゴ。どうして、そんな事ができるのだろうかと思っていると……。


「ある毒の実験でモンスターに飲ませようとしてな。その際に編み出した魔法……というより魔力操作だな。どうだ、やってみるか?」


「止めとく。それと、もっと安全な方法を所望する」


「うむ……考えておくとしよう」


 そうこうしているうちに薬を飲ませ終えたショルクは、彼女の傍から立ち上がって背伸びをする。


「って事で、この後、カーゴの知識通りの肺炎なら酷い発熱と咳をするだろうから、しばらく診ていないといけないな。カーゴも手伝ってくれ」


「はいはい……。そうしたら、とりあえず夕食でも作って来るよ。サンドイッチとか摘まみやすい物にするからね」


 色々あって時刻は夕方。カーゴは夕食を作るためにその場を離れる。


「サンドイッチ……具材は消化に良い物にしておかないといけないかな。それとも別に消化のいい物を用意しておいた方がいいかな?」


 そんな事を考えていると、後ろのドアが開く音がする。「確かクロムという男性が……」と思いながら後ろを振り返ると、その男性が手に持っていた大剣を振り下ろそうとしていた。


「くらえ!!」


「えい」


 カーゴは振り下ろされた大剣に風魔法で作った小さな風の球をぶつけて男性を怯ませる。そして、そのまま腹を蹴り飛ばして、男が落としてしまった大剣を取り上げた。


「くっ……」


「お姫様ならそこの部屋にいるから。それとメイドさんも無事だよ」 


「……お前は何者だ? 何で姫様と同じ姿をしている?」


「似てる理由は私も分からないから。それとここで暴力は厳禁だからね……。あ、室内におじいちゃんいるけど、私よりヤバいから止めといた方がいいよ?」


 カーゴはそう忠告だけして、大剣を片手に持ったまま下の台所へと向かう。襲われたカーゴがここまで冷静な理由だが、彼らが自分を恐れているのがはっきりと分かっていたからだ。しかし、どうしてなのかはカーゴ自身は分からなかった。見た目なのか、それとも異世界特有の何か特別な方法で見破られているのか分からないが、襲ってきた男性も、あのメイドさんもどういう理由で恐れていたのかははっきりしていなかった。


「理由を訊かせてもらえるかな……」


 今後の参考として、ぜひともその理由を知りたいと考えていたカーゴ。その時、2階から大きな音がした気がするが、きっとショルクに叩きのめされたのだろうと思いつつ、夕食の準備をするのであった。


 そして、美味しそうなサンドイッチを持って2階の女の子が眠る部屋へと戻ると、そこにはムスッとした表情で床に座るクロムと必死に看病をするメイドさんとショルクの姿があった。


「何か色々あったみたいだけど……おじいちゃん、調子はどう?」


「薬が利いているようだ。先ほど少し起きて再度薬を飲んでもらったことだし、後は起きた時の調子を見てからだな」


「……そこのメイドさんがよく許したね」


 カーゴが自身を警戒するメイドさんに視線を向ける。その警戒心の高さからどこの誰かも分からない奴が作った薬を飲ませるとは思えなかったので、一体どんな手を使ったのか気になっていた。


「そこのメイドは鑑定のアビリティ……薬効や毒を鑑定できる魔眼を有していてな。パナケイアを見てもらったら、しぶしぶ飲ませることに承諾してくれただけだ」


「あの……失礼ですが、おじいちゃんというのは?」


 メイドさんが2人の会話に恐る恐る入ってくる。自分達が先ほどまでいた森での出来事、そこでムスッとしているクロムの姿、そこから推察すればこのおじいちゃんと呼ばれている男の子が只者ではないことは容易に察せたのだろう。


「この見た目だけど、私よりずっと長生きしてるからね?」


「本当に……?」


「カーゴの言う通りだ。かれこれ数百年は生きてるな。そういえば名乗っていなかったな。ショルク・アルケミー……しがない魔導士だ」


「ショルク・アルケミー……? まさか、大魔導士ショルク・アルケミー……?」


「そして、こっちは同居人のカーゴ。現魔王だ」


 それを聞いたメイドさんとクロムの2人が最大限の警戒を見せる。メイドの方はカーゴとやり合った際に彼女が魔王じゃないかと疑っていたが、ショルクがいたことで一度その考えを取り払っていた。そのため、自分達の身に何が起きているのかと戸惑っていた。


「おじいちゃん。魔王って言わない方が……」


「緊急事態だからな。誤魔化してこれ以上面倒なことになるのは避けたい。何せ私達にも関係するからな。とりあえず、カーゴもそれをここに置いて話しに加わってくれ」


「分かった」


 カーゴは料理をテーブルの上に置き、隣の部屋から椅子を持って来てそこに座りながら夕食を取り始める。メイドさんとクロムもショルクの勧めによって、サンドイッチに恐る恐る手を付けた。


「……美味しい!!」


「美味い!!」


 一口食べた瞬間、彼らは先ほどまでの警戒はどこに行ったのか、勢いよく料理を進めていく。カーゴはその2人にお茶を出すと、少しばかり警戒されながらも差し出したお茶も飲んでくれた。その姿を見たショルクはその場では難しい話はせずに、とりあえずこちらの紹介……カーゴが異世界の住人の事は伏せられた状態でこれまでの経緯を説明するのであった。


「なるほど……本当にあの伝説のショルク様だったとは。話された王国の過去の話。そして、この状況……外の景色からしても本当のようですな」


 クロムは先ほどよりも温和な雰囲気で窓の外を眺める。見える岩で出来た天井に岩壁、ヤバそうなモンスターがうろついていそうな森を見て、ここがまだダンジョンの中だと理解し、そしてここが唯一の安全地帯だとも理解するのであった。


「あの……助けてもらったのにとんだご無礼を……」


 カーゴに対して謝るこのお姫様の専属のメイドであるテノール。カーゴは自身が魔王という立場もあって「気にしないように」と言うのだが、「肩書で判断するのは王家の仕えるメイドとしては恥ずべき行為」だとテノールが言うので、それならとカーゴは素直に謝罪を受けるのであった。


「ちなみにだけど……私って滅茶苦茶警戒されてるけど、何か変なオーラというか雰囲気というか……そんなの出しちゃってる感じ?」


「……禍々しい魔力ですから。そこそこの熟練度がある戦闘職ならすぐ気付くレベルかと」


「そういえば、私は慣れていたから気にしていなかったな。後で、抑えるやり方を教えてやろう。それと魔道具もあるから渡しておく」


「まあ、やっておいた方がいいか……。でも、おじいちゃん。何か焦ってない?」


「当たり前だ。そっちの状況次第では、ここを離れないといけなくなるぞ?」


 それを聞いたカーゴは、これから一体何が起きるのかと身を正し真剣に話を聞く体勢を取る。対して、クロムとテノールは少し困った顔を浮かべていた。


「……まあ、すぐには話せないだろうとは思っていたがな。だが、そこに寝ている主人を守るつもりなら、なるべく早く話をして欲しいところだ」


「……分かりました。だが、やはり姫様に訊いてもいいでしょうか? 姫様を無視して我々が話すのは従者として色々問題があるので」


「急いでるんじゃないの? さっきから頻繁に外の様子を伺ってるし……」


「大丈夫だろう。ここまで我々は無謀な行進で下りて来たからな。あいつらがそんなリスクを追うとは思えない」


「……いいだろう。とりあえず、こっちはこっちで準備をしておくとしよう。とりあえず、廊下の奥にある私の私室とカーゴの部屋以外は好きに見てもらっても構わない。が、取り扱い注意な物とかあるから、使う場合は必ず訊くように」


「承知しました」


「それじゃあ、姫様が起きたらまた呼んでくれ。カーゴ。ご飯を食べ終えたらお前は私と一緒に来てくれ。訳分からなくて困ってるだろう。準備しながら説明してやる」


「うん……」


 その後、少しだけ雑談をして、空になった食器を持ってカーゴとショルクは部屋を後にする。そして、1階のいつもならショルクが様々な研究を行っているリビングに2人は集まった。


「さて……おじいちゃん。一体何が起きようとしているのか説明してくれるんだよね?」


「ああ、もちろんだ。まあ……私が説明などせずとも、賢いお前なら何となく察しているとは思うが……」


 そこで一拍置くショルク。カーゴは椅子に座り直して、話を聴く心構えを整える。そして、ショルクがゆっくりと口を開いた。


「この国……トライザル王国の王都が陥落した。そして、ここにその追手が来ようとしている。あの3人……いや、眠ってる姫を捕らえにな。そうなれば、私達はもうここにはいられない」


「私達……? おじいちゃんは平気じゃないの?」


「追手次第だな。だが……基本的には逃げた方がいいだろうな。こんな場所にいる奴なんて碌な奴じゃ無いと思われるだろうしな」


「確かに……」


 ここがどれほど危険な場所なのかをこの10年での狩りと、ショルクの話、置いてある本の知識で把握しているカーゴ。こんな場所に好き好んで暮らしている者など普通はいない。研究狂いであるショルクと、ここで生まれた彼女など普通じゃない理由じゃなければ住むところではないと理解していた。


「で、市井に紛れ込めるようにただ漏れの魔力を制御しろってこと?」


「そういうことだ。カーゴはそんな面倒ごとになりそうな、こんな場所に残るつもりはないだろう?」


「まあ……それはね。もしかしたら、私の事が勇者達に伝わって討伐しに来るかもしれないし。というよりさ、もうそろそろ討伐しに来るよね? あれから大体10年経過してるし……」


「ああ。そして、私にも移動しなければならない理由が出来てな……」


 そこで間を置くショルク。何か話していない重大な問題が他にもあるのかとカーゴが想像していると、ショルクが再びその口をゆっくりと開いた。


「地上の素材が切れてしまった……」


 そんな神妙な面持ちで話す事では無いだろうと思ったカーゴ。呆れた彼女は思わずテーブルに突っ伏すのであった。


「あ、血抜きしてた熊……回収するの忘れてた」

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