第四話 素材回収
―「???」―
「おお……」
今まで開くことが無かった扉が開いていたのを見てショルクは思わず感嘆の声を漏らしてしまった。そして、念のために中にいるだろう魔王に警戒しつつ中に入る。そして、広い空間内の隅っこに倒れている魔王の死体を発見してすぐさまその近くまで飛んでいく。
「これが魔王か……損傷が激しいな。一体どれほど激しい戦闘をしたのだか……ああ、彼女も一緒に連れて来れば……」
「呼んだ?」
「うお!?」
背後から聞こえた加後の声に驚くショルク。光る球体のため、見た目は分からないが恐る恐る後ろを振り返り、加後の無表情を拝む。
「ど、どうしてここに……」
「あんな場所に放置されて困るんだけど?」
「そ、それはもっともだな……すまない」
ショルクは加後に謝罪をして、再び魔王の死体を見る。
「ここに来るまでにモンスターの死体を見たが、それもお前の仕業か?」
「そう。ケンカを売られたから買っただけだけど?」
「魔王を倒す奴にケンカを売るとは……命知らずだな」
「……ねえ、アンタもいきなり攻撃を仕掛けて来たんだけど?」
「さて! 早速、解体をしなければ!」
「おい……?」
ショルクは何か文句を言おうとしたかなり不機嫌な加後を無視して魔王の死体の解体を始めた。手足の無い存在なのにどうやって解体してるのかというと、浮遊しているナイフや魔法を用いた方法でありその手際はかなり良かった。そして、加後は楽しそうに解体をし続けるショルクの姿を近くの岩に座って眺めていた。
「……そんなに珍しいの?」
「もちろん! 勇者と魔王の戦いは凄まじいからな……基本的に魔王の体など消し飛んでいる場合が多いし、損傷も酷いものなのだが……これは状態がいいな」
「……これでいいの?」
加後がそう言うのも無理はない話であり、3年間の戦闘で魔王の死体は鱗は剥がれ落ち、その下の肌や翼は加後の自爆によるダメージで火傷や裂傷でボロボロ、爪も折れてしまっており、顔は最後の爆発で原型を留めていなかった。
「ここまで形の残っているのは珍しい。ああ……そうだ。この姿を残しておかないとな……」
ショルクは解体を一旦中断し魔王の絵姿を描き始める。器用な物だなと思いつつ眺めていた加後は徐々に意識が遠くなっていく。そして、気付けば彼女は岩肌を背にその場で眠り始めてしまうのであった。
「う~ん……」
うなされる加後。彼女は夢を見ていた。人間だった頃の彼女が両膝を抱えうずくまっていると、その周りをいじめっ子が囲み暴言を吐いてくる。そして、それが今度は暴行に変わり、さらに今度はブラック企業に務めていた時の上司から叱咤される。
「止めて……」
彼女がそう懇願するが周りはそれを止めることはしない。むしろ、それらの行為は激しくなっていった。
「止めて……!!」
「おい! 起きろ!!」
どこの誰か分からない声で目覚める加後。その視線の先には光る球体……ショルクが浮いていた。
「あ、私……」
「かなり酷くうなされていたからな。起こさせてもらったが……大丈夫か?」
「……うん」
加後がゆっくり立ち上がろうとすると、何かが彼女の体から落ちる。それを手に取るとそれは汚れていたが毛布だった。
「これ……」
「肉体の無い私は問題無いが、普通の奴なら少し肌寒いと思ってな……。ああ、汚れていることに関しては許してくれ」
「あなたが掃除が苦手なのは分かってる……まあ、ありがとう」
加後はそれを先ほどまで寝ていた場所に畳んで置いた。
「顔色が悪いが……もし、休むならコテージのベッドを使ってもらっていいぞ?」
「大丈夫。むしろ、今は起きていたいから……」
加後はそう言って、魔王の死体の前に来る。
「ねえ。私も手伝おうか?」
「解体の知識は?」
「ない。けど、魔法を使えるし、これを見て吐く気が起きないから役立つと思うんだけど?」
「それはお前のレベル……カーゴなら余裕だろうな」
「そう……。って、どうしていきなり私の名前を呼び始めたの?」
「まあ色々思うところがあってな……。それで、私が指示を出すから指示通りに動いてもらっていいか?」
「いいよ」
そこから、2人で協力して解体を進める。そしておよそ3時間後には解体は終了した。ちなみにショルクが彼女の名前を『加後』でなく『カーゴ』と呼んでいることに加後本人は気付いていたのだが、特に注意する必要な無いと思ってそのままにしている。
「あはは! 素晴らしい研究素材を手に入れたぞ!!」
「それは良かったね……」
「そうしたら……後はカーゴが倒したモンスターも回収するとしよう」
そう言って、次のモンスターを解体しようとするショルク。その瞬間、ショルクの後ろで加後のお腹の鳴る音が聞こえた。
「あ……」
「その前にカーゴは腹を満たした方がいいか……」
「何を食べさせる気……?」
「カーゴが倒したモンスターに食用が可能な物がいた。そいつを焼けば食べれるだろう。まあ……調味料が無いから、かなり味気の無い物になるがいいだろうか?」
「仕方ないね。ここはそのお肉が美味しいことを祈るよ」
2人は広間を出ると、目の前に狼と蛇の死体が加後が倒した時と全く変わらない状態で地面に横たわっていた。
「他のモンスターが横取りしてると思ったんだけど」
「普通のモンスターならここには来ない。何せ、この広間にいる奴に恐れているからな……よし、早速やるぞ」
そして、再び2人で解体を始める。そして、同時に加後のご飯も用意した。
「蛇の蒲焼……」
加後がその辺の木材で作った串で刺して焼いた蛇の肉を見る。焼いただけだが、肉汁は溢れて鰻の白焼きみたいで美味しそうではある。
「……いただきます」
加後は恐る恐る一口食べる。その瞬間、彼女の顔がほころぶ。
「美味しい……」
何の味付けもしていないため塩味などあまり感じられなかったが、噛んだ瞬間に溢れた肉汁によってこれだけでも満足のいく味となっていた。まあ、加後が空腹だったというのもあるのだが。
「それは良かったな。料理すればもっと美味しいんだが……」
「出来れば醤油が欲しかったな……」
「……ショウユ?」
思わず前世の日本の調味料である醤油の名前を呟いた加後。それを聞いたショルクは作業の手を止め、加後の方へと振り向いた。
「カーゴ……お前まさか異世界から来たのか?」
「ん? そうだけど……って、正確には転生かな」
「そうか……そうだったのか。ゴブリンと言ってたのにどうも性格がゴブリンのそれとは違っていたのと、普通に会話が出来るほどに知識も有していたから疑問だったのだが……中身が人間で、しかも異世界から来たのなら納得だ」
「他にもいるの?」
「ああ、魔王討伐のために呼ばれる奴ら……勇者とか聖女と言われる奴らがそれだ」
「……そう。会うのは得策じゃないみたいね」
「そうだな。ちなみにだが世界を混沌に陥れるとか、世界を我が物にとか考えているか?」
「面倒」
「なら、奴らがいない遠くに逃げるんだな……まあ、直ぐにはここには来ないだろうから安心しろ」
「どうしてそう言えるの?」
「魔王は魔法を使うこの世界には切っても切れない関係でな。私達が魔法を使うと、その際に余分な淀みが発生して、それが集まって……魔王という存在が生まれる。ここ以外に魔王が生まれる場所がいくつかあってな。今回はたまたまここだった訳だが……ここに魔王が現れたのはつい数年前なんだ。勇者と聖女は魔王が現れてから呼ぶようになっているのと、呼んだ後は訓練したり戦闘経験を積ませたりと色々やることがあるからな……後10年ほどは来ないと思うぞ」
「ふーん……もしかしてショルクは魔王を研究するためにいたの?」
「それは運が良ければと思っていた。私は元はここを統治する王国の魔導士でな。引退後は魔法の研究をいつまでも続けたいと考えた末に肉体を捨てて、ここでずっと研究をしていたんだ。それと、この場所を選んだのは、ここが地下50層という場所でなかなか人が来ない場所……いや、全く来ない場所だったからだ」
「全く来ない? ここってダンジョンって言われるような場所だよね? 素材目的で人が来るんじゃないの?」
「いや、来ない。例えばだが……この解体中の狼はあるダンジョンでは最下層のボスでな。そっちは地下10層で道中のモンスターも弱い。カーゴが食べているそのモンスターも別ダンジョンのボスだぞ」
「……もしかして、ここってボスしか出ない?」
「そういうことだ。それが50層も続くんだぞ? で、辿り着いた先にいるのは魔王がいるあのボス部屋だ。死に行くものだろう?」
「まあ、そうだね……。仮に魔王を倒しても、ここから戻るのって何か大変かも……」
「いや? 魔王が倒されているから、このダンジョンの入り口へと続く魔法陣がさっきの広間の奥の通路にあるはずだぞ?」
「え? 私が見た時は行き止まりだったけど……。そうか、その時魔王がいたから……」
「今ならあるだろうな。外に行くならそれを使うといい」
「それは……」
加後はショルクのその提案を聞いて言葉が詰まる。外に出るということは、あの人の群れにまた戻ることになる。それどころか、今の自分は魔王なのだ。もっと酷い目に遭うかもしれない。なら、そいつらを皆殺しにするのか? つい先ほどまであった彼女の残虐性は鳴りを潜め、元の彼女の心がその行為が人として正しいのかと訴えかけていた。
「……カーゴ。今日はうちに泊れ。どうせ行く当てなんてないだろう? 必要なら、古い知識になるが国内の街とかを教えてやるぞ」
「……ここから解き放たないようにするのが普通じゃないの?」
「そうだな……」
ショルクは少しだけ考える素振りを見せる。そして……。
「お前は誰かが嫌がることをしない。そんな気がしただけだ」
「何それ……」
加後はそう呟き、蛇の串焼きを再び口にするのであった。その後、カーゴの倒したモンスターから素材を回収し終え、2人はコテージに戻るのであった。




