16 Epilogue
◇
クロトの街を恐怖に陥れ、それを謎のE級冒険者が救って、それからしばらくたった日の事。
シエンたちは王都にある高級ホテルの一室でくつろいでいた。
彼らは貴族からの依頼を優先的に受けまくったおかげで、楽に大金を稼ぎ続けている。
「なぁ、そう言えば聞いたか? クロトの街のこと」
シエンが四人に問いかける。
「イリアがボロ負けした話でしょ? しかもそれをE級に救われたとか」
「本当に情けないよね、同じ新星として」
各々が言いたい放題し、下衆な笑みを浮かべる中、突如部屋の扉が切り刻まれた。
散らばった木片を踏みつけ、姿を現したのは仮面を被った男だった。
「だ、誰だ……お前」
「誰だとは失礼だな? ダンジョンで私を突き落としておいて、まさか忘れたとは言わせないよ」
「はぁ? そんなこと」
「銀魔の剣鬼」
その一言を聞き、記憶が呼び起こされる。
そして同時に、疑問が芽生えた。
何故、彼はその時のことを知っているのか。
四人に「お前が言ったのか」と疑いの視線を向けるが、皆違うと首を横に振った。
そのせいでますます状況を理解できなくなるシエン。
「別におかしいことじゃぁない。本人なんだから」
「はぁ? そんなわけ」
その瞬間、シエンの前髪がパラパラと落ちた。
「これでもまだわからないかい?」
シエンは仮にもS級冒険者だ。
しかし、そんな彼でさえ、目の前の男の剣の動きを見ることさえできなかった。
冷や汗が額を伝う。
悪寒が背筋を凍らせる。
「う、嘘だ……そんなわけ」
最後に、男は剣を大きく振り上げ、その剣にありったけの銀の魔力を込める。
そして。
「銀壊」
特大の一撃を、彼らの背後の壁に向け解き放った。
壁は木っ端微塵に砕け、心地よい風が部屋の中へと吹き入れられる。
膝を崩させ、壊された壁をシエンたち五人は呆然と見つめた。
彼らもそれなりに長く冒険者をやっている。だからこそ、知っていた。
この技が、銀魔の剣鬼の技であることを。
つまり、目の前の男は正真正銘のグラウスであると確信する。
「ご、ごめ……」
謝罪の言葉を口にしながら視線を仮面の男へと戻すと、すでにそこには誰の人影もなかった。
その代わり、一枚の紙が置かれていた。
シエンは恐る恐るその紙を拾い、読み上げた。
『シエン殿へ。
この私……銀魔の剣鬼が直々に君を、今度こそは正式に王国一の冒険者に推薦した。君が望んだことでもあるんだ。当然、それ相応の価値を期待している。それでももし、君たちが王国一の名に相応しくないと私が感じたその時は改めて、参上しよう。
銀魔の剣鬼』
そう、書かれていた。
嘘から出た誠。
これで彼らは正真正銘、本物のグラウスの後推しを得ると同時に、王国一の冒険者にならなくてはならないという、使命を受けるのだった。
「お、終わった」
そうして彼の豪遊生活は終わりを告げ、名実ともに王国一の冒険者になるための、辛く、忙しい日々が幕を開けるのだった。
◇
あの事件から十数日後。
街はすっかり元の景色を取り戻し、私は今日も酒場でアルバイトをしていた。
もし、違いがあるとすれば、私が厨房にも入るようになったこと。
そして、
「サフィア、ビールおかわりいいか?」
「はい、かしこまりました!」
青黒い髪を下ろした美人……イリアが常連に加わったことだろう。
銀蒼の大楯はあれからしばらくは冒険者業を休止し、この街で心身の傷を癒しているのだが、毎日のようにこの酒場に訪れてくれていた。
時折、じーっと私を観察するような目で見ている気がするが、それは気のせいということにしておこう。
「サフィアちゃん、唐揚げとたこわさ追加!」
いつものだらしないお腹をした中年男が注文する。
ひっきりなしにくる注文を、リア姉さんと共にこなしていく。
そして日が変わると、皆、名残惜しそうに店を退店し、片付けが始まる。
そしてそれが終わると、リア姉さんの賄いがテーブルに並べられた。
事前に作っておいてくれていたようだ。
「はいこれ、賄い」
「ありがとうございます」
リア姉さんに賄いとして出された山菜の天ぷらは、確かに美味だった。
ここの客が求める理由は分かる。
「はい、あとサフィアちゃんにはこれね」
そう言い差し出したのは『C級昇格おめでとう』と書かれた板チョコの乗ったケーキだった。
「え、これ……」
「実は今日は早めに出勤して、私とグレイで作ってたんだ」
初めてのケーキ作り。
リア姉さんと何度も試行錯誤し作られたそれは、お世辞にも味は美味しいとは言えないかもしれない。
実際、味見した限りではイマイチだった。多分、いや、絶対市販の方がうまい。
それでも、
「ありがとう! リア姉! グレイ!」
満面の笑みでサフィアはそう告げた。
その言葉を聞いて、作って良かったと、そう思い、私とリア姉さんは笑みを溢す。
そうして一日が終わり、アパートに帰り、ベッドに倒れ込む。
もう見慣れてきた天井をしばらく見つめ、そして目を瞑った。
また、今日と変わらない明日を過ごすために。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
これにて完結です!
勘違いキャラ、察しの良いキャラ、そしてこのクールキャラと来て、次はちょっとアホなキャラを主人公に描こう、なんて思っていたり、すでに書いていたり。
重ねてになりますが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!




