15 vs最強の剣士(全盛期ver)
「ふぅ……間に合った」
異質な生命体の振るった剣はイリアの首を刎ねる寸前だった。
あとほんの少しでも遅れていたら、危なかった。
『何者ダ、オマエ』
カタゴトでの問いかけに、私は答える。
「ただのE級冒険者だ」
そう言い、腰を低くし、剣を構える。
剣身に魔力は纏わせない。
こいつ相手に、その必要はない。
「む、無茶だ! 早く逃げろ!」
背後でそう叫ぶイリアに視線を向けた瞬間、ソレは私の首を刎ねんと剣を振るっていた。
その剣撃を、私は目視することなく防いだ。
「全く、人が話そうとしてるのに。随分と無粋じゃないか」
『ッ!!』
ソレが放つ剣撃を、その後も完全に防ぎ切ってみせる。
『オマエ、ナンナンダ!』
「自分の目で確かめればいい。私が何者か」
最も見れればの話だが。
◇
「お父様、おかえりなさい」
ロイスの娘、ローズが父の帰りを出迎える。
こうして元気に出迎えるまでに回復した娘を、ロイスは幸せそうに眺める。
「あぁ、ただいま」
そう言い、何事もなかったかのように部屋に戻ろうとする父を、ローズは引き留めた。
聞きたいことがあったから。
「ねぇ、お父様……やっぱり」
突如、黒いカバーのかかったものを手に、街に駆け出した父。
ローズは薄々、勘付いていた。
きっとその行先は、銀魔の剣鬼……グラウスの元だろうと。
彼はSS級ダンジョンで死んだと、そう聞してしばらくして、突如何者かがローズに神水を差し入れた。
ローズは神水のことは知らないが、以前、父がグラウスに不老不死の秘薬を頼んだことは知っている。
だから、なんとなく分かっていた。
「なんだ?」
ローズがグラウスの生存に気が付いていることに、ロイスは気が付いていない。
隠し通せていると、そう思っている。
そんな姿を見て、ローズは真実を確認する気を失せた。
それに、何故グラウスの生存を隠さざるを得ないのか。
そこに事情があることも、ローズはなんとなく察していた。
代わりに、ある質問を投げかける。
「ねぇ……どうして、グラウスは最強の剣士だったの? 噂じゃ、剣に銀色の魔力を宿していたみたいだけど」
銀魔の剣鬼は銀色の魔力を剣に流す。
有名な話だ。それなのに、彼をよく知るものほど彼を最強の剣豪だと語る。
魔剣士ではなく、最強の剣士であると。
「あれは、リミッターなんだ」
「リミッター?」
「そう、例えば……」
しばらく考えた末、ロイスはある例えを話す。
「水が入ったコップがあったとするだろう。それを頭の上に乗せて全力で走れるかい?」
実際、コップを頭に乗せ、走る姿を想像してみる。
そうするとすぐにこぼし、びしょ濡れになる未来が見えた。
「無理ですね」
「それに似ていてね。銀色の魔力が形を保ち、その魔力が彼の剣の軌道を追えているならば、それは彼が加減を上手くできていると言うことになる」
ロイスが何を言っているのか、その意味がわからず、ローズは首を傾げる。
「正直、あまり意味が」
「つまり、簡潔に言うとだ。彼の本気の剣技に、魔力はついてこられない。本気の彼の剣の前では魔力は形を保つことはできないんだよ」
そこまで言われ、なんとなく理解することができた。
銀の魔力が剣を追えるなら、それが軌跡をなぞれるのなら。
それは彼が、意図して速度を緩めている証。
つまり、
「本気の彼は、魔力を使わない」
◇
(ナンダ、コノ人間……強イ!)
目で追えない斬撃が、次々と体を切り裂いてゆく。
手首を柔軟に使い、最低限の動きで、剣を当て続ける。
こうなったら最後。誰も剣撃の渦から、逃げ出すことができない。
そもそも、彼の振るう剣の軌道を目で追えない。
(コノ男ハ、私ノ目デ追エナイ速度ノ剣ヲ、ミテイルノカ!?)
的確に急所をついてくる以上、テキトウに振るっている可能性はない。
一方で、こちらがどれだけ剣を振おうと彼に当たることはない。
目に見えない何かが過り、弾かれる。
(マズイ! コノママデハ)
その瞬間、何故か視点が上下逆さまに反転した。
地面が上に見え、空が下にある。
(ナニ、ガ)
そこでその異質な生命体の意識は途絶えた。
当然だ。首と胴体がおさらばしたのだから。
「思いの外、弱かったな」
私はそう呟きながら、剣を鞘に収める。
そういえば昔、これに似たモンスターと戦ったような。
そうだ。確かウチの戦闘凶が、こいつにドラゴンを食わせようとか言い出して、それを止めるために喧嘩したっけな。
それで本気の殴り合いになって……気がつくと死んでたんだよな、あのよくわからないモンスター。
「懐かしいなぁ」
もう何十年も昔の思い出に耽っていると、背後から何かが歩み寄る音が聞こえた。
この足音……イリアだろう。
「大丈夫?」
「あ、あぁ、私は……」
イリアは私と、その背後に転がるソレを交互に見ていた。
「お前がやったのか」
「まぁ、そんなところかな」
私の言葉を聞き、イリアは笑った。
「何が、新星だ。私もまだまだだな……」
失った仲間を思い、自身の無力を悔やみ出たそんな彼女の言葉に、私は返す。
「まだまだ若いんだ。これから強くなれるさ」
それを聞いたイリアは「お前、私より年下じゃ……」と言わんばかりの表情を浮かべていたが。
私はそれを見なかったことにするのだった。




