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竪琴の継承者 ~第六妃は眠れぬ王の子守唄係~  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中


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エピローグ

 深夜過ぎに後宮の自室に戻ったアメリーは、【交霊の調べ】を弾きながらラウラの説教を浴び続けた。


 イーシャ族の末裔まつえいという疑惑が晴れた今、遠慮なく竪琴を弾けるようになった。それでも、耳障みみざわりな【交霊の調べ】は、深夜を過ぎてからの方がいい。もれた音とともに、誰かが死者の声を耳にしてしまう可能性はまだまだ残っているのだ。


「お母様、ここははなれとは違うのよ。もう少し声をおさえないと、外に聞こえてしまうわ」


 そんな注意をしたせいで、いつもは甲高く早口のラウラの怒声が、今夜は地をうように低く、おどろおどろしいものになっている。本当に悪霊と化してしまったのではないかと、疑いたくなるほどだ。


「とにかく、お母様が『後継者、後継者』ってきつけている間は、陛下とそういう関係にはなりません。お母様は平気なのかもしれないけれど、わたしは見られていると思ったら、恥ずかしくて無理なの」


〔……分かったわ。もう言わないから、その代わりに後継者を作ることを忘れないで〕


「はい。竪琴の継承者として、忘れたりしないと誓います」


〔ならいいわ〕


 しぶしぶながらもラウラが承知してくれたので、アメリーはほっと息をついた。


「そういえばお母様、どうして竪琴の継承者のことを伴侶にだけは打ち明けていいの? 後継者はまだ生まれていないけれど、伴侶を見つけたのだから、そろそろ答えを教えてほしいわ」


〔その答えは自分で見つけるように言ったはずよ〕


「だってどう考えても、秘密にしておくなら、誰にも話さない方がいいでしょう? わたし、危うく処刑されるところだったのよ」


〔でも、処刑されなかったでしょう?〕


「それはたまたま陛下がわたしを信じてくれて、その後も問題にならないようにはからってくれたからで――」


〔そういうことではないの?〕


「……どういう意味?」


〔はぁっ〕というラウラのあきれたようなため息が聞こえてくる。


〔後継者を作るには、まだまだ早いお年頃なのかしらねぇ。陛下のお気持ちを思うと、なんだかかわいそうになるわ〕


「ちょっと、何? わたしが分かっていて当然、みたいな言い方は余計に気になるわ」


〔あなたの場合は教えておいた方がいいのかもしれないわね〕


「もったいぶらないで教えて」


〔あなたも竪琴の継承者なら分かるはずよ。愛する人がもうじき死ぬと分かっても、悲しくなったり不安になったりしないでしょう?〕


「それはまあ……。そのまま天に昇ってしまわない限り、お母様のようにこうして亡くなった後も話ができるわけで――」


 アメリーははっと息をのんだ。


「もしかして、そういうこと?」


〔そう。だから、愛する伴侶にはあらかじめ知っておいてもらった方がいいの。知らなかったら、亡くなったと同時に天に昇られてしまうこともあるもの〕


「確かに……」


〔それに、自分を愛してくれる伴侶なら、秘密を口外して、継承者の命を危険にさらすようなことはしないでしょう?〕


 なるほどと、アメリーもようやくラウラの言いたいことが分かった。


(……ということは、陛下がそれだけわたしのことを愛している、ということになるわけで)


 そんなことを思って、アメリーの頬は焼けたようにぶわっと熱くなった。


「ち、ちなみにお父様はお母様の『愛する伴侶』だったの?」


 アメリーは赤い顔をごまかしたくて、不必要に明るい声を出していた。


〔ええ、もちろん。オーギュストも愛してくれて、幸せだったわ。彼が亡くなった後の三年、いつもそばにいてくれたのよ〕


「それは知らなかったわ……」


〔あなたのことも、いつも見守っていたわ。小さなあなたをとても愛していたから〕


 ラウラのやさしい声の響きに、アメリーは胸が熱くなった。


「わたし、お父様のことはあまり覚えていなくて……。呼ぼうなんて思ったこと、一度もなかったわ。まともに話したのは、悪霊になってしまった後で……」


〔あなたが気にすることではないわ。オーギュストもただ見守りたかっただけ。悪霊化してしまった時は、わたしがあのまま彼を放置しておきたくなかったの。だから、あなたに教えて、天に送ってもらったのよ〕


「ああなってしまう前に、もっと早く気づけていたらよかったのに、と思うのよ」


〔いずれにせよ、オーギュストの心残りは、あなたが身分にふさわしい相手と結婚することだったでしょう? 妃になったのだから、今頃は天で大満足しているわ〕


「だといいけれど。わたしとしては、結婚相手の身分ではなくて、普通の幸せを願ってほしかったわ」


 おかげで『悪霊憑き』と呼ばれるようになってしまって、後継者どころか、あやうく結婚すらできなくなるところだったのだ。


〔当然、それも願っていると思うけれど。オーギュストも欲張りなのよ〕


 ラウラがそう言って笑うので、アメリーもつられて笑っていた。


 どんな形であれ、幸せを願われるのはうれしいことだった。


「わたしもいつか、陛下に教えておいてよかったと思う日が来るのかしらね」


 細く開いた窓からひんやりと肌寒い夜風が吹き込んでくる。秋はもうそこまで来ていた。


 アメリーが侍女として後宮にやって来てから、一年が経とうとしていた。




〈了〉

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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