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神狼の魔女と不死の魔王   作者: 抹茶ちゃもも
二章 招かれざる客
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招かれざる客 4

片目を失い、後ろ足は引きずっているにも関わらず、銀色の獣の動きは俊敏だった。


眼前に迫る爪を構えた盾で受け止めるが、その勢いに男の巨体がぐらつきかけた。


「ふんぬううううう!!!」


己を鼓舞するための怒号を発し、なんとか踏みとどまると、後ろから受けた合図に従って男は自ら後ろに下がった。


仲間の魔法使いの女が、弓使いの斥候が、獣に一撃を加えようと男の後ろから射線を通すが、獣は俊敏な動作でそれを躱しながら後ろに飛び、また、茂みの中に隠れ潜む。


そのまま獣は沈黙する。森の中へ潜み遠のき、移動している気配はあるが、再び飛び出してくるわけではなさそうだ。


「っち……!んだよ!くそがっ……またかよっ!!やるのかやらねえのかどっちだよ!!!」


「大声を出すな。もう一匹いるんだぞ。」


「それで居場所を知られるも糞もねえだろ!あいつら、出たり入ったり……めんどくせえ!」


一行の人数は五人。


森の中でも比較的動きやすい開けた空間。そこで五人は互いに背中を向け合い、円を組んで四方の茂みに注意を向け続けていた。


もうかなりの時間こうしている。気を抜くと、それを見計らったように獣の爪が飛び出してきては、一撃を放ち、先ほどのようにすぐに引っ込み離脱する。


延々とそれを繰り返された一行の苛立ちと精神の摩耗は相当なものだ。


だが、それでも、二頭の獣に対して着々とダメージは与え続ける事はできている、こちらの被害はほとんどないのだからこれは勝てる勝負だと、この戦場を破棄するつもりはなかった。


しかしそれはそれとしてやはりストレスは溜まる。


自らの巨体ごと覆い隠せそうな盾を左腕に構え、皮鎧を着た大男が、苛立ちの衝動のまま、手にした斧を、近くの岩へ振り下ろした。それだけで岩は大きな音を立てながら粉々にくだける。吹きすさ吹雪に紛れて砕けた破片が舞い上がった。


軽率な行動を、弓を手にした細身の男がたしなめたが、まるで聞く風はない。


「そもそもなんかおかしくない?逃げるつもりとっくに逃げてるはず。それが逃げると思ったら出てきて、出てきたと思ったら逃げてで付かず離れず。あれだけ重症負わせたにも関わらず、よ?まるで身体を張って私達をここに釘付けにしておきたい、みたいに感じるんだけど。」


大きな杖を両手に抱え、ローブを纏った背の高い、妖艶な顔立ちの女性は、今現在も交戦が続いている、はずの、二頭の狼の動きをそう分析していた。


「その動き方も獣にしては賢すぎるしのう。あれが銀狼というのも与太ではないのでは?」


白い法衣を更に雪で白く染た老人も彼女の意見に同調するかのように頷く。


「仮にそうでなくても、何かの新種か亜種でしょあれは。綺麗な銀色だったしねー。毛皮なんかいいお金になりそうじゃない。」


腰にいくつも短剣をぶら下げた褐色の背の高い少女がそう声を上げるが、女がその楽観的な意見を否定するように一つ首を振った。


「私は正直撤退も選択肢として考えていいと思ってる。ここに釘付けられてる理由として考えられる次の展開が……。」


「気が付いたら仲間が集まって、四方八方にってな。まぁ狼ってのは集団で狩りをする生き物だからな。現に一頭はいなくなってる。最初は3いたのが今は2だ。」


細身の男が女性の意見を補足しながら、同調する。


その予測は限りなく正解に近いものであった。が、今は状況の変化はまだこの場に訪れない。


「儂は、本当に銀狼か、亜種か、それだけは見定めておきたいかの。もしも本当に銀狼であればその情報だけで、かなりの報償になるのでは?撤退はその後でも間に合う。どうせこの場所まで狩に来れる面子など、儂ら以外では数えるほどじゃ。抜け駆けの心配はいらんじゃろ。」


「だったら、そのための証拠がいるだろ。せめて爪の一つ、牙の一本くらいは。」


老人の意見へ大男は不機嫌にそう言葉を返した。


「あたいは囲まれたら逆にチャンスじゃない、と思うけどね。そうしたらもうこんな隠れん坊じゃなくて、真正面からの乱戦でしょ。捕まえられないだけで、こっちは向こうの動きにもう対応はできてる。あとは姐さんの魔法でどっかん、って決めちゃってよ。」


褐色の少女は強気にそう言い放つと、大男はやっと機嫌を戻したようで、そうだそうだ、と同調してみせる。


「確かにその方がずっとこうしてるよりかは、マシかもね。」


女性の言葉に重なるように、くしゃりと茂みが揺れる音がした。獣が飛び出してくるには勢いの弱いそれえはあったが、弓を構えた男は、それが何かを確かめる、考えるよりも先に矢を放っていた。


距離は20メートルほど。矢は茂みをそのまま貫いて、後ろにあった樹の幹に深く突き刺さる。


「え。」


放たれた矢があと少しずれていれば、額を打ち抜かれていたであろう位置に、その少女は居た。茂みからのそりと、無防備に身を出した、


真っ黒いローブをまとい、目深にフードをかぶった、幼い子供にしかみえない小柄な少女。


フードの隙間から覗くのは張り付いた氷のような無表情。放たれた矢に対して何の反応もなく。彼らに対して身構えるでもなく、棒立ち。


魔女が、そこにいた。

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