38話
「俺、おま……あんたの名前知らないから仕方ないだろ? 名前は?」
(また『 お前』って言いかけただろ、テメェーっ‼)
リリの方が酷い物言いだが、心の中で思っただけで口にしてないからセーフっ‼ と言う事にして、小さく溜め息を吐く。
「人に名前を訊ねるなら、まずは自分から名乗れば?」
リリが呆れたように言うとロディは、また左手で頭を掻いた。
「ワリィ。俺はローディスだ。皆はロディって呼んでる」
「私は光神リリよ」
「光神のってのは、その服で分かってたんだよな」
成る程とは思ったが、まだイラッとした気持ちはおさまっていない。
(なら『光神の人』とでも呼びゃあ良いだろ)
「あ、そ」
リリはこめかみをピクピクさせながら、一応は笑ってみせる。
「で、さ。光神リリさん。頼みがあるんだけど」
「わざわざフルネームで呼ばなくて良いわよ」
リリがそう言うと、ロディはニッと笑った。
「オッケー。俺も面倒なのは嫌いだしな。じゃあ、リリ。俺とリスティリアは、レオを追って外界に行きたいんだよ。一緒に行ってもらいたいんだけど良いか?」
(ん? ここで外界に行く話になんの? 何で? リオの記憶とも、私の記憶とも違うんだけどっ‼ 何でっ⁉)
自分自身ならまだしも、リオの記憶とも違っているとしたら、この先自分のゲームで得た知識やリオの記憶ではどうにもならない可能性がある。
「何で外界……ってか、レオを追いたい訳? 理由も聞かされず、ただ『着いて来て』って言われても困るんだけど?」
リリ……と言うか、光神の里に依頼されている任務は『反リスティリア派の監視と報告』なのだ。
リスティリアと一緒に居れば警護等は出来るが、反リスティリアの動きは探れなくなる。
「まぁ、普通はそうなるよな。行く理由も訊かず『じゃあ、外界に行きましょう』なんて言われたら、嘘クセェし胡散クセェよな」
ロディはそう言って笑った。
(分かってんならさっさと言えよっ‼ 尺の無駄遣いすんなっ‼)
リリがガルガルと唸り声を上げると、ロディの背後から小さな小さな声がする。
「 あの……私から説明させていただきます……」
「……はい?」
あろうことかリスティリア姫は、ロディの背中に姿を隠し、顔すら見せずに話し掛けて来たのだ。
(はい? おいっ‼ 顔出せよっ‼ 腹話術かっ⁉ 声が遅れて聞こえてくるよってかっ⁉)
いくら姫とは言え失礼極まりない話し方に苛立ちがマックスになる。




