さあ、狩りの時間だ
フリッグの街での滞在は、当初の予定を大きく超えていた。
本来なら一日だけ街に留まり、森の中の家へ帰ってから再び戻るつもりだった。しかし、ラスター・ウインクが突然この街を訪れたことで、計画は変更を余儀なくされた。延長された滞在期間は、いつまで続くとも知れない。
便利な文明の利器であるスマートフォンも、ここでは単なる時計とカメラにしか使えなかった。通信機能は完全に沈黙している。森の家で確かに繋がっていたWi-Fiの電波は、この街まで届くはずもなく、画面には無情にも圏外の表示が浮かんでいる。
「お兄ちゃん、インターネット接続できないと不便だし、つまんないね」
サクラは諦めが悪かった。街を歩く間もスマホを手に、何とか電波を掴もうと必死だ。背伸びをしたり、腕を高く掲げたり、時には奇妙なポーズまで試している。
無駄だと分かっているはずなのに、それでも頑張り続ける妹の姿を見ながら、俺はただ苦笑するしかなかった。
俺にとっては、その様子は微笑ましいものだった。彼女がやっていることを理解している俺からすれば、可愛らしくさえ見える。だが、事情を知らない第三者の目には、奇怪な踊りを踊る人物としか映らないだろう。
両親には既に連絡を入れてある。リリアンさんを送り届けるため、数日間は連絡が取れなくなると。心配はかけないつもりだが、それでも心配するに違いない。
この街での日々は、あっという間に過ぎていった。
初日……リリアン様一行を無事に送り届け、冒険者としての登録を済ませた。
二日目……ラスターとウインクの魔獣騒動に巻き込まれた。
三日目……買取り屋を巡り、街を気ままに観光して回った。
不思議なことに、この世界に来てからスマホの電池の持ちが格段に良くなった。通信機能を切ったせいだろうか。四日目を迎えた今も、バッテリー残量は十分に残っている。日本にいた頃と比べても、明らかに減りが緩やかだ。
マーキュリー伯爵家からの招待状が届くまで、このフリッグの街で待機することになった。三日も経てば、街の雰囲気にも慣れてくる。最初の観光気分も、すっかり抜けてしまった。
朝日が東の空を染め始めると、静寂に包まれていた街がゆっくりと目を覚ます。商店の扉が開き、人々の足音が石畳に響き渡る。そして西の空に太陽が沈み込む頃、一日の喧騒は静かに幕を閉じる。
電灯もテレビもないこの街では、日暮れと共にすべきことは何もなくなる。人々はランプの灯りの下で簡素な夕食を済ませ、やがて寝床へと向かうのだ。
四日目も、他の日と変わらず、フリッグの街をあてもなく歩き回るだけで過ぎ去っていった。
・・・・
5日目の朝になるとまた騒がしい。
店主は宿泊中の冒険者に向かい叫んでいた
「もうすぐブラッドバウの群れが通過するぞ! 冒険者共集まれ!!! 稼ぎ時だ!!」
今日はどうしたんだと店主に尋ねると、ブラッドバウという魔獣がこの街の前を通ると大騒ぎしているのだと言う。
街に影響があるのかと聞くと、貴重な食糧だ! 肉だ! みんなで狩りに行くぞ!と全く雰囲気が違いみんなヤル気だ。
「お兄ちゃん、バウってリリアンが言っていた牛に似た魔獣だよね」
「みんなが肉って言っていたから牛肉なら有っても良いかな、俺達も狩りに行こうか?」
「うん! わかった!」
街の広場には多くの冒険者達が集まっていて、みんなブラッドバウ狩りの参加者だ。
イングリッドさんが街主催の狩なのと、各種注意事項を説明。
初心者冒険者達には狩りの仕方やバウの特徴・行動パターンを解説。
俺も良く話を聞き、初めての肉狩りだ!
やがて見張りからバウの様子が伝えられ、バウ狩りの開始が宣言される。
「ヒャッハー! 肉だ!!!!」
先頭を切ってスタートしたのはモヒカンの世紀末風な男達何処の時代にも居るんだな。
世紀末な改造バイクじゃくて……無駄にツノとか動物の骨でカスタムされた世紀末風な馬にまたがり凄いスピードで走ってゆく。
続けるように同系列の世紀末な馬車が猛スピードで出発すると、続々と冒険者達が馬や馬車で出発していき、移動手段を持たない冒険者は駆け足でスタート。
最後に冒険者組合や精肉組合の回収用の馬車が砂煙を上げながら次々と出発していく。
俺達兄妹はウインクにキャリーカートを取付け、最後尾からスタートだ。
参加者や馬とかが二匹に怯えるとマズイので。
俺はラスターに乗ると先行してブラッドバウの群れに向け出発、どんどん他の参加者を追い越していく。
「おっ! あれが例の従魔か! 気配が全く無いから驚いたぜ!」
とか
「最初に現れた時は驚いたが、良く懐いているな! 乗っている冒険者と信頼関係があるんだろう」
とか
「周りの馬も怖がらないから、従魔なら思ったよりも安全なのかもしれないな」
とか
「魔獣は凄いスピードだ」
等、所々で似たような会話が聞こえる。
キャリーカートが繋がっているウインクでさえ、さっきのヒャッハー隊よりも速く、あっと言う間に並ぶとヒャッハー隊の人に声をかけられた。
「ヒャッハー! 兄ちゃん達、ブラッドバウ狩りは始めてか?」
「はい、よろしくお願いします!」
「街主催の狩りは共同作業だ! お互いサポート頼むぜ!」
「わかりました!」
「ヒャッハー!!!」
ヒャッハー隊の人は叫びながらブラッドバウの群れに突っ込んで行く。
・・・・
ブラッドバウは日本にいる牛よりも二回りくらい大きい魔獣だ。
地球上だとバイソン並の大きさで黒毛の中の赤毛が長く血のように見える事からそんな名前が付いている。
食肉魔獣と呼ばれ、大きさの割にそれほど強くなく大きな肉を高確率でドロップする。
強くは無いと言っても大群で押し寄せるので村人が個人で討伐するのは難しく、このような街単位のお祭り騒ぎで狩をする事で沢山の食肉を確保するのだ。
他にも ミートバードやグリスポークと言った食肉魔獣が存在している。
・・・・
この世界に来て巨大なオークを倒す事が多かったので、巨大なブラッドバウを前にしてもそれほど怖くない。
俺は金属バットで走り込んでくるブラッドバウを叩き殺し、攻撃が出来ない時はラスターが華麗な動きで強靱な爪を使い攻撃していく。
少し遅れてきたサクラはHK415アサルトライフルを使い半ばオーバーキル状態で群れを蹂躙していったのだった。
ブラッドバウたちは命いらないの? とか思うのだが、俺の考えとは違い構わず突進してくるので、一千頭ほどいた群れの三百頭ほどは俺達が討伐してしまう。
俺とサクラはほとんど一撃一発で仕留める事が出来るので倒れたブラッドバウは次々にドロップアイテム化していく。
他の冒険者達は苦戦気味、中には一撃で倒す凄腕の人も居たが少人数だった。
そして数時間の狩りが終了した。
他の冒険者達が倒したブラッドバウは三百頭ほど、俺達は二人と二匹で三百頭はあり得ないとか言われたが、軽く流す事にしよう。
普段ゴブリンやオークを大量に倒しているから感覚がおかしいのかもしれない。
誤字報告ありがとうございました。
大変助かっております。




