犬だよ家族だよ!従魔だよ!
ラスターとウインクが俺達兄妹といくら慣れていると言っても、こんな魔獣を簡単に街の中に入れる訳にも行かず現在ラスターとウインクは警備兵や冒険者達に取り囲まれ、魔獣鑑定作業中だ。
「えっとシオン君、この狼は君たちの家族という事で良いのかな?」
イングリッドさんが凄く怖い表情で俺達に質問中、従魔とか家族だとか説明しているが全く取り合ってもらえない。
「サクラさんは犬と言っているけど無理があるだろう、どう見ても狼だ」
イングリッドさんはラスター達と距離を取り近づこうとしないがお説教のように話が続く。
俺は頷いて話を聞いているだけ、怒っている人の話に反論すると余計にヒートアップするから、イングリッドさんが落ち着くまで聞きに専念する。
しかしサクラは家族だよ! と必死にアピール中。
「家族? そんな冗談はやめてくれ、仮に家族だとしても安全なのが証明出来なければ街の中には入れられないし討伐対象になるぞ!」
温厚だったイングリッドさんはキレ気味に話していた。
さてどうしよう困った。
ステータス画面にはラスター達の事が「従魔」と表示されているが、ステータス画面をイングリッドさんにも見せる事が出来ればすぐに解決しそうなのだけど、残念ながらこのステータス画面は他人には見えない。
俺とサクラは家族設定になっているので共有画面でお互いの簡易ステータスを参照する事は出来ても、サクラが持っている自分専用ステータス画面は俺も見る事が出来ない。
「イング、ちょっと良いか」
ヒートアップするイングリッドさんへ、しゃがれた声をかける男がやって来た。
「組長!」
イングリッドさんに組長と呼ばれた人は冒険者組合の組合長で、角刈り銀髪の日本なら60歳位に見えるが、かつて冒険者として活躍したのだろう年齢の割にはしっかりとした体格の男性で悪く言えばヤクザの組長みたいな人が近づいて来る。
「イングよ、今目の前に居る二匹は未確認の魔獣だ、まずは敵対しているのかどうかを判断してみようじゃないか」
組長はイングリッドさんを落ち着かせると、俺達の方へ近づき話し始める。
「ところで、この魔獣の契約主はお前たちか? 魔獣の名前は何と言うのだ?」
「ラスターとウインクです」
軽快に答えるサクラだが多分この場合は違うよ。
「いや種族名で頼む」
エリカさんも二匹を見てブラックウルフと叫んでいた、イングリッドさんはヘルウルフ一点張り、インベイドウルフはマイナーなのか、一般認知されていない魔獣なのかなと思った。
サクラが「インベイドウルフです」と大きな声で言うと、周りで見ていた冒険者達は否定する。
"Invade Wolf……侵略する狼"
黒色の体毛に深い黒赤色の瞳、オスには大きく鋭い湾曲したツノが左右に二本、メスは額に一本生えている。
目が合うだけでも脳や精神が破壊され、遠吠えでさえも人々は混乱し死にいたる。
吐く息であらゆる物体を簡単に溶かし
体液は物体を侵略し対象は溶けて蒸発し消滅する。
強靱な体毛は物理耐性、魔法耐性があり攻撃を通すことが困難であり、高い知能と強靱な肉体を持ちあらゆる障害を排除し侵略する
全身凶器の魔獣。
この話を聞くと父母インベイドウルフってそんな危ない魔獣だったのかと内心冷や汗ダラダラだった。
ラスターとウインクは黒灰色でツノも小さくて可愛いよ。
インベイドウルフについては英雄伝説などの書物や伝記に書かれているだけで若い冒険者達は噂のレベルでしか認知していない。
サクラは二匹をかばうように自分の後に移動させる。
他の冒険者や兵士達から色々な意見が出ていたが、現在ここにいるレベルの冒険者達では判断が出来ない状態であった。
そこへ資料を持って組長が再び現れるとラスターとウインクの事を詳しく調べ始める。
「シオン君とサクラ君だったな、インベイドウルフと言う魔獣はこのような容姿や特徴と魔獣書に書かれているが、その二匹と特徴が違うようなのだが」
俺とサクラは魔獣書に書かれているインベイドウルフのページをよく見て答える。
「この絵は親狼の特徴に似ています、私達も最初に出会った時に恐怖を感じましたが、親狼はこの子達を出産して亡くなり、仔狼は私とサクラが保護し家族として大切に育てました、危険は絶対にありません」
組長は俺の話を聞き考え、二匹の様子を見ていた。
「二匹はまだ子供で……そういう経緯だったのか、俺もこの魔獣が今どんな状態なのか鑑定スキルで見ているが、危険の無い状態だ」
「なぁイング、今は問題無いだろう」
「はい、シオン君達とその二匹が一緒にいる状態では敵意を感じられず……危険な状態ではありません」
組長とイングリットさんは二人で話し合いを進め、しばらくして結論が出ると組長と同行した契約鑑定士による調査が行われ、俺達と二匹は確かに従属契約以上の深い関係である事が証明されたのだ。
イングリットさんは落ち着くと、俺達に対して謝罪する
「シオン・サクラ怒って済まなかった、私達も未知の魔獣で判断が出来なかったのだ」
「危険が無い事がわかって貰えれば問題ありません」
ただし、契約鑑定士もインベイドウルフを見た事無いので種族名の証明は行われていない。
証明が行われた事で冒険者組合にてラスターとウインク用の冒険者カードなる従魔カードが発行された。
俺達は上手にこの世界の字は書けないので、セレナさんに代筆をお願いし、魔獣がレベル鑑定用の石版に前足を乗せると言う前代未聞の行為が行われると申告どおりLV12である事が証明される。
慣れていて危険が無さそうなのでステータス鑑定士によるステータス調査の話もあったが、それは拒否させてもらった。
家族のプライベートまで覗かれるのは勘弁してもらいたい。
今は首輪に従魔カードが識別用にぶらさがっている状態になっている。
かっこ悪いけど仕方ない。
毎回大問題になるのでは色々ストレスたまって本当に問題を起こしかねないし。
Suicaみたいなカードサイズの従魔カードなので、普段は毛並みの中に隠れてしまっているけどね。
できれば他の街には行って欲しくないと組長は言っていたけど、他の街に入る時は組合発行の従魔カードを見せればある程度は信用してもらえる事になった。
ラスターとウインクの二匹はとりあえず街中を一緒に歩く事は難しそうで、ゲート付近にある詰め所の馬小屋内で預かってもらえる事になった。
ただし馬等は気配を察知すると恐怖で全く動かなくなってしまうようなので、ラスターとウインクにはできるだけ気配を消すようにお願いしてある。
お利口な二匹はちゃんと言いつけを守って詰所の馬小屋で大人しくしているよ。
・・・・
馬小屋当番の兵士二人が従魔と聞きラスター達を見物に来ていた。
「おい、これが従魔だってよ」
「副隊長がLV12だと言っていたけどな、LV12じゃ実は弱いんじゃねぇか?」
「お犬ちゃん、ご飯でちゅよ」
兵士の一人が持っていた残飯を放り投げるが、二匹は全く見向きもしない。
「きっと俺達にビビっているんだな、デカイなりしても所詮は飼い犬だな」
鞘付きの剣で馬部屋の仕切戸をカンコンと強めに叩いて二匹の意識を向けようとしたが、二匹は丸まり寝たまま、時々耳がピクッピクッっと動いているだけ。
目の前の兵士に対し完全無視状態が続く。
「おおおう、人間様を無視とはいい度胸だ! 俺が躾けしてやるぜ!」
「おい、やめろ! 副隊長と組長に厳重に注意、監視しろと言われているだろ」
兵士の一人が鞘付きの剣でラスターを突こうとした瞬間だ。
ラスターの目がスッと開く。
目が合った兵士は突然、体感したことの無いような死の恐怖に襲われた。
血の気が引き心臓を鷲づかみにされたような感覚、呼吸すら出来ない。
ラスターからすれば「嫌な奴、面倒だな、どっか行けよ」程度の認識で殺意は全く無いが、その恐怖の気に当てられた兵士はその場で失禁し腰が抜け動けなくなってしまったのだ。
「だっ駄目だ! こいつは化け物だ、ここから逃げるぞ!!」
もう一人の兵士は叫び、失禁した仲間を引きずって馬小屋から逃げていく。
その後、危険魔獣と報告を聞いたイングリッド達は再び二匹の所に訪れるが、二匹の馬部屋の中に兵士の剣が落ちていた事から馬小屋当番をしていた兵士達を問い詰めると、彼ら側に問題行動があったことが明らかになった。
後日イングリッドさんにこんな事があったと報告される。
当時の馬小屋当番は、あんな化け物のそばには二度と近づかないとか…。
そりゃお前が悪いんだよ。
この二匹は凄く強いからね!




