第2話 俺様の初仕事と家出ヌコの事情(2)
次の日の朝だ。
俺様は受付の上でホールの掲示板を眺めてる。今日も臭い人達が次々依頼票をはがして持ってくる。
あのヌコ探しの依頼も誰かが持っていけばいいのに。臭い人達の一人が手を伸ばした。と思ったら手をひっこめた。くそ。
結局、誰も手にすることなく残ってしまった。
混雑が一段落たら赤毛の女の子がやってきた。
「みーちゃん、はい依頼票。せんぱーい、受注処理して下さいねぇ〜」
「はい、はい、残るとは思っていたけど、誰か受注してくれたらよかったのに」
俺様もそう思ってたんだけどな、横から「それはみーちゃんのだ」とか言ってるヤツが居たんだよ。俺様の耳はごまかせねえぞ? 誰とは言わないけどさ。
「先輩は、みーちゃんがお仕事するのに反対なんですかぁ?」
「無理に仕事させなくても、みーちゃんはギルドで世話すれば良いじゃないの」
「そんなイジワル言わないで、ほら受注してあげて下さいよぉ」
茶色の女の人は、ちょっと困ったような顔をして、俺様のプレートに棒のようなのをチョンと当てると、依頼票を機械みたいのに通してハンコをデンッと押した。
「はい、受注完了。それで、だれがみーちゃんをパルケス通りまで案内してくれるのかしら??」
「え〜、そっか。どうしましょう先輩?」
「やっぱり、何も考えてなかったのね・・・ パルケス門まで行く用事があるから、私が連れていくわよ。あなたは仕事に戻りなさい」
「さすが先輩です。よろしく〜」
いつものように頭の上で話が進んで、そのパルケスなんとかまで行くことになったみたいだ。
しばらく机の上で臭い人達が話しかけて来たら尻尾をふって追い払う。今日の俺様はご機嫌ナナメなのだ。
「みーちゃん、おまたせ。それじゃ行きましょう」
茶色い女の人が、俺様をひょいと抱き上げた。パルケス門の先で屋敷に書類を届けるらしい。ヌコ探しの場所で下ろしてくれるみたい。
ギルドを出て外へ。町中を歩くのは今日で二回目だな。歩くのは俺様じゃないけどな。
ヌコ探しの場所は白い壁の大きめの家だった。入り口にオジサンが立っている。
「ハンターギルドの者です。ヌコ探しのご依頼を受けましたのでやってきました」
もちろん、俺様は喋れないから、茶色の女の人が話してくれた。
「早かったのだな、もう少し時間がかかかると思っていたが。確認してくる。しばらく待たれよ」
オジサンはそう言って奥へ入っていった。
しばらくすると、オジサンと一緒に でぶっとした女の人ががやってきた。シローくんと見たアニメの、荒野の魔女を思い出す。
「こんなに早く来てくれるとは思わなかったわ。お嬢さんが探してくれるの?」
普通はそう思うだろうね。俺様が探すと言ったらびっくりしてる。
「本当に? このヌコちゃんが探してくれるの? まあ、素敵!」
茶色の女の人は俺様を下ろすと「よろしくね」と去っていた。
知らない場所で俺様一人、どうやって探せばいいのさ?
ふと見上げると、でっぷりの人がまだ居た。
「にゃ〜ご」
とりあえず鳴いてみた。どうするのさ??
「あなたの言うとおりね。まずはあの子のお部屋へ案内するわ」
なるほど、まずは現場からってな。
でっぷりの人について家の中に入っていく。ふんふんふん、これがそのヌコの臭いかな? 1階の奥の方の部屋へ進んでいく。
「ここがあの子の部屋よ」
でっぷりな人が扉を開けて広い部屋に入る。
すんすんすん、オスっぽい臭いだな。探す事も考えてくれよな。
「この窓から飛び出ちゃったのよ。何かわかる?」
窓枠に飛び乗って、窓枠をカリカリ、開けてくれたので、裏路地へ飛び降りる。
ふんふんふんふん。これだけ臭いが薄くなってると追いかけるのは無理か。でも、どうせ遠くには行ってないだろう。ヌコだからな。
近所をちょっとだけ探してみよう。でっぷりの人に「にゃ」とだけ言って、路地伝いに歩いていく。
そう言えばヌコって俺様と同じ種族なんだろうか? みんな俺様をヌコだと言うからほとんど同じなんだろうか。
お? いい感じの隙間があるぞ? 塀と塀の細い隙間をゴミを飛び越えながら突き当たりまで行く。
壊れたテーブルとかが積まれているから、これを足場に塀の上まで昇る。塀の上からジャンプして、隣の建物の屋根の上へ。
いい眺めだな。屋根の上は結果暑い。煙突の影なら少し涼しいかと行ってみたら、でっかいヌコが居た。
真っ黒な毛並み、すこし濁ったアイスブルーの目が俺様を睨みつける。
「なんだお前、見ない顔だな。新入りか?」
俺様はネコだけどな、ヌコとは話が出来るみたいだな。ネコとヌコ、似てるけどちょっと違うはずだ。
「勝手にオレの縄張りに入ってくるとはいい度胸だ」
こいつはボスヌコか? だとしたら色んな意味で厄介なことになりそうだ。
俺様イエネコは縄張りにはこだわらない。家の人たちが勝手に縄張りを守ってくれるからな。
ここは面倒になる前に穏便に済ませたい
「悪いな、すぐ出ていくからよ。勝負する気はないぞ。家出したヌコを探してるんだ、知らねえか?」
黒猫は俺様をじっと睨みつける。面倒だなあ、もう帰りたい。帰ろうかな。よし、帰ろう。そのまま、振り返って立ち去ろうとした。
「待てよ、お前、最近あの臭い連中のとこに住み着いた野郎か?」
臭い連中ね。やっぱりみんなそう思ってるんだね。俺様は黒猫に向き直った。
「どうして家出ヌコなんて探してるんだ? お前もヌコならわかるだろ」
こっちでもヌコの感覚は同じらしい。ネコと人の関係も似たようなものかね。
「俺様もそう思うんだけどね。人ってのは自分勝手だからな、探す羽目になってしまったんだ」
俺様はちょっと溜息をつく。黒猫はフンと鼻をならして、しっぽをゆらり。
「臭い連中がやってる"依頼"ってやつか? ほっといてやればいいのに」
何か知ってるかな? でも、ほっとけと言うのもわかる。俺様も楽ちんだしな。さて、帰ろうか。
「こら待てよ、もう帰るのかよ」
なにこいつ? もしかして、これがツンデレってやつか。
「いや〜俺様も面倒になってきたんで、帰ろうかと?」
黒猫はしっぽをパタン・パタンと左右に打ちつけて何か考えこんでいる。
「お前が帰ったら、次はあの臭い連中がやってくるんだろう?」
そうなるかもね。今日も依頼票を取ろうした人も居たしな。
「余所者は叩きのめして追い出すところだが・・・あの臭い連中がバックにいるなら やっかいだ」
俺様も臭い人達のグループだと思われてるのか? それはやめて欲しい。抗議しようとしたら、黒猫がのそりと立ち上がっった。
屋根の端へ行って向こうの大通りを鼻先で指す。
「あの大通りからこっちは俺達の縄張りだ。チェルシーの居場所を教えるから、俺達の縄張りに手を出すな。
それと、あの臭い連中の周りは誰の縄張りでもないはずだ。お前の縄張りで認めてやるから好きにすりゃいい。
そんなとこでどうだ?」
臭い人達の仲間じゃないって言えない雰囲気になってしまったぞ。まあいいか、あんまり関係ないだろう。チェルシーってのが、家出ヌコの名前か。
「わかった、それでいい」
「よし、着いて来な。案内してやる」
そう言うと、黒猫は屋根の上を歩き出した。
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