第7話 俺様の誘拐事件とお土産
「それで、みーちゃん、どうだった? 暴れてきたんだろう? ん? うぁ、ちょっと待て」
臭い人が喋りながら顔を近づけてくるから、前足で顔を押し返してやったのだ。今日は機嫌がいいから爪は出してない。それに暴れたのは太った商人の人達だからな。俺様は昼寝しようとしただけだ。
んーと、そうか。わかったぞ、お土産が欲しいのか? 茶色の女の人と商人さんは、いつも紙で遊んでいるからな。小部屋にあった紙束で良いかな。
受付の机の上に、紙束がどさっと落ちる。
「みーちゃん、これはなーに?」
茶色の女の人がそう言っている間に、商人さんがさっと手に取った。今日は素早いな。
「ふむ」とか「ほぅ」とか言いながらパラパラとめくっていく。
「ヌコ様、大変結構なお土産を有難うございます。これでステイン商会をどうとでもできますよ。すばらしい」
茶色の女の人に手渡してから、そう言ったけど、目が座ってるぞ? ちょっと怖いのだ。
「みーちゃん、これはステイン商会にあったのね? 判りにくいけど、仕入の記録と、販売の顧客リスト、販売記録。こんなの取ってきたらダメじゃない」
茶色の女の人に怒られてしまったのだ。まあ、お土産で怒られるのはいつもの事だ。
「お嬢さん、そのリストに”ドラゴン”という品目があるでしょう?」
「ええ、最近の取引ですね。でも、最近のドラゴン討伐はありませんし。他の国からの輸入品でしょうか」
「お嬢さんの仕事なら、”白の薬”をご存知でしょう」
「”白の薬”ですか、あれは傷や病気じゃなくて、特殊な用途で使いますが」
「ええ、そのとおり。あれの強力な高揚感と幻覚作用を娯楽に使う人が居るのです。もっとも、使いすぎて魔物の様になる人もいるとか」
「ご存知でしたか、あれはギルドでもハンター1人に一つしか売れない事になっています。最後に使う薬ですからね。・・・ギヨムさん、つまり、この”ドラゴン”と言うのは」
「闇市場で”ドラゴン”といえば”白の薬”です」
「”白の薬”はステイン商会でも扱えないはず・・・え? まさか?」
「密売品しか考えられません。ご丁寧に仕入先と販売先まで記録するのは商人の性でしょうねえ」
なんだか、難しい話になってきたのだ。この二人の話はいつも難しいからな。
ま、いっか。臭い人にもお土産をあげるのだ。
布の袋が机の上に落ちた。小部屋にあったヤツだ。臭い人はいつも袋を持っているからな。
ん? あれ? 3人が固まってしまったのだ。嬉しいのか、びっくりしたのか。
「みーちゃん!!」
「ヌコ様、これ持ってきてしまったのですか」
お? 反応がいいぞ? 俺様に感謝していいのだぞ、ほら、背中を撫でるのだ。
臭い人が袋を手にとってちょっと匂いを嗅いだ。
「こりゃ間違いなく”白の薬”だな。5kgはありそうだぜ」
商人さんも袋を手にとって重さを確かめている。
「末端価格で金貨500枚程度でしょうか」
「そんなにするんですか?」
「闇市場ですからね。そんなもんです」
三人が顔を見合わせて、ちょっと静かになった。俺様そろそろ寝ていい?
「どうしますこれ?」
「ギヨム商会でこんなものを持っていたら違法所持で捕まりますよ。ハンターギルドなら在庫があるから大丈夫では?」
「そうですけど、厳密に管理されてますから、突然こんな量が増えたら説明できません」
「オレがダンジョンに捨てに行こうか?」
「門で見つかったら捕まりますよ」
また3人で顔を見合わせてから、
「「「うーん」」」
また静かになった。じゃあ、俺様はそろそろ寝ようかなと。
「ヌコ様、これは我々の手に余ります。ヌコ様の収納に隠しておいてくれませんか?」
なんだ、やっぱり気に入らなかったのか。俺様は、前足を前に出してうーんと背伸び。
じゃあ、これはどう? 太った商人が頭をぶつけたデスクだ。
どーんと音がして、ギルドのホールの真ん中に鎮座した。あれ? 案外大きかったんだな。
「ヌコ様これはまさか・・・商会のデスクでは?」
いやちがうよ、俺様が収納したのだから、俺様のデスクだ。そこは間違えたら駄目なのだ。
商人さんは、デスクの上の紙束とか、引き出しの紙束とか引っ張り出して眺めている。またなんか悪そうな顔になってペンで書き写したり。まあ楽しそうだから、よかったよかった。
「ヌコ様、大変良いものを見せて頂きました。これもヌコ様が収納しておいて下さい。私が持っていると盗んだ事になってしまいます」
「これじゃ、完全に泥棒じゃないですか。どうしたら・・・」
泥棒ってのは心外だぞ。獲物を横から取っていくのを泥棒っていうんだからな。俺様が見つけた獲物を俺様が獲ったんだから、これは俺様のモノなのだ。“盗る”と”獲る”の違いは大きいのだ。
「ヌコ様が持っていれば大丈夫ですよ。あちらはヌコ様を自分のものだと言っているのですから。自分のヌコが自分のモノを持っているだけ。何か問題がありますか?」
「すごい屁理屈だけど、そうとも言えますね。でも、みーちゃんがステハンのものじゃ無いという事になったら、盗んだことに?」
「ふふふふ、何を盗まれたと言うのでしょうか、”白の薬”を盗まれたと?
それにお嬢さん、ヌコが盗んだとしても、どこの法律に違反していると言うんです?」
茶色の女の人は「うわー」と言って頭を抱えてしまった。そろそろ寝たほうが良いんじゃないかな。
ん? 商人さんが俺様を見てるけど、もうお土産はないぞ。
「しかし、ヌコ様がこれほどの収納スキルをお持ちとは。正直驚きましたよ。私と行商の旅に行きませんか? 儲かりますよ、魚も食べ放題です」
食べ放題か、それはいいな。でも、旅ってのは遠慮しとく。俺様は前足を舐めて顔を洗うことにした。
臭い人も「やめとけ」と言って手を振ってるしな。
「みーちゃんは、自分の収納に入れたものは、自分のものだと思ってるぜ。ダンジョンに潜る時も水と食料を預けたんだが、いまだに返してくれねーんだ。
それより、みーちゃんの収納スキルはギルドの機密事項だからな。他所で喋らないようにしてくれ」
商人さんは、ちょっと肩をすくめて苦笑い。
「なるほど、覚えておきます。しかし、ヌコ様の収納スキルはあちこちで目撃されているようですよ?」
「そうなんだよな〜 だから変なやつに目を付けられちまう。みーちゃん、ちょっとは自重してくれ」
そんな事を言われても、俺様はネコだからな。人と一緒にされても困るのだ。
顔を洗い終わった俺様は、背中を舐めてグルーミング。
茶色の女の人が いつもの場所に座ったから、膝に潜り込んで丸くなった。
3人はそのまま、また難しい話を続けてるみたいだけど、俺様は寝るのだ。
「・・・それでは、ギルド設備の復旧費用の資料なんですけど・・・」
「うちの商会で見積もったのがこちらです。通信魔道具一式に工事費と年間保守を入れて金貨90枚、ハンター名簿魔道具が2式で金貨100枚。昨年でた最新型になります。ギルドマスター室の結界魔道具設計施工含めて金貨45枚。こちらも最新式の魔法陣で見積もっています」
「ギルドの方からは、業務停止期間の損失補填金で金貨135枚の見積もりが出ます」
本当に難しい話しばかりだけど、小さい声で話してほしいのだ。臭い人はずっと前からイビキ立てて寝てるから静かなんだけどな。
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