第10話 姉 カイカの決断
セイは食卓に突っ伏した状態で、寝息を立てている。
「フフッ」
つい笑みが出てしまった。寝顔は幼い時分と変わっていない。
「おいっ、部屋に運んでおけ」
部下に命じ、セイがかつて使っていた自室に運び込まれるのを見送ると、食卓の椅子にどっかりと腰を下ろす。
『フーっ』軽い溜息が漏れた。妙な疲労感が体を蝕んでいる。
「やはり、あまりいい気持のするものではないな。身内をこんな騙し討ちで罠にかける様な真似をするのは」
後ろに控えるインジに話しかける。
「しかし、致し方ないでしょう。これからのことを考えますと」
その通りだ。別に後悔しているわけではない。これは、必要な一手のはずだ。こうでもしなければ、計画の全てが破綻してしまうかもしれない。祭りの三日目、この日に全てを滞りなく済ませなくては。
ヨークを王都に呼び、標的を探させたあの日、すべてを決断したのだ。もう後戻りはできない。前に進むしかない。
あの日、報告に帰って来たインジによって、打ち倒すべき敵の全てが明らかになった。その報告を聞いた最初の感想は「これは面倒なことになった」だった。
敵、それ自体は想定の範囲内と言っていいものであったが、しかし、このまま事を起こせばセイの存在が障害となることは明らかだったのである。
「全てが終わったら、セイに恨まれることになるかな、インジ」
そう問うと、
「どうでしょうか、セイ様も聡明でいらっしゃいます。それにこれは王国の為、ひいてはセイ様の為にもなりましょう」
そうかな。そうなればよいが。
計画本番は明日であるが、事を起こすといっても、ほとんど私が行うべき仕掛けは終わっているといってもいい。あと、私がするべきことと言えば、とある馬鹿貴族を祭り最終日に王都中央、王城の近くにある大舞台で行われる見世物の大会へと確実に連れ込むことぐらいだ。
まぁ、王の御前での催しだ、貴族たちはこぞって繰り出してくる、何も難しいことはない。明日、ヨークが使うべき道具はすべて揃えて隠してある。銃や剣などインジに預け、所定の位置へと運んでいるはずだ。
ヨークも既に王都内へ潜り込んでいる。祭りの初日に会った時にはなかなか愉快なものを見せてもらった。あれならば、今回の計画に問題はないだろう。
更に、あちらこちらに裏から表から手を回し、八方手を尽くした。よもや失敗はない。おそらくは。
舞台も、役者も整った。つまり、後は彼女がいい仕事をしてくれるのを期待するのみである。
しかし、仮にすべてがうまくいっても、頭を悩ませることがある。それは勿論、セイのことだ。すべてが終わった時、セイは必ず私のもとを訪れるだろう。なんと言って説明すべきか。
「はぁ、後のことを思うと頭が痛いな」
インジに笑いかける、
「しかし、長年待ち望んでいた時です」
そうだ、今回の計画、たとえセイに許されなかったとしても、この日の為に、チョウが死んだあの日から研鑽を積んできたのだ。それに報いなくてはならない。
何よりもう事態は動き出している。立ち止まることなど出来ないのだから。




